Night Sky

心が悴む前にー１

「灰色です。失礼します」

　関東支部の支部長室の扉をノックする仁。すぐに扉の向こうから、「入れ」と女の声が返ってくる。

　仁が中に入ると、白と黒のゴスロリ衣装を着た中学一年生くらいの見た目の支部長がソファに座っていた。テーブルにはカラフルなマカロンが山盛り乗っている皿と、スターバックスのグランデサイズの入れ物がある。

　この人物が大日本ユニゾン訓練兵団関東支部の支部長、五反田佰年(ゴタンダ　ヒャクネン)である。見た目はどう見ても子供だが、れっきとした53歳である。

「今日はスタバで何買ったんですか？」

「キャラメルマキアートのキャラメル多め。それよりすまんの。こんな朝早くに呼びつけて」

　仁は気にしていないことを伝えると、佰年と向かい合う形で座る。

「話というのは、先日の革命隊の特攻隊の侵入についてですか」

　仁が切り出す。

「ああ、男の身分は警察の捜査で分かった。名前は木野子森蔵(キノコ　モリゾウ)62歳。ユニゾン名はマッシュルームマザー。お前の管轄の緑川の予想通り、頭のキノコから付着と同時に急生長する胞子を撒き散らすユニゾンじゃ。尿検査で、筋力増強や痛覚遮断の効果がある未知のドーピング薬をこれでもかと飲んでいたことも分かった」

「未知の薬品ですか……」

　仁が両手を組んで額に当てる。

「問題は、奴がユニゾン革命隊の戦士を名乗ったことじゃ」

　佰年が語り出す。

　ユニゾン革命隊。法律で規制されている一般市民のユニゾンの自由行使と３歳で行う児童の選別行為、国の根底にある異形型ユニゾンへの差別撤廃を訴えて活動するテロ組織である。時に民間人にも危害を加えるこの組織は、国がマークしている危険な組織だった。

「奴らの最終目標は確かに現行政府の打倒。だが今までは削除覚悟でSNSに動画を出したり深層ウェブで宣伝をしたり、地方の治安維持組織を襲ったりする程度だった。今回のように東京の軍の施設を襲うことなど前例がない。ましてや未知の薬品を使い、厳重なこの施設のセキュリティを破る科学力。今までのユニゾン革命隊じゃないのは確かじゃ」