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eスポーツ部誕生

51 校長室

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 速人から提出されたeスポーツ部員名簿を持って、佐藤は校長室へ入った。
 校長室は隅々まで掃除が行き届いており、机や床は顔が映るほど磨かれている。部屋の装飾はシンプルで壁側に大きな書棚と観葉植物が一つ。几帳面な荒波の性格を表すように机の上には余計なものが一切なかった。

「校長、eスポーツ部員名簿を持ってきました」

 佐藤はそう告げると名簿を手渡した。校長は受け取った名簿をしばらく見た後、ゆっくりと口を開いた。

「ほほう。奇しくも1年1組から5組まで1名づつ入っていますね。特進クラスの安部真理亜さんが入部しているのは驚きました」

「はい、eスポーツ部、電算部の両方に所属してもらうことで落ち着きました。電算部としては彼女を実績作りのために逃すことはできませんので」

「そうですね。入試一位で新入生代表の挨拶をしていただいた学校の顔ですから、よろしく指導お願いします」

「はい、分かっております」

「ところで、スポーツ推薦の5組の生徒までも入部したのにも驚きましたよ」

「5組の坂野は足を故障していて、松葉杖を使っている生徒です」

「あぁ、彼でしたか。サッカー部顧問の田中先生が折角有望な選手をスカウトできたのに、入学前に足を痛めてしまい戦力になりそうもないと嘆いていましたね」

「彼にとっては、新しい目標ができて良かったんではないかと思っています」

「なるほど、その通りかもしれませんね。それから、部活最低人数ぎりぎり5名とはいえ、本当に期限内にメンバーを集められた光田君はなかなか大したものじゃないですか。募集をかける時期が遅かったので、期限内に集めるのは無理じゃないかと踏んでいたのですけどね」

「その光田に関することなんですが、これを見ていただけますか?」

 佐藤はそう言うと、1枚のプリントアウトした用紙を校長に渡した。

「何ですか、これは?」

「新入電算部員全員にやらせた『プログラマー適正検査』の結果です。スピードと正確さを必要とするIQ検査に似たテストで、プログラマーに対する向き不向きを概ね判断が可能です。もちろん本人の努力次第で伸びる可能性は否定できませんが」

「どれどれ……。おっ、やはり安部真理亜さんが100点を取って一位ですね」

「この検査は70点以上ならAランクとなり、プログラマーに向いていると判断できます。新入電算部員の平均点は72点だったので、かなり粒揃いと言えるのですが、安部の100点は尋常ではありません。なにしろ私が以前専門学校で教えていたときの歴代最高点は94点だったんです」

「と言う事は、彼女は特別に優秀だと言えますね」

「確かにとんでもなく優秀だと思いますが、彼女なら納得できるのです。しかし、光田が……」

「おっ! 98点も取っているじゃないですか」

「そうなんです。1問間違えただけなんですが、その1問と言うのが……」

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