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しおりを挟むひーろーはいない
だってこんなにちをながしてるのに
たすけにこない
ないても
くるしんでも
よんでも
こない
解ってはいたのだ
それでも無いものにすがりつきたくなるほど
求めていた
無駄であったが
小説の比喩で『吸い込まれるような』とあるが成る程あれはこういう眼のことなんだなと妙な感心をしている横で谷村が話す。
「あぁ、やっぱし桐沢のだったのか。あのな俺らで駄弁ってたら音楽が鳴り出してもしかしたら誰かの忘れ物かもしれんと思って3人で探して見つけたんだよ。勝手に触ってすまんかった。だからこいつの事は許してくれ」
ポンと肩に置かれる手。確かに大して仲が良いわけでは無い奴にプライバシーの塊を触られたら僕なら一生抜け毛が収まらない呪いをかける。ガチで。
「勝手に触ってごめん」
頭を下げて差し出したスマホはバッと横に殴られるように手の中から消え残ったのは衝撃の余韻。うんピリ辛級と辛さで例えている間にドタバタと教室から出ていく音が聞こえたので頭を上げた。スマホの持ち主で桐沢は居なくなってた。
「何あれ感じ悪ぅ」
そう毒づく矢車に宥めにはいる谷村。
それにしても
「あのさ桐沢って何時もあんな感じだったけ?」
あんまりというか同じクラスになって会話したこと無いけど、あれほどまでに感情を行動で表せる女子ではなかったはず会話した記憶は無いけど。大事な事なので。
「にゃひいなひょうはきがんんるん?」
「谷村、日本語プリーズ」
まあ矢車に両頬を引き伸ばされてたらそうなるわな。矢車今時バイオレンス系ヒロインは流行らねぇぞと言えば眼にも映らぬ速さで鼻フックを極められたフゴーフゴー!!
ブヒブヒ(しばらくお待ち下さい)
「で?桐沢の普段の態度だっけ。言われてみれば普段静かな、大人しい態度から考えてみればアレは爆発ね」
両手をグーパーしてドッカーンと付け加える矢車に同意して谷村は首を傾げていた。
「だよなぁ。どっちかというと人間関係に波風処か波紋さえも起こさないタイプと見ていたんだが、よっぽど虫の居所が悪かったかスマホを触られたくなかったのどっちかだろうな」
もしくは
両方
言わないけどさ
「そういや俺の代わりにプリント運んでくれたんだよな、ありがとう。ホント腹具合がやばかったんだよ。何というか山脈からの濁流みたいな」
「やめなさい想像しちゃうでしょうが」
「えっ、想像妊娠?」
教室に汚ねぇオブジェが製作される真っ只中僕は下校する事にした。製作者である矢車に声をかけたが一心不乱無我夢中だったので返事はなかったよ。谷村?物語風に言えば良い奴・・・ではなかったなぁ、うん、いやホントに。
学校を出る頃には日が沈みかけ紫色の空が覆っている。誰もいないひび割れたアスファルトを歩いていく等間隔に設置された年代物の街灯に照らされ人影が出来ては消えていきそれを九つ繰り返したところで、ん?となった。
紫色から紺色に塗り変わり出す空。 ジジッと働き過ぎなんだとアピールしてくる街灯と反比例して灯りどころか物音一つ無い新しい家々が並ぶゾーンは中古物件として列を並ばせてる、変わらない普段通りの帰宅中。
なのに どうして こうも
違和感が拭えない
微かなものかもしれない或いは捨て去ったはずの思春期特有の精神麻疹が再発してしまったのか?それなら家に帰宅して枕に顔埋めて叫んでれば軽減されるからいいんだけどさ。治らないのは男はいつまで経ってもチューガクニネンセーだからだ。
と、まあこうして脳内でおふざけしている間にも違和感は拭えない消えない
それどころか濃くなっていき、薄ら寒いものが全身を包んだので歩く速さを変えた。離れた、それでも視認出来るレベルで灯りが集まってる区画まで行けば違和感は取り除かれるだろうと願って。
徒歩十分にも満たない。たったそれだけのはずなのに長く遠く、辿りつく気がしないのはやベェ。多感なお年頃ボーイはとうの昔に過ぎ去ったあるいは地中よりもマリアナ海溝よりも深く沈めたはずなのに。どうやら過去は変えられないというのはこういう事を指すのだなと先人達の教えを無下にした過去の自分に助走してからの右ストレートをぶちかまさなくてはいけないと反省したところで音が鳴る。僕はそれに振り向く━
━ことなく、それはもう野太い悲鳴をあげた
遠くで鳥の群れが鳴きながら一斉にバサバサと飛び立つ。
ビックリした
ビックリした!
ビックリした!!
ビッk
「うるさい」
心臓が止まった二秒。いや止まったら死ぬんだけどさそのくらいビックリした。先程の物音よりも。今度は振り向く。
ゆらり、ゆらりと蠢く黒は過労気味の街灯に近づき姿を現す。
生気の無い眼、痩せこけた青白い頬に喉仏迄きた悲鳴を出そうとして、堪えた。先刻顔を合わせた人物、桐沢が街灯のもとにたどり着いた。
目の前に揺れながら立つ線の細いクラスメイトは、見た目から想像出来ない勢いで教室を出てそれっきりだったはずなのだが、どうしたわけかこの場に居る。あの急ぎ様からして大事な用件なんだろうなと思ってたんだか違ったのだろうか?あるいは用件が済んだのか?なら何故、どうして、ここに居る?ああ、いや、前提が違うのか。桐沢が教室を出たのは僕にスマホ触られたから。うん自分でいうのもアレだけど、正解なら結構凹む。小学生の頃腐る程眼にしてきた光景、瞼を閉じれば親の顔よりも容易に思い起こせる光景は登場人物が変わっても同じ結末となる。
あっ、いや一つは違ったな
どちらにせよいい気分にはならなかったけど
「見た?」
「はあ」
何をと質問する前に音もなくずいっっと近づく桐沢。おい待て怖い恐いコエーんだよ。いやホントに。荒野化とした薄い唇が視界に入りゴクリと何かを飲み込む。断じて性的欲望では無いことは伝えておく。
「アレ見た?」
苛立ちが混じった声に世間一般で言うビビりながら答える。
推測からの否定
「本当に?」
しばしの沈黙のあと桐沢は此方の眼を捉えリピート。どう言われようが答えは変わらない。変えられない変える必要が無い。
「桐沢が言うアレとはスマホの中身の事だろう?なら何度でも言うさ僕は見てないよ。あの場で最初にスマホを見つけて触ったのは僕だけど手にした時僕はスマホの画面を見ていなかった。誰のか知ろうとはしたけど、その前に桐沢が来たから見ていないんだ」
見る間も無いという感じで。そういやあの時もビビったな。小心者であると自覚していたけれどこうもビクつきがひどいとこの先の人生やっていけるのだろうかと考え始めて途中からある意味壮大な人生図を描きだした処(ここまで八秒)で質問が投げ掛けられた。
「あの2人は」
随分と気に掛ける。そこまでされたら中が気にならなかったのが大なり小なり気になるようになる言わんけど。なるなる。
「二人も見てない間違いなく」
そこははっきりくっきりと。あの二人が透視能力の持ち主なら結果は違ってた。まあ、んなわけ無いんだけど。二人がスマホを見る前に桐沢が声を掛けてきたので見ず仕舞いになったのだと伝える。
呼吸四回繰り返されて、桐沢が少し離れた。
嫌疑は晴れたとそう理解した。
違った
最初はカリカリと次はガリガリと頭皮をかきむしる桐沢に眼を丸くる。何だ丸くるって。嫌でもそんな心情。驚く此方に気にする素振りを見せずにかきむし続ける桐沢。おい、おいおい、おいおいおい!
「やめろ僕への当て付けか失った毛根はもう二度永久に戻らないんだぞノーモアカミノケ!」
頭皮のダメージを省みない蛮行に悲鳴に近い声が出た。それに驚いたのか桐沢はピタリと止まる。
ガリガリ
再開した
僕発狂
人類であればしないであろう奇声と奇行をほんの数分で同級生にぶちかました僕。ハラリと抜け落ちる瞬間をこの僅かな数分で何十本と体験。誰かおらに分け与えておくれ。
どこかの誰かに祈っている間、奇行を受け壁に寄りかかっていた桐沢がヨロリと壁から離れた。
「あんた頭おかしい」
「知ってる」
アレが一般的コミュニケーションだと言う奴が居ればそいつは間違いなく人類では無い。
「斜め開脚38度ヒップお辞儀って何」
「忘れろください」
そりゃもう丁寧に懇願した。断られたら桐沢の頭から記憶を物理的に消去するしかねぇ!と覚悟していたが桐沢がもうそれに触れることはなく代わりに出た言葉は
疲れた
か細く漏れたそれを奇跡的に聞き取れた僕。それにどう反応しようかと悩んだけどすぐに止めた。同世代のはずの少女の顔が何十年と生き延びた老婆のように見えた事は少なからずあった。
「そんじゃまあ誤解は解けたってことで良いよね」
カリカリと封印していた頭皮への不要な刺激を解禁しながら桐沢に確認。それに投げ遣りに手の平で返される。いいんだけどねいやホントに。
「あんまし遅くなると補導されるから気をつけなよ。そんじゃあね」
補導されたこと無いけど。お巡りさんと顔見知り?無い無い。顔見知りになるくらいお世話になった人なら知ってはいるけども。具体的に言えば親戚の集まりに急に来なくなった人。自宅警備員では無い。
心なしか風通しの良くなった頭部に寒いものを二重の意味で感じながら愛しの我が家へと足早に向かおうとして、桐沢に呼び止められた。
「教室の事だけど、疑って酷い態度をとって悪かったわ」
姿勢を正し真っ直ぐ目を合わせた後にごめんなさいと深々と頭を下げる桐沢。
驚いた
「あっ、いや、なんだ僕も勝手に触ったからな、怒られて当然だよいやホントに。勝手に触ってごめん。ああ、桐沢の事は初めから怒ってないよいやホントに。だから謝るのなら矢車と谷村にもしてくれ」
桐沢の謝罪に驚いたというよりはこうして誠意をもった対応された事にあたふた驚きながらペコペコと頭を下げる僕が居た。何時からか受けることが無くなったそれに、酷く懐かしいというよりは新鮮なものに思えた辺り僕の感覚はずれてるのかもしれない。知らんけど。いやホントに。
そんな姿に頭を上げた桐沢は「そう、それでもごめんなさい。許してくれてありがとう」と言って目尻を下げ困ったような笑みを浮かべていた。
こんな時どんな表情すればわからないの。某国民的人型兵器アニメに出てくる名台詞が脳内をリフレイン。まさにそのセリフがピタリと一文の隙間なくあてはまる僕心境。
そのままワタワタと挙動不審になってる僕に桐沢は「それじゃ私もう行くわ、また明日」軽く頭を下げて背を向けた。まあ、用件は済んだもんなそりゃそうだ。
「ああ、また明日ね桐しゃわ」
噛んだったったりら~
恥ずい
「ああ、また明日ね桐沢」
「えっ、言い直すの」
背中を向けて歩み出していた桐沢が眼にも止まらない勢いで戻ってきたツッコミを入れてきた。
「えっ何の事?」
「えっ・・・えー無いわよその反応」
そして笑う桐沢。
近所迷惑何のその。
そりゃもう見事な笑いっぷり。大口開けて腹を抱えて仕舞いには笑いすぎて立てなくなり街灯を支えにして笑い続ける。
その様子に僕は
「あーー、うん。何が面白いのか解らないけど桐沢が喜んでくれたならもうそれで良いよいやホントに」
老婆に見えた同世代の
年相応に笑う姿に
柄にもなく
本当に柄にもなく
また笑わせてやろうと
人のために何かしようと本気で考える
自分が居た
翌日、桐沢が死んだ事を知る
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