最初のものがたり

ナッツん

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観覧車の中で

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突然、扉が開いた。
スタッフのお姉さんの笑顔がのぞいた。

「すみません、大丈夫でしたか。
ご迷惑をおかけ致しました。」

下に着いたんだ。

早く降りなきゃ。

そう思って立ち上がろうとしたけど、
手足と腰に力が入らなくて動けなかった。

どうしょう。

降りなきゃ。

どんどん進むゴンドラに、
お姉さんが困った顔をする。

「手、貸しましょうか」

そう言ってくれたけど、
震えて手も差し出せない。

降りなきゃ。

降りたい。

「すみません、もう1周します」

その声に顔をあげると勇磨だった。
青い顔で息を切らす勇磨を見上げた。

「どうして」

それしか出てこない。
お姉さんが扉を閉めて鍵をかける。

え、ちょっと待って。

もう降りたいんだけど。

やだ、もう。

これ以上は無理。

でも立ち上がれない。

勇磨は私を抱き抱え、椅子に座らせた。

「勇磨、待って。もう嫌なんだけど。
怖いの、降りる」

必死に勇磨に懇願する。

「いや、もう無理だろ。
逆回転はできないからね。
もう1周するしかない」

ちょっとあきれ顔で私を見る。

「ナナ!なんで電源切るんだよ!
助けてって言われて、電話が繋がらない俺の焦り分かる?
生きた心地しなかった。
ナナに何かあったらって。
俺、色々と後悔した。
ナナにひどい態度を取ったし。
意地悪も言った。謝りたかった」

ごめん。

心配させた事は謝る。

黙る私を勇磨は抱き寄せた。

勇磨の腕の中。

「冷たいな、震えてる」

ぎゅっと抱きしめられて落ち着く。
勇磨の心臓の音が聞こえる。

「俺、ツバサに連絡したんだよ。
そしたら多分ここだって言ってた。
なぁなを信じてやってくれってさ。
ツバサはナナの事がよく分かるんだな」

ツバサくん、ありがとう。

「なんかムカツクんだよ。
俺だけひどい奴みたいで。
ツバサも今井チカもみんな、
ナナを信じるって断言しちゃって。
俺だけヤキモチ妬いて小さい男」

怒って拗ねる横顔に思わず吹き出した。

歯がカチカチする程震えているのを、
必死にごまかし軽口をたたく。

「本当、小さい男」

そんな私を引き離し、
立ち上がろうとする勇磨。

「ナナ、ここがどこか分かってる?
ここではナナは俺に逆らえない」

体が離れた途端に不安が襲ってきた。

やだ、怖い。

何も考える間もなく、
勇磨の手を掴んで引き戻した。

そのまま自分から勇磨にしがみついた。

もうなんでもいいや。

はなれたくない!

「お願い。ここにいて」

勇磨の背中に腕を回して掴んだ。

勇磨も私をぎゅっとしてくれた。

「ずっと観覧車に乗ってたい」

それはどういう意味なんだろう。

なんで来てくれたの?

どうして抱きしめてくれるの?

やっぱり、南さんと付き合ってはいないの?

ツバサくんの言う通り、
勇磨はまだ私を好きでいてくれるの?

分からない。

気が動転してる私を心配して、
優しくしてくれてるだけかもしれない。

だけど、今、目の前にいる勇磨は、
ここ最近の無関心で無表情な勇磨じゃない。

怒ったりあきれたり笑ったり、
そして優しい。

嬉しい。

透明人間じゃない私。

だから、聞きたい。

私の事、本当はどう思ってるの?

南さんとキスしたの?

分からないから確認したい。

怖いけど、聞くなら勇磨の口から聞きたい。

勇磨の気持ちが私になくても、
ちゃんと私の気持ちを伝えたい。

諦めたくないから。

勇磨だけは絶対に諦めたくない。

誰にも渡したくない。

勇磨を掴む手に力を込めた。

「勇磨、私ね。
勇磨に話したい事があってね。
今日、体育館に行ったんだ。
南さんに会ったの。
勇磨と付き合ってるって。
観覧車でキスしたって。
それで、私、
気が付いたら1人で観覧車に乗ってた。
バカみたい。
故障して止まって揺れて怖くて、
勇磨に電話もしてた。
ごめんね。
南さんにも悪いことをした。
勇磨が南さんを好きでも、私、どうしても言い、」

私の話が終わらないうちに、
勇磨は私の口をキスでふさいだ。

え。

なんで。

ちょっと待って。

まだ話の途中なのに。

言いたいのに。

キスなんてされたら私。

「ナナ、うるさい。
何回も言わせるな。
俺はナナが好きだ。
他の奴は眼中にない。
ナナだけ好きなんだ。」

そう言ってもういちど、
今度は優しくキスをしてくれた。

私のおでこに自分のおでこをくっつけて、
目をじっと見つめ優しく笑う勇磨。

冷え切った心に一気に温かいものが、
流れてくる。

勇磨が好きだって言ってくれた。

抱きしめてキスしてくれた。

キシキシして病んでいた心に。

こじらせていた心に。

「俺、結構、怒ってるんだよ。
ずっと好きだって伝えてるのに、
無視するから。
それに、ツバサだけでも腹一杯なのに、
あのムカツク奴まで出てきて。
イライラして自分でも訳が分からないし、
ナナの様子もどんどん変わるしな。
俺の知らない間に付き合う友達も変わってさ。
焦った。
夏休みが終わったら別人になったみたいで。
どんどん手が届かなくなるみたいで。
アイツの言葉しか聞かないしね。
何を聞いても曖昧だし、ナナも怒ってるし。」

うん、怒ってるし悲しかった。

だって勇磨に、私の友達を悪く言われたくないから。

不良とつるんでるとか思われたくないし、
ましてやお盛んでもない。

あの人達といると楽しい。

私の新しい目標ができたんだよ。

今、夢中なんだ。

あの人達が本当大好きなの。

「トモが大好きなの?」

勇磨の瞳が切なくきらめく。

ドキンとする。

違うよ、勇磨。

私はみんなの事を言ったんだよ。

でも。私も引っかかってる。

「勇磨は?勇磨はどうなの?
私を好きって言ってくれたけど、でも。
南さんと観覧車乗ったんだよね?
夕陽がキレイって南さんに教えてたし。
2人で並んで歩いたり休み時間も、
きゃっきゃっやってんじゃん。
南さんが好きなん、でしょ」

聞いてから後悔する。

そうだよと言われたらどうしよう。

女嫌いで中2病の勇磨だから、
女の子の友達なんていないし。

まともに女子とは話さなかった。

でも、南さんの事は拒絶しなかった。

それがどうしても引っかかる。

勇磨を信じられない訳じゃない。

でも、やっぱり、引っかかる。

私を好きだって言ってくれたけど、
やっぱり勇磨の口からちゃんと聞きたい。

「勇磨は、
女の子にチャラチャラ適当な事を言って、
誘ったり遊んだりする人じゃないから。
だから私は、
勇磨は真剣なんだなって思った。
南さんに真剣なんだなって」

勇磨の女嫌いとこじらせを知ってるから、
南さんへの対応が、特別なのはよく分かる。

黙って私を見ていた勇磨。
目が鋭くなり、また怒らせた。
でも次の瞬間には優しく見つめて言った。

「質問に質問で返すなよ。
まずはナナから応えて。
ナナの答えを信じるから。
ナナを信じるって俺、言ったのに、
何度も勝手に想像して決めるなって叱られたのにな。
俺さ、自分でも嫌になるくらい、
情けなくてガキだから。
ナナの話を聞く前に反射的に、
アイツをぶっ飛ばしたくなる」

私の視線に勇磨は赤くなり横を向いた。

「なんだよ、見るなよ。ナナも悪いんだぞ。」

え、なんで。

「だってナナ、
俺がいなくても楽しそうだから。
俺が意地悪言って泣かしても、
少しするとケロっとしてアイツと帰る。
そのくせ俺と南さんが一緒にいると、
嫌な顔するだろ。
だから、俺、わざと泣かすようなマネもした。
でもやっぱりアイツの所に行く。
だけど、今は俺に頼ってくれた。
すげぇ嬉しいけど訳が分からないんだ。
だからナナにハッキリと聞きたい。
俺の事、どう思ってるんだよ。」

勇磨。

バカ勇磨。

タツキ達との事だって、
私、ちゃんと説明しようとしたよ。

トモの事だってそうだし。

それに今だって。

私、告白の途中だったのに。

本当にバカ勇磨!

だけどバカは私も一緒だ。

もう、ずっと勇磨が好きだったのに、
認めるのが怖かった。

ドキドキして自分が自分じゃなくて、
余裕がなくて、でもすごく嬉しくて、
胸が熱くなる。

もうずっとそう感じてたのに、
見ないふりして勇磨を傷つけた。

ちゃんと伝えよう。

好きだって、言いたい。

誰にも渡したくないって。

勇磨だけは嫌。

深呼吸をした。

「勇磨、私、学期末テストの後、
チカも勇磨も部活でつまんなくて、
フラフラ隣駅のショッピングモールに行ったんだ。
服とか見て、あ、このヘアゴム買って」

勇磨が首をかしげる。

「は?なんの話?」

いや、だから最後まで聞けって!

「で、そこでね、小学生の頃に、
習い事で一緒だった友達に再会したの。
それが金髪の3年生。
同じ高校だったって盛り上がってさ。
で、一緒にいた先輩やトモを紹介されたんだ。
見かけは派手で、人数も多いから、
不良集団に見えるかもしれないけど、
みんな礼儀正しくて優しくて、
勉強だってするんだよ!」

またチャチャを入れる

「勉強?小学生か」

もう、話さないからね!

そう怒る私にふてくされる。

「それで私も仲間にしてもらってね。
同じ目標に向かって今、頑張ってるの。」

緊張で手が震える。

また大きく深呼吸をして勇磨を見つめた。
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