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eスポーツ部誕生

42 昼休みの勧誘2

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 3人は、スポーツ推薦クラスの5組へと向かった。
 それまでもクラスとは違う雰囲気であることは容易に想像がつく。体育会系のクラスであり、早朝練習のある部活の生徒は、授業中の居眠りも黙認されるらしい。3人ともあまり見込みがないことは感じていたが、後2名の部員を見つけるには藁にもすがるつもりで挑んだ。
 教室に入ると、すぐに賑やかで明るい感じがしてくる。生徒一人ひとりがエネルギッシュなのだ。一人きりでスマホを見つめている生徒はほとんどいない。
 真紀が教室に入った事に気づいた生徒が声をあげた。

「なんか、可愛い子が来たで。誰の知り合いや? 俺に紹介してよ」

 軽いノリだ。ただ、本気ではなく冗談と分かる言い方だった。
 真紀にもそれは伝わって、笑顔で軽く会釈を返した。
 速人たち3人の正面に松葉杖を突きながら長身の男子生徒が向かっていた。特に3人に用事は無く偶然こちらの方へ来ていたのだろう。
 身長は180センチ程度で、肩幅も広くがっちりとした体形だ。スポーツをやっていたのは間違いないので、おそらく足の怪我か故障のため松葉杖をついているのだと想像できる。

「あっ、坂野さかの君。足はまだ悪いの?」

「ああ、まだ治ってない。えっと、マキダだっけ?」

「違うよ。原田です。原田真紀!」

「あ、そうだったか。すまん」

 松葉杖の生徒は無愛想にそう言い、通り過ぎた。

「今のも真紀ちゃんの知り合いか?」

「そう、クラスは違ったけど、同じ中学出身だよ」

「ずいぶん顔が広いね。あちこちに同じ中学出身の知り合いがいるね」

 あまり友人が多い方でない速人は、少し羨ましく思った。

「同じ中学からは5人ぐらい入学しているけど、知り合いはこれ位だよ。坂野君はサッカー部で活躍してて、同じクラスの女子が彼の事好きで……。あっ、余計な事、言っちゃった」

「ま、俺ほどじゃないけど、モテそうな感じはするな」

 翔がふざけた口調で茶化した。翔が今まで彼女がいなかったことを知っている速人はクスッと笑った。
 3人が教壇に立つと速人が声をあげた。

「皆さん、ちょっと聞いてください。僕たちはeスポーツの勧誘にきました」

 教室が静まり返り、視線が速人に集中した。
 するとすぐに一人から野次があった。

「君ら、ここスポーツ推薦クラスだよ。みんな何かの部活に入っているに決まっているじゃないか」

『やはりそう来るよな』と速人は想定通りの反応が返ってきたと思った。
 その後、一通り部活の説明をしたが、反応は悪かった。
 よく日焼けしていて、丸坊主の男子生徒が言った。

「eスポーツと言っても所詮しょせんはゲームじゃん。スポーツなんて言えんでしょ」

 この言葉に速人がかみついた。


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