Night Sky

窓を見たら外は春先ー７

「ゆっくり話したいって、何です？」

　ベンチに座った遊大が大樹に尋ねる。大樹はブラックコーヒーを一口口に運ぶと、「グラウンドで話したかった、俺とお前の夢の話だ」と切り出した。

「ユニゾンで人を笑顔にする。みんなお前のその夢を聞いて唖然としていたが、俺はそうは思わなかった。俺も突拍子もない夢を持ってるからな」

「突拍子もない夢って？」

「異形型のユニゾン持ち史上初の特級兵士になることだ」

　大樹はコーヒーの缶を握りしめ、自分の過去について語り出した。

「妊娠中のお袋のエコー検査で、俺が目が３つで腕が４つと分かった瞬間、親父はお袋の通院を禁止した。俺は産婦人科じゃなくて福岡のアパートの一室で産まれた。親父は俺が怪物みたいな見た目だったことを気にしていたんだ。戸籍の登録もせず、家から出すことも禁止した。お前はどうしてそんな見た目なんだと、毎晩毎晩親父に暴力を振るわれた。よくある異形型への差別を親父は自分の子供にしたんだ。でもお袋は違った。俺に優しく接してくれた。テレビや絵本で色々なことを教えてくれた。親父の目を盗んで実際に外出もさせてくれた。事件が起きたのは、俺が５歳の時だった。俺とお袋が乗った高速バスが横転する事故が起きたんだ。最初はパニックになって、動かなくなったお袋の体を揺すった。でも車内からは、熱い、痛い、助けてと、他の乗客の声が聞こえてくる。そのあとの事はよく覚えてない。目撃者によると、俺が何度もバスの中と外を行き来して、すべての乗客と運転手をバスの外に引きずり出してたらしい。お袋を含めた半数近くが死んだが、焼けて身元が分からないという犠牲者は出なかった。その後、それを知った軍の上層部が、俺のところに来たんだ。君は兵士の才能がある。軍が全面支援するから兵士になるんだ、と言われた。そのあとは戸籍を登録し、親父との縁を切り、福岡で訓練を積んで中等部から関東支部に配属された。その間に知ったよ。俺のように、持って産まれたユニゾンが原因で悲惨な人生を歩まざるを得なかった人間が大勢いることを」