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18.買い物後編
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――カラカラカラ。
試着室のカーテンが空いて、鏡を背にして目の前に淀淵が立っている。試着室は床が高くなっていて、いつもより高い位置に立つ淀淵の、いつもより高い位置にある彼女の胸に、思わず目が奪われる。
「どう?」
そんな俺を見てか、淀淵は楽しそうに笑って訊いた。
俺に訊かずとも分かるはずだった。誰がどう見ても。鏡を一眼見てわかったはずだ。
いや、俺が思わず見入ってしまうぐらいにサイズが合ってない。首の後ろを紐で結んだ淀淵の着ているビキニは、そんなに布面積が小さくないのだが、三角状の、布が少なくなって行くビキニ上部にかけて潰れた胸からはみ出した分が乗っかるように溢れている。
「流石に小さいだろ」
「ウエストが調整できるタイプの選んで良かった。多分、そうじゃなかったら試着だけで物凄い時間掛かってたかも」
へへと照れ笑いする淀淵。
再び閉じられたカーテンの向こうへ、俺は「大きいの取ってこようか?」と訊く。
するとと淀淵は答える。
「恥ずかしいし、総磨女性用のサイズとか分かるの?アタシが自分でやるから。総磨も試着しなよ」
「男は試着する必要あるか?何となくでも――」
「ダメだから。アタシが見せたんだから不公平でしょ。来たらちゃんと見せてね」
俺は淀淵が指差したトリコロールカラーのボーダー水着を取りに行った。水着屋の空間が開かれた入り口の近くにある小さなメンズコーナー。
俺は適当に服の上から合わせて見て、膝を出すのに抵抗があるから少し大きめのものを選んで、試着室へ向かう。男物の水着が並んでいるところは試着室から離れているから、戻って来た頃には淀淵が居なかった。かと思うと、先程とは違う試着室の前に淀淵のベージュのパンプスが置かれ、その隣や近くは全てカーテンが閉められていた。俺は仕方なく遠いところの試着室へ足を運ぶ。
俺はカーテンを閉めて鏡に向かい合いしばらく考えた。
――水着の試着って面倒くさいな。
普通なら脱いで着る。着替えたり履き替えたりするだけなのに、一度全部脱いでから、水着を着て見ないといけない。それとも別に上は着たままでいいのか?でも今日は海やプールに行くような軽装ではないし、淀淵の言う「ちゃんと見せてね」には、やはり上半身前部脱げという意味が含まれているんじゃないか?
えー、面倒くさ。
俺は筋肉の力みが抜けていくのを感じながら、先ず靴下を脱ぐところから始めた。
――カラカラカラ。
「――ねぇ、アンタ」
え?
試着室の壁は薄い。人の気配や衣擦れの音もそうだが、勿論カーテンを開け閉めする音はよく聞こえる。だから、カーテンの時点では何も思わなかったが、ひそひそ声が背中の直ぐ後ろで聴こえて振り返った。
「――おま」
「な、なんでアンタ裸なの?」
「試着室なんだから当た――、裸じゃないだろ、パンイチだろ!」
「おんなじ様なもんでしょ?」
山野が顔を真っ赤にしながら抗議する。
パンイチだとは言ったものの、少しパンツのゴムに指が掛かっていたので、後ろから見ればハンケツだったかも知れない。
「見たくないなら閉めろ」
俺は片手でパンツを無駄に引き上げて、力無くカーテンの方へもう片方の手を伸ばす。
「言われなくともそうするわよ、バカッ」
――カラカラカラ。
小声のまま声を荒げた山野がカーテンを閉めた。
「何の用だよ」
「何の用じゃないわ。アンタたち一つの店で長過ぎよ。待ってるワタシの身にもなりなさい」
「お前が着いて来たいって言ったんだろ?」
「そうだけど、アンタスマホ見てないでしょ。さっきから送ってるのに」
「スマホ?」
「心配になるから、小まめにスマホ見て。それだけ」
カーテンの向こうの足音が離れて行く。
俺は重力に従って脱ぎ捨てられたズボンを持ち上げてポケットのところを弄った。スマホを見つけて画面を開くと十二件のメッセージが溜まっている。
『まだ?』
『長すぎ』
『長いならワタシちょっと離れてもいい?』
『スマホ見てる?』
『離れるから次どこか行くなら連絡して』
『まだいるの?』
『いないけどどこ行ったの?』
『スマホ見ろ!』
「試着室行くならそう言いなさい』
『まだ?』
『日和だけ出て来たけど』
「アタシ買ったよ?」
――悪いことしたかな。
俺はちょっとだけ申し訳なくなって、スマホを持ったままパンツの上から水着を履いた。
(着替えてみたよ。奥の方の試着室。俺の靴覚えてる?)
「どんなの?」
(いつも履いてる黒のスニーカー。試着室から顔だけ出してる)
そう連絡してしばらくすると、紙袋を下げた淀淵がやって来た。
淀淵は俺の入る試着室の前へ来て無表情のまま言う。
「本当だ。さきっちょだけ見えてた」
「俺、そんなこと言ってないだろ」
「写真撮っていい?」
「ダメだ」
俺はカーテンを閉める。
そしてさっさと着替え始めた。
ウエストの紐を緩めたパンツが丁度ヒラと床に落ちた時、淀淵はすうと音が鳴らないよう慎重にカーテンを開け、そこから覗く。
「なんだ。下履いてるんだ」
俺がズボンを手にしながら鏡越しに淀淵を睨むと、バツが悪そうにフフとはにかんでカーテンを閉じた。
試着室のカーテンが空いて、鏡を背にして目の前に淀淵が立っている。試着室は床が高くなっていて、いつもより高い位置に立つ淀淵の、いつもより高い位置にある彼女の胸に、思わず目が奪われる。
「どう?」
そんな俺を見てか、淀淵は楽しそうに笑って訊いた。
俺に訊かずとも分かるはずだった。誰がどう見ても。鏡を一眼見てわかったはずだ。
いや、俺が思わず見入ってしまうぐらいにサイズが合ってない。首の後ろを紐で結んだ淀淵の着ているビキニは、そんなに布面積が小さくないのだが、三角状の、布が少なくなって行くビキニ上部にかけて潰れた胸からはみ出した分が乗っかるように溢れている。
「流石に小さいだろ」
「ウエストが調整できるタイプの選んで良かった。多分、そうじゃなかったら試着だけで物凄い時間掛かってたかも」
へへと照れ笑いする淀淵。
再び閉じられたカーテンの向こうへ、俺は「大きいの取ってこようか?」と訊く。
するとと淀淵は答える。
「恥ずかしいし、総磨女性用のサイズとか分かるの?アタシが自分でやるから。総磨も試着しなよ」
「男は試着する必要あるか?何となくでも――」
「ダメだから。アタシが見せたんだから不公平でしょ。来たらちゃんと見せてね」
俺は淀淵が指差したトリコロールカラーのボーダー水着を取りに行った。水着屋の空間が開かれた入り口の近くにある小さなメンズコーナー。
俺は適当に服の上から合わせて見て、膝を出すのに抵抗があるから少し大きめのものを選んで、試着室へ向かう。男物の水着が並んでいるところは試着室から離れているから、戻って来た頃には淀淵が居なかった。かと思うと、先程とは違う試着室の前に淀淵のベージュのパンプスが置かれ、その隣や近くは全てカーテンが閉められていた。俺は仕方なく遠いところの試着室へ足を運ぶ。
俺はカーテンを閉めて鏡に向かい合いしばらく考えた。
――水着の試着って面倒くさいな。
普通なら脱いで着る。着替えたり履き替えたりするだけなのに、一度全部脱いでから、水着を着て見ないといけない。それとも別に上は着たままでいいのか?でも今日は海やプールに行くような軽装ではないし、淀淵の言う「ちゃんと見せてね」には、やはり上半身前部脱げという意味が含まれているんじゃないか?
えー、面倒くさ。
俺は筋肉の力みが抜けていくのを感じながら、先ず靴下を脱ぐところから始めた。
――カラカラカラ。
「――ねぇ、アンタ」
え?
試着室の壁は薄い。人の気配や衣擦れの音もそうだが、勿論カーテンを開け閉めする音はよく聞こえる。だから、カーテンの時点では何も思わなかったが、ひそひそ声が背中の直ぐ後ろで聴こえて振り返った。
「――おま」
「な、なんでアンタ裸なの?」
「試着室なんだから当た――、裸じゃないだろ、パンイチだろ!」
「おんなじ様なもんでしょ?」
山野が顔を真っ赤にしながら抗議する。
パンイチだとは言ったものの、少しパンツのゴムに指が掛かっていたので、後ろから見ればハンケツだったかも知れない。
「見たくないなら閉めろ」
俺は片手でパンツを無駄に引き上げて、力無くカーテンの方へもう片方の手を伸ばす。
「言われなくともそうするわよ、バカッ」
――カラカラカラ。
小声のまま声を荒げた山野がカーテンを閉めた。
「何の用だよ」
「何の用じゃないわ。アンタたち一つの店で長過ぎよ。待ってるワタシの身にもなりなさい」
「お前が着いて来たいって言ったんだろ?」
「そうだけど、アンタスマホ見てないでしょ。さっきから送ってるのに」
「スマホ?」
「心配になるから、小まめにスマホ見て。それだけ」
カーテンの向こうの足音が離れて行く。
俺は重力に従って脱ぎ捨てられたズボンを持ち上げてポケットのところを弄った。スマホを見つけて画面を開くと十二件のメッセージが溜まっている。
『まだ?』
『長すぎ』
『長いならワタシちょっと離れてもいい?』
『スマホ見てる?』
『離れるから次どこか行くなら連絡して』
『まだいるの?』
『いないけどどこ行ったの?』
『スマホ見ろ!』
「試着室行くならそう言いなさい』
『まだ?』
『日和だけ出て来たけど』
「アタシ買ったよ?」
――悪いことしたかな。
俺はちょっとだけ申し訳なくなって、スマホを持ったままパンツの上から水着を履いた。
(着替えてみたよ。奥の方の試着室。俺の靴覚えてる?)
「どんなの?」
(いつも履いてる黒のスニーカー。試着室から顔だけ出してる)
そう連絡してしばらくすると、紙袋を下げた淀淵がやって来た。
淀淵は俺の入る試着室の前へ来て無表情のまま言う。
「本当だ。さきっちょだけ見えてた」
「俺、そんなこと言ってないだろ」
「写真撮っていい?」
「ダメだ」
俺はカーテンを閉める。
そしてさっさと着替え始めた。
ウエストの紐を緩めたパンツが丁度ヒラと床に落ちた時、淀淵はすうと音が鳴らないよう慎重にカーテンを開け、そこから覗く。
「なんだ。下履いてるんだ」
俺がズボンを手にしながら鏡越しに淀淵を睨むと、バツが悪そうにフフとはにかんでカーテンを閉じた。
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