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eスポーツ部誕生

45 4人目の部員1

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「おい、君たち、暴力は駄目だよ、暴力は」

 全く翔らしくない口調だった。
 速人が掴み合っている生徒は翔の方を見ると、にらみを利かせ言った。

「うるせー。お前もやるのか?」

「いや、暴力はいかんと思って……」

「関係ないヤツはすっこんでろ」

「とりあえず、落ち着きましょって」

「俺はな、こいつに恨みがあるんだ。こいつさえ、いなかったら……」

「そんなの、足の悪い人に暴力を振るう理由なんかにならない! 君は間違っている」

 速人が相手の服を掴んだまま叫んだ。

「うるさい、何にも知らんくせに、黙っとけ。こいつのせいで、ツレは試合にも出られなかったし、推薦入学もできなかったんだ」

「そんなの、本人の実力だろ。実力さえあれば試合にも出られただろうし、推薦入学もできたはずだ」

「そんな簡単に割り切れるかよ。こいつは足が悪い事を隠して推薦入学してるひきょう者や。まともに歩く事もできない障害者のくせに」

「障害者を悪く言うな!」

 速人はありったけの力で相手の生徒を掴んだまま押した。一歩だけ後ろによろめいた生徒が速人の手を払い、右のこぶしで速人の顔面を殴った。

 バッゴン!

 速人はそのまま転がった。

「お前、しつこいからそうなるんだ」

 速人は生まれて初めて本気で人に殴られて、ショックを受けていた。しかし、不思議と痛みは感じなかった。人に殴られた事の現実感がなく、まるで夢の中の出来事のように思えていて、次に何をすれば良いのか思いつかず倒れたままだった。

「いい加減にしろ! 俺に文句を言いたいんだろ」

 坂野は松葉杖を使わず片足だけで立っていた。

「そうだ。お前には文句が一杯ある。お前さえ転校してこなければ、あいつは試合に出られたし、試合に負けなかったかもしれない。足の怪我を隠して推薦入学しなかったら、あいつが推薦入学できたはずだ。何もかもお前が狂わせた」

「すまん。推薦のときは、足はすぐに治ると思っていたんだ」

「はぁ?! 怪我を隠していたのは事実だろ。お前は嘘をついて推薦入学したんだよ」

「……」


「先生、こっちです。早く早く!」

 廊下から真紀の声が聞こえた。

「こらー、お前ら何している!」

 教師の声が聞こえると、速人を殴った生徒は走って逃げだした。教師が到着した頃には、もう姿が見えなかった。

「何があったんだ?」

 教師が坂野に聞いた。

「ちょっとしたいざこざです。ご心配かけてすみません」

「問題を起こすんじゃないぞ」

「はい、気を付けます」

 坂野が教師の対応をしている間、速人は下駄箱の陰に身を潜めていた。教師が到着する直前に隠れた。自分が殴られた事が表ざたになると大事おおごとになると思ったからだ。
 教師が立ち去ると坂野が言った。

「もう出てきてもいいぞ」

「ごめん、隠れてて。体は大丈夫?」

「それはこっちのセリフだろ。お前、口に血が付いてるぞ」

 速人の口にはうっすら血が滲んでいた。手で拭って、血を確認すると

「あっ! 血、血が……。痛い、痛い。急に痛くなってきた」

 速人はパニックになった。さっきまで興奮状態のため痛みすら感じていなかったのだが、血を見た瞬間に現実に引き戻され痛みを実感したのだ。しばらくの間、「痛い痛い」と言いながらのたうち回っていた。

「お前、なぜ知り合いでもない俺をかばったんだ?」

 速人は口を押えながら答えた。

「僕の父は足が不自由なんだ。だから障害者を馬鹿にされて、ついカッとしてしまったんだ」

「そうか。お前、見かけによらず、すぐに熱くなるヤツだよな。昼休みの時もそうだったし……」

「あっ! そうだった。昼休み迷惑をかけてすみませんでした」

「ま、良いって事よ。これで貸し借り無しだな」

「そう思っていただけるならうれしいです」

「入ってやるよ」

「えっ?!」

「eスポーツ部に入ってやるよ。人が足りないんだろ?」

「でも、サッカー部なんでしょ?」

「ま、この足じゃ、もうサッカーできないしな。ゲームの事全然知らないけど、入れてくれるだろ?」

「初心者大歓迎です。喜んで部員として向かい入れますよ」

 こうして4人目の部員が決まった。


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