Night Sky

九十九光

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窓を見たら外は春先ー6

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 大樹が息を整える。そして咳き込み始め、その場で膝をついた。

「少々……、やり過ぎてしまったか……」



「うん。君はどこも異常ないね。すぐにその場を離れたのが幸いしたね」

 事件発生から3時間後、遊大は最寄りの大学病院で検査を行い、体内にキノコが生えていないことが確認された。

「他の皆さんは……」

 遊大は診察を担当した医者に質問する。

「現場のグラウンドにいた人のほとんどが重症。レントゲンとったら気管支や肺の中がキノコまみれ。そのキノコ自体に異常性や毒性がないのがせめてもの救い。手術して1ヶ月も安静にしてれば退院できるだろう」

 医者はフランクに答えた。その顔を不安げに見る遊大は、次の質問をした。

「緑川さん、緑の肌に4つの腕、3つの目の訓練生は……」

 遊大はそれだけが不安だった。

 彼は察していた。大樹が遊大を通報に向かわせたのは、足の早さを買ったからだけではない。年下の自分に無理をさせないためだと。いくらマスクをしていても、完全に胞子を防げないことは承知していた。だからこそ、あの場で一番無茶をした大樹が心配だったのだ。

「ああ、あの彼ね」

 医者はフランクな姿勢を崩さず、遊大の質問に答えた。

 それから10分後、遊大は同じ病院の呼吸器科の病棟の一室にいた。そこにはベッドに腰かけ、スマホをいじる大樹の姿があった。

「経過観察で1日入院だけで済んでよかったですね。ほとんどの人が重症って言われてたのに」

 遊大が開口一番に言ったのはそれだった。

「俺は見た目だけじゃなく、内臓も並みの人間より丈夫にできてるからな。でもお前がくれた上着のマスクがなかったらただじゃ済まなかった。ありがとう」

 大樹は立ち上がると病室の出入り口に向かい、「何か飲むか?」と遊大に尋ねる。「いいですよ、お金出さなくて。悪いです」と返す遊大だが、「おごらせてくれ。ゆっくり話がしたいしな」と大樹は譲らない。結局遊大は大樹とともに病棟の共同スペースに行き、自販機のアイスココアを買ってもらった。
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