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eスポーツ部誕生

6 自室

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 速人は自宅に帰るとそのまま自室にこもった。
 速人は父と祖母の三人ぐらしだ。
 自室には一台のデスクトップPCが置いてあり、その周りにマンガ本やアニメキャラクターのフィギュアが並べてある。祖母はこの部屋があまり勉強をする環境とは思えず、デスクトップPCだけでも部屋から撤去しようと考えていた。しかし、父親はPCに関して寛大で、きちんと勉強と遊びをオン・オフできるなら自室にPCがあっても良いと言ってくれたので撤去されずに済んでいる。
 いつもならLoLを楽しんでいる時間なのだが、PCの電源もつけずに今日の事を振り返っていた。

 速人は電算部の皆が本当はゲームをやりたいのに部活のルールだから仕方なく、資格の勉強やプログラミングの勉強をしていると思っていた。もちろん、真理亜のように資格取得やプログラミングを本気やっている人もいるだろうが、それは少数派で大多数がeスポーツをやる事に賛成してくれると信じていた。しかし、これほど否定されるとは全く予想していなかった。

 ひょっとしてeスポーツって超マイナーなものでしかないのか?
 いやいや、海外ではプロゲーマーがプロスポーツ選手と同等以上の人気があるというし、日本においてもテレビや雑誌でeスポーツが頻繁に取り上げられているじゃないか。きっと電算部の連中が変わっているだけで、他の生徒はきっと飛びついてくれるはず。
 
 そう自分を納得させていた。
 そんな事を考えていると、玄関の方から声が聞こえてきた。

「ただいまー」

 父、勇人ゆうとの声だ。勇人は帰ってくると決まって速人の部屋をのぞいていく。
 いつものように速人の部屋のドアを開けて、次の瞬間言った。

「あれ? いつものやってないじゃない。早く帰ってこれたし、久しぶりに一緒にLoLをやろうと思ったのに……」

 勇人は、小学生の頃にファミコンに夢中になって以来、新しいゲーム機が発売されると次々に購入していったゲーマーだった。
 自宅には、ファミコン、スーパーファミコン、N64、PS1、PS2、PS3、PS4が揃えられている。勇人が今まで愛用してきたゲーム機だ。 
 ただ、PS3が発売された頃から家庭用ゲーム機だけではなく、PCゲームもやるようになって、主に海外ゲームを中心に楽しんでいる。

「おばあちゃんにゲーム禁止とでも言われたか?」

「違うよ。今日はちょっと考え事があって、やってないんだ。」

「考え事って、ひょっとして女の子の事か? 相談にのってやるぞ」

「全然関係ないから。さあ、行って行って」

「はいはい、分かりましたよ」

 そう言うと、ひょこひょこと右足を引きずるように歩いていった。
 勇人は三年前に交通事故にあい、右足の膝より下を切断して義足をしている。しかし、今では杖がなくても歩けるようになっていて、義足である事に気づかない人もいるほどだ。
 歩く事に関して膝の関節は重要である。膝の関節を含んだ義足もあるが、杖なしで歩のは困難であり、勇人は膝だけでも残ったことに感謝していた。
 速人は勇人が立ち去った後、eスポーツ部募集の方法を考え始めた。

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