最初のものがたり

ナッツん

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ツバサくん、好きって言って!

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悩んでるツバサくんを助けてあげたい。

香澄ちゃんと上手くいって欲しい。

香澄ちゃんもツバサくんも大好きだから。

「ダメだよ、ツバサくん。
恥ずかしいなんて言ってたら、
大事な物を失うよ。
香澄ちゃんだって、
恥ずかしいのに言ってくれてるんだから。
それに1回言えるとあとはね、
気持ちのままに何度でも伝えたくなる」

「好きな人に好きって言えるのって、
案外、贅沢なんだよ。
私だって、言えなくて。
でも、言わなかったら、勇磨を失ってた」

私の言葉をじっと聞いていた。

そして真面目な顔をして
突拍子も無いことを提案してきた。

「ねぇ、なぁなで練習してもいい?」

え?何?

それはどういう事?

「だから、
なぁなを香澄ちゃんだと思って、
好きって伝えてもいい?」

いや、それは、どうなのかな。

意味、あるかな。

というか、私の話、聞いてた?

かなり、語ったのに!

全く、ツバサくんって。

大きなため息をついて、受け入れた。

勇磨にまた怒られるかもしれない。

だけど練習ならいいのか。

「う、ん。
それに意味あるとは思わないけど、
ツバサくんが納得するするなら」

そう言ってツバサくんを見つめる。

ツバサくんは、大きく息を吸って目を閉じた。

ちょっと笑える。

瞑想してるのか?

ふいに目を開けて私をじっと見つめる。

「俺、す、すす、す。」

思わず吹き出した。

「ダメだよ、ツバサくん。
そんなんじゃ怖い。
分かった!じゃあ私から聞くね」

また深呼吸して準備をするツバサくん。

「ツバサくん、私の事、好き?」

答えをじっと待つ。

私をじっと見つめ少しずつ近づく。

ツバサ、言え!

好きだって言え!

頑張れ!

簡単じゃん、ほらほら!

それにしても。

近っ!

黙って間合いを狭めるのは怖いって。

ほらっ、言って!

「待って、ダメ、ナナは渡さない!」

いきなり勇磨が割って入ってきた。

かなり息を切らして。

「はぁ、はぁ。
ツバサ、ナナは、絶対に渡さない。
ナナだけは嫌だ」

勇磨は私を隠すように立ち、
ツバサくんを見る。

ツバサくんと私は、
驚いて勇磨をじっと見た。

勘違いしてるんだ。

走って来てくれたんだ。

やばっ、すごく、嬉しい。

思わず顔がにやける。

ただ、後ろには勇磨を追いかけて、
かなりの女子も移動してきてる。

私の肩を引き寄せて、
ツバサくんの目の前で、
ぎゅっと自分の胸に抱いた。

そんな勇磨に女の子達が悲鳴をあげる。

その騒ぎにツバサくんがキョロキョロする。

悲鳴が罵声に変わり私に向けられた。

それでも、にやけが止まらない。

「勇磨、どうしたの?痛い。離してよ」

私の問いにちょっと睨んで答える。

「やだ。離さない」

また女子達が悲鳴をあげる。

もっと、誤解して!

「ナナが見えなくなったから、
クラスの奴に聞いた。
北高の男と出て行ったって言うからさ。
ツバサだってすぐに思って連れ戻しに来た」

クラスの奴って南さんだよね、きっと。

あの情報屋。

ナイス、南!

「でもよくここが分かったね。」

私も意地になって聞いた。

案の定。

「なんか詳しくルート教えてくれた」

南さんは何をしたいの?

「ツバサ、諦めろ。ナナはダメ。
俺はナナを誰にも渡さないって決めたんだ。
お前と争いたくない」

女の子達がまた騒ぐ。

うるさいな。

勇磨の声がよく聞こえないじゃん!

「うるさい、どっか行って」

私の声に女の子達がひるむ。

勇磨が「怖ぇー」と呟いた。

ふんっ。

「あのね、工藤、誤解だよ」

ツバサくんが必死に否定してくれた。

(もう少し遊びたかったけど)

「違うんだ。練習してたんだ。
香澄ちゃんとケンカしちゃってさ。
好きだって言えないのが原因だからさ、
なぁなに練習台になって貰ってたの。」

なんで、ナナで練習なんだよ。

他でやれよと納得しない勇磨。

「おれも工藤みたいに、
ストレートに気持ちを言えたらな。」

そう言って勇磨を羨む。

確かに勇磨は、
気持ちをストレートに伝えてくれるけど。

でも、見てよ、あの女子達!

朝から女子に囲まれて、
私なんて近付けなかったんだから!

急に沸々とヤキモチが溢れ出る。
私は勇磨の腕を振りほどいた。

「勇磨、もう分かったでしょ。
勇磨はあの子達と写真でしょ。
私とは撮らないのに」

最後はちょっとむくれた。

撮るって約束したのに。

「あの子達連れて教室に戻れば?」

私って小さい。

ヤキモチに支配されてかわいくない。

「は?」

そう言って勇磨も怒る。

「ほら、練習でしょ。
ツバサくん、私の事、好き?」

勇磨を無視して練習を始める。

ヤキモチが体を支配して止まらない。

でも今日の勇磨は、
私のケンカを買わずに受け止めてくれた。

私とツバサくんの間に入り、
私を引き寄せ目を覗き込む。

「ダメだよ。練習でもだめ。
ナナに好きって言うのは俺だけだし、
ナナに好きか?って聞かれるのも俺だけ。」

至近距離で、そんな事を言われて、
もう、ドキドキを通り越して爆発だ!

横でツバサくんが赤くなって見てる。

それでも勇磨は止まらない。

「なんでそんなに怒ってるの?
あーあれか、
俺が朝から女の子達に囲まれてるからか。
ナナを放っておいたからか。
だったら言えば良かったじゃん。
勇磨、寂しかったって。
そしたら俺、ナナのそばにずっといたよ」

ばっバカ!

そんな事恥ずかしすぎる。

でも勇磨の目は真剣だ。

でも、一緒にいたい。

「勇磨、さ、寂しかった」

その言葉に、
勇磨はよしよしと納得して、
頭を撫でてくれたけど、
ファンの皆様は大絶叫!

「キモ」

「ウザ」

「ブス」

なんなの、勇磨のファン!

「ウザイのはそっちでしょ。消えて!」

思わず怒鳴るとまた騒ぐ。

「何あの暴言女」

「ゴリラみたい」

「ブスゴリラ」

勇磨はケラケラ笑う。

ツバサくんは、
私への罵声に慣れてないから、
彼女達に本気で向き合ってなだめてる。

「なぁなは優しい子なんだ。
ウザくないし。
俺の事、叱ってくれたり慰めてくれる。
あ、ほら、
浴衣着てるゴリラなんていないし、
すごくかわいいよね?
ブスなんかじゃないよね?」

なんかよく分からない説得に、
ファンの皆さんも、
呆れたり面白がったり、炎上したり。

だけど、嬉しい。

「ツバサ、やめろ。
それ以上言うと俺が耐えらんない。」

ツバサくんは首を傾げる。

思わず笑っちゃう。

やっぱり、かわいいなぁ。

そんな私に気が付いた勇磨は、
おもむろに提案した。

「ナナ、アイツらは任せる。
俺のファン達を好きにしちゃって。
俺はツバサの悩み相談を受ける。
俺の方が適任だと思う。
男同士、な、ツバサ」

え、なんで。

私だってツバサくんと話したいのに。

でも。

ツバサくんも頷いて納得してる。

仕方ないのかな。

確かに男同士の方が、
話しやすいのかもしれないし。

もうステージの準備に行かないといけない。

「分かった」

私の言葉ににっこりと笑って、
頭をポンポンとして歩き出した。

あーあ、写真、撮れなかったな。

まぁいいか。

私も行くか。

そう思って歩き出した時、
また周囲に悲鳴が上がった。

驚いて顔を上げる間もなく、
後ろから腕を回し、
グッと、引き寄せられた。

「勇磨!」

そう言う私の耳元で囁いた。

「ほら前、見て笑って。」

勇磨の手に携帯。

「撮るんだろ」

うん、頷く。

「これでスネるなよ。
いい子にしててね。
俺がいない間に他の奴にナンパされんなよ」

そんな、モテないって。

「いや、物好きはどこにでもいる」

バカ勇磨。

そして大事な事を言い忘れてた事に気付く。

「ねぇ勇磨!
午後のシークレットステージ、行こう。
なんかすごく楽しいって。」

勇磨は首を傾げて

「ふーんそうなんだ。じゃあ行くか」

うんうん

来てね。

「じゃあ一緒に行こう。後でね」

いやいや、違うっ。

「あの、勇磨、
それ、1人で行って見てきて。」

途端に不審な顔付きになる。

バレるかな。

なんて言えばいいの?

「なんで、ナナは?」

やっぱそうなるよね。

「う、ん。あの、さ。
それは行くことは行くんだけど、
勇磨とは行けなくて」

勇磨の不信感いっぱいの目に、
耐えられなくなる。

空気が張り詰める。

どうしよう、怒ってる。絶対。

手が震えてきた。

「じゃあ行かない。
ナナが他の奴と行くのに、
なんで俺だけ1人で行かないといけないの」

そうだよね。

でも。

お願い、分かって。

「誰と行くの?トモ?」

いや、それは違うけど、違わないかな。

でも勇磨の言う一緒って意味じゃないから。

あー黙ってるとまた怒らせちゃう。

「いーじゃん。俺も行きたい。
シークレットステージ。俺と行こうよ。
なぁなは工藤を裏切ったりしないよ。
なぁな、工藤の事、超好きだもんね。」

ツバサくんの言葉に空気が和らいだ。

涙目でツバサくんを見る。

ありがとう。

「分かった。その代わり」

私の肩を引き寄せて囁く。

思わず勇磨を見上げた。

本気?

勇磨は頷く。

私は息を大きく吸って、
ファンの子達に向かって一気にぶちまけた。

「わっ私の勇磨だから、取らないで」

一瞬シーンとする。

もうどうにでもなれ。

「写真もおしまいっ。勇磨は貸さない。
散って。私だけの勇磨なのっ」

その後、彼女達がガヤガヤはじめる。

勇磨は大爆笑。

ツバサくんは驚いて私達を見てる。

「よくできました。」

そして彼女達を見渡して言った。

「ごめんね、俺、この子の物なんだ。」

そう言って顔を近づけ、
ほっぺにキスしてみせた。

「この先、ナナを傷付けたら、
俺許さないからね」

そう公言してくれた。

もう。

勇磨め!

「必ずシークレットステージ、見に行ってね。約束だよ」

また頭をポンポンして「分かったよ」と約束してくれた。

振り返りファンを睨んで解散させてから、
制服に着替えた。

鏡の前で髪をほどいて思う。

ラストのソロ。

このままじゃダメだ。

その場でストレッチして駆け出した。
急いで急いで目的の教室に入る。

「ナナミ、どうした?」

アヤノ!

「ねぇアヤノ、お願いがあるの」

よし、これでソロも成功する!
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