和製切り裂きジャック

九十九光

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プロローグー1

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#プロローグ(一人称)


 二〇二八年の秋頃(この本の初版発行のほぼ一年前)。私と増田レン氏は東京から長野県小海市に向かって、黒いバンで高速道路を走っていた。運転手は去年イクメン小説家として名をはせたSF作家が担当している。私も免許は持っているのだが、「運転してもいいけど、最後に乗ったの、大学一年の時に受けた仮免卒業の実技の時だよ」と説明したところ、「じゃあ僕が運転する」と、増田氏は長距離ドライブを引き受けてくれた。
「ゴメンねー。今一番心配な時期なのにー」
 助手席に座る私は、法律上八十キロ以上で走行するのが当たり前の道をビクビクすることなく運転する彼に声をかける。
「大丈夫だよ、別に。産まれてくる子の学費にちょうどいいって喜んでたよ、今回の話」
 増田氏は視線だけ運転に集中させながら返事をした。
 この本は、私が書く一人称のパートと、増田氏が書く三人称のパートに二分しているという、なんともおかしなノンフィクションだ。最初は三人称含めて全部私一人で書こうとしたのだが、「三人称なのにあなた個人の勝手な思想が強すぎる」と担当の編集者にダメ出しを食らってしまった。それで私のギャラの大幅カットと引き換えに、私が推薦した増田氏に白羽の矢が立ったのである。
 説明が遅れた。この本は、二〇一七年に名古屋で起きた、とある連続殺人事件を、私の実体験を交えて書き綴るノンフィクションである。私たちは今、その最後の取材のために小海市に車を走らせているのである。
「ずっと疑問に思ってたんだけどさ」
 増田氏が視線だけ正面に向けながら、私に一つの疑問を投げかけた。
「湯浅さんって、昔から、殺人事件とかシリアルキラーとか、大好きだったじゃん」
「そうだね」
「どうしてそんなものが好きになったの? 普通、この世からなくなればいいのにって思うのが普通なのに」
 彼の価値観が普通の人間と相違ないことを示す、とてもわかりやすい質問だ。
 そういえば答えたことなかったなと思いながら、私は彼の言うような一見不謹慎な興味関心を身につけた経緯を説明した。
「まず、普通のものに興味をなくしたのは、小四の時かな……」
 そう、私は人生の八分の一に差し掛かった時期には、すでにそんなひねくれた考えを持つようになっていたのだ。
 いつもと同じ時間に起きて、いつもと同じような朝ご飯を食べて、いつもと同じような服を着て、いつもと同じ赤いランドセルを背負って、いつもと同じルートで学校に行って、
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