年下の彼

桜花

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ガチャガチャッ。

「おじゃましま~す…。」

「なんでそんな声小さいの。」

いつも人を笑わせてばかりいる彼が、
すごく控えめにドアから半身だけのぞかせているのが何だか可笑しかった。

「いやだって、アイツに悪いじゃん?なんか…。」

「そう?別に友達なんだし、よくない?」

彼はカレの友達だから、私の友達でもある。
だからなにもやましいことなど無い。

彼をリビングへ通して、私は寝室へ。

「ハイ、これ着替えね。」

「やっぱり白シャツじゃねぇかよ~!」

「だって腐るほどあるんだもん、大きめの探しといたから多分着れるでしょ。」

カレは極度のめんどくさがり屋で、毎日白い服を着ている。
それはTシャツだったりスウェットだったりシャツだったり、
種類はいろいろあるんだけどね。

コーデがめんどくさいんだって。

私も毎日服考えるのが苦手だから、
そういうところで気が合うのかも。

「洗面所は…あっ、ごめっ…。」

私は咄嗟に顔を背けてしまった。
彼は受け取った服をその場で着替える最中だったからだ。

え、普通どっちかが部屋移動するよね!?
私は久々にカレ以外の肌を見て、少したじろいでしまった。
そんな自分が恥ずかしい。
いや、何を恥ずかしがっているのか。
仮にここがプールだとしたら普通の光景じゃないか。

「なによ~、エッチ♡」

ほら。
年下の彼はいつも通りおどけて見せた。
私の動揺が気づかれていないことを祈るばかり。

「濡れた服、乾燥機かけるから貸して。」

私が手を伸ばすと、湿った衣類に温もりが混じっていた。
彼の手が、触れている。
私が視線を上げると、その大きな体を少し丸めてじっとこちらを見ている。
…ような気がした。

なぜなら彼は普段から人の目をよく見て話す人だから。
触れた手も偶然で、この視線もいつものこと。
そう自分に言い聞かせているのに、なぜだかそのまま体が動かなかった。
彼の切なげな視線に、釘付けになってしまったのだ。

どれだけの時間が経ったのだろう。
実はほんの数秒なのかもしれない。

しばしの沈黙が二人を包んだ。

ブー、ブー、ブー…。

机に置かれたスマホが光る。
画面にはカレの名前。

私はハッと我に返り、彼から衣類を素早く受け取った。
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