和製切り裂きジャック

＃６－３

　その後の掲示板上では、朽木キリと知り合った経緯の説明と、援交募集相手の探し方の情報交換が、『やり方教えてください　オナシャス』『>>53　こいつすげぇ変態だぜぇ？』『野獣先輩朽木キリ説』など、ゲイビデオ生まれのネットスラングを交えて行われていた。
　一応その方法を乗せておくと、TwitterなどのＳＮＳで援交相手を募集する投稿を探し、その人が公開している出会い系サイトや動画投稿サイトなどのログインＩＤを使ってアクセス。顔や体系なんかをそこで確認し、実際の援交のための時間やお金の打ち合わせを電子メールやLINEなどでするのだ。
　別のサイトで裏を取ってみたところ、この手の動画には裸の映像のダウンロードを強制するものもあるため、見ようとしただけで犯罪になってしまうこともあるのだとか。さすがに私もそんなリスクを冒す気にはなれなかった。それ以前に、誰と出会えるかわからないのだから、被害者や犯人について何か情報がつかめるという保証もない。
サイト上の大方の文章を読み終わったところで、私はパソコンの画面を落としてベッドに寝っ転がった。数十分しか画面を見ていなかったはずだが、何時間もかじりついていたみたいな疲労感が込み上げてきた。そのくせ得られた新情報はそこまで役に立ちそうにないのだから、消化不良な感じが非常に強い。
　とりあえず、今回の事件が和製切り裂きジャックに便乗した別人の犯行でなければ、私が思っていた和製切り裂きジャック像は間違っていたことになる。私は今まで、和製切り裂きジャックは若くて容姿が優れた女性を狙って猟奇殺人を繰り返す男だと思っていた。だが実際のところはそういうわけではなかったのだ。殺して死体を無残にして、人々を震え上がらせて警察が困惑している様をどこかで見物できさえできればいい。殺す相手は誰でも構わないというわけだ。三人の被害者を見るに、力の弱い人物に絞ってはいるみたいだが、それ以外にこだわりはなさそうだ。
　この得体の知れない殺人鬼の犯行は、まさに私がネット上で見てきたシリアルキラーたちの犯行とリンクしていた。今回の事件では警察をバカにするような声明文を残し、実際に警察組織の結束に少なからず影響を与えているようにも見えてくる。メディアでもそのまま公開された声明文は、『組織』の『織』の字が『知識』の『識』の字になっていたり、句読点を一切使っていなかったりと、それこそ知性も何もないような文面にも受け取れた。でも私はこの文章に、それこそ子供みたいな挑発をわざとかますことで相手をコケにしている様を見ることができた。そこまで計算しているとすれば、和製切り裂きジャックは相当頭のいい人間かもしれない。三回も犯行を実行しているにもかかわらず、足跡一つ残さないところもそうだ。東大とか早稲田みたいなめちゃくちゃ頭のいい大学を卒業したインテリ。完全犯罪一歩手前の犯罪をいくつも研究した勉強家。そんな人物かもしれない。
　想像が膨らむ。和製切り裂きジャックがどんな人間かを妄想するだけで、退屈な春休みがつぶせそうだった。