最初のものがたり

ナッツん

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欲しい!あきらめたくない!

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吐き捨てるような勇磨の一言に押され、
歩き出した。

一歩一歩が重くのしかかる。

違う!

2人の中間あたりで足が止まった。

やっぱり、ダメだ。

今、トモと夢を選んだら一生後悔する。

だって、私。
やっぱり勇磨がいないのは耐えられない。

勇磨に拒否されても冷たくされても、
嫌われても好きだって伝えたいから。

「トモ、ごめん。
私はトモみたいに好きな人より、
パートナーを優先にはできない。
勇磨が嫌って言うなら、
これ以上続けたくない。
どうしても勇磨と一緒にいたい。
みんなと同じ目標を持てて、
夢を持てて楽しかった。
私にも誇れる事があるって。
みんなが期待してくれて、嬉しくて、
もっともっと上に行きたいって。
久しぶりに筋トレも始めたしね。
ありがとう。でも、一緒に行けない。」

みんな、ごめんなさい。

みんなの夢、壊しちゃった。

トモはまたため息をついた。

「お前ら似た者同士だな。本当ガキ。
ねぇちび、
俺が好きな女よりもちびを優先するって言ったのは、それが好きな女の為だからだよ。
ちびが俺とパートナーになって、
目標を達成する事が彼女の望みなんだ。
俺と同じ夢を見てくれる。
でもちびは夢か男か、
どっちかを取らないといけないんだろ。
だったら好きな男にしろよ。
夢は後からいくつでも見つかるら。
俺達の事は忘れていい。
俺達はちびがいなくても大丈夫だけど、
そこのそいつはちびナシじゃ生きていけないんだろ。
じゃあね、ちび。楽しかったよ。
また夢中になれるもの、
彼が許してくれる夢に出会えるといいね。」

そう言い残してトモは去って行った。

ごめん、トモ。

ごめん、みんな。

私は泣いてた。

なんの涙だろう。

大きな物が手の中から、
消えてなくなる悲しみ。

みんなに迷惑をかけた。

ごめん、勝手で。

でもどうしても今、勇磨に伝えたい。

じゃないと、きっともう元には戻れない。

今まで何回もそう思ったのに見過ごした。

もう逃したくない。

私は深呼吸して心に勇気を溜めた。

お願い最後まで逃げないで聞いて欲しい。

勇磨が私を見つめる。

「勇磨、ごめんね。私、間違ってた。
私、勇磨が好き。勇磨だけが大好き。
勇磨が嫌な事はしない。
何よりも誰よりも勇磨を優先する。
だからお願い。
私を空気みたいにしないで。
話を聞いて欲しい。
私、勇磨以外に欲しいものなんてなかった。
勇磨が他の誰かを好きでも、
私の好きは消えないから。
だから言いたかった。
今は南さんのでも、いつか必ず私のにするから!諦めない」

言えた!

好きだって言えた!

そんな私をぎゅっと抱き寄せて、
強く抱きしめて言った。

「バカなんだな」

え?

何?

どういう意味?

というか告白に対しての言葉がおかしくない?

状況に対してもおかしくない?

まともに話が通じない!

国語力ないよー。

「とっくにだ!」

勇磨が優しく笑って私を見た。

「俺もナナだけ好きだ。
ずっとナナだけ好き。
他の誰かなんて目に入らない。
さっきからそう言ってるよね?
バカナナ!」

うん、でも。

「でもじゃない。
何回も言ってんだろ、俺はナナが好きなんだ」

うん。

もう涙で勇磨が見えない。

私の涙を指で拭ってくれた。

「ごめんね、ナナ。
俺は本当に最低でガキだな。
アイツの言う通りだよ。
懲りずに何回もナナを傷付ける。
ナナがそっぽを向くと、意地悪したくなる。
自己嫌悪になってナナから距離を置きたくなるのに、すぐに近付きたくなる。
なんだろうな。」

私も勇磨をぎゅっと抱きしめる。

「ナナが気にするから言うけど、
俺は南さんと一緒にいたつもりも、
並んで歩いたり、休み時間を一緒に過ごしたつもりもない。
アイツが勝手にまとわりついてただけだ。
でも、振り払わなかった。
南さんの気持ちを利用した。
ナナが嫌な顔をするのが見たかった。
最低なのは分かってる。
ナナがヤキモチ妬いてくれるんじゃないかって、期待してた。
ガキだよ、全く。」

心に刺さったトゲが溶けていく。

良かった、南さんとキスしてない。

観覧車には乗ってない。

また涙が溢れる。

「ごめん、もう、いじわるはしない」

そう言っておでこにキスした。

「いーよ、いじめて。
私、勇磨に意地悪されるのも好きだから」

思わず、ホッとして変な事言っちゃった。

勇磨が吹き出す。

「なんだ、それ。お前、そういう事、言う?」

だって。意地悪されても、
距離を置かれるよりいいんだもん。

透明人間になるより、いい。

そういう事を言いたいんだけど。

「いーの?
本当に俺にいじわるされても。
俺、結構、Sなんだけど。」

そう言ってケラケラ笑う。

「いーよ。いっぱい、いじめて」

途端に真っ赤になって横を向く勇磨。

「やめろ、そういう事言うの。
変な気になる」

私も気が付いて赤くなる。

違うって。

「勇磨、好き。すごく好き。
だから、お願い。
私の言葉や行動が勇磨を傷付けたら、
教えて欲しい。
勝手に想像して私に背を向けないで。
ちゃんと説明させて。
勇磨の事だけは絶対に諦めたくないから」

勇磨はぎゅっと目を閉じて、
また強く私を抱きしめてくれた。

「キスしていい?」

そう聞いて、頷く私にキスをした。

いつも私の了承なんか得ないで、勝手にするくせに。

「じゃあさ、早速だけど、意地悪していい?」

勇磨がニヤッとして切り出した。

「う、ん」

私をくるっと後ろ向きにして、
背中を思いっきり押した。

びっくりして振り返る。

「トモの所に行け!」

そう言った。

なんで?

心がきゅーっとなる。
私また間違えた?

嫌だよ、勇磨!

勇磨に抱きついて、ぎゅっとしがみついた。

「なんで?嫌だ。行かない。
それだけは嫌!」

勇磨が私を離そうとするから、
余計に力を入れてしがみつく。

「嫌、私、決めたから。勇磨から離れない」

勇磨の声は笑ってる。

なんで、そんな意地悪は嫌だよ。

嫌!勇磨!

「これ、いいな。
こんな形勢逆転なんてあると思わなかったからさ。
最高だな。
ナナが俺から離れないなんてヤバすぎ!」

そう言いながらも離そうとして、
とうとう私は負けた。

「いいから行け。
俺の決心が揺れないうちに。
ナナ、アイツらと達成したい目標があるんだろ。
夢中になって楽しかったって言ったよな。
その目標、達成してこいよ。
応援する。
またヤキモチ妬いてスネて、
ガキみたいな態度を取るかもしれないけど、
俺はナナが好きだ。
ナナの好きな物は大切にしたいから。
だからいつか話して欲しい。
何に夢中になってるのか。
それまでは聞かないから。」

勇磨!

いいの?ダンス続けても。

シークレットステージを目指してもいいの?

私、ダンスをやめなくていいんだ!

嬉しい!

「なんだよ、あからさまに喜ぶんだな。
あー。仕方ねぇな。
ガキ呼ばわりされたままじゃ悔しいし、
好きな子の夢を応援できるデッカイ男になるか」

もう一度勇磨に抱きついて、
今度は私からキスをした。

勇磨が驚いて私を見る。

「勇磨、好き。信じて。必ず話すから。
私の夢を勇磨に見せたいんだ。
その為に始めたんだから。
勇磨との約束も守るから」

途端に嫌な顔をする勇磨。

「そうだな。約束な。
ナナ、俺との約束、破ったよね?」

破ったっけ?

「夜は出歩かない。男に触らせない」

あーあ、あれね。

でも、それは混みのダンスだからな。

それ言ったらまた怒らせるかもしれない。

固まる私を優しく抱き寄せる。

「いいよ、ナナを信じるから。
というか、アイツに釘刺すから」

勇磨!

ありがとう!

さぁ、トモを追いかけよう。

走り出そうとしてハッとする。

そう、ストレッチね。

体をほぐし、筋を伸ばす私を、
不審な目で見つめる勇磨。

「ナナ、また変な踊りはじめんのな。
それ何なの?学校でもやってたよな。
ふざけてんの?」

変な踊りって!

「ストレッチなんですけど!
トモにいきなり走ったり、
階段駆け上がるなって注意されたの。
体を温めてからにしろって。
今はケガできないから」

ふーん。

そう言って私のストレッチを、
じっと見ては時々吹き出す。

「俺さ、さっき、
ナナを抱きしめた時に気付いたんだけど、
前はぷにぷにだったのに今は結構、
筋肉で硬くなってんのな。
男と抱きあってる気分だったよ」

は?なんて?

ヒドイ!

私の努力の結晶のしなやかで、
強靭なボディを!

なんて言い草!

怒る私にケラケラと笑う。

「嘘だよ。ただ驚いたのはホント。
俺がイジイジしてる間に、
ナナが頑張ってた事は分かった。
さ、もう行け」

もう一度背中を押してくれた。
その反動で私は駆け出し、
でもすぐに戻って勇磨に抱きついた。

「ねぇ、やっぱりもう少し一緒にいない?
トモ達と合流するのは明日以降じゃダメかな」

そう言う私の髪をくしゃくしゃにし、
目をつぶって込み上げる思いを抑える勇磨。

「うーじゃあ5分だけ。
5分だけイチャイチャしようか。
本当、5分だけだぞ」

ちょっと上から目線の勇磨にカチンとくる。

なんだ、その態度は。

まぁでもいいか。

今までのモヤモヤが、重い気持ちが、
嘘のように溶けてなくなった。

勇磨がポケットから何かを出して、
髪に留めてくれた。

触って気がつく。

あのヘアピンだ!

「俺が初めて女にあげたプレゼントを投げつけんな」

勇磨が好き

勇磨も私が好き。

こんな幸せがあるなんて。

残り5分を勇磨の腕の中で過ごした。

よし!文化祭まであと少し、頑張るぞ!
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