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ツバサ再び
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毎日特訓してるのに私のソロパートは、
相変わらずでなかなか抜けない。
あと一歩のようで届かない。
焦る私の為にトモが試行錯誤してくれていた。
「技術の問題じゃない。完全に表現力の問題だ。」
トモの意見にみんなも私も賛成した。
昨日は水族館に連れて行ってくれた。
自由に泳ぐ魚たちを見ていると、
私の気持ちと重なった。
あんな風に自由になれたら。
何も考えず好きに泳ぐ。
大きな水槽の中で大小様々な生き物が、
踊ってるように見えた。
みんな、それぞれのパートを精一杯表現してる。
実際、その日の練習では、みんなに褒められた。
妥協点かもしれないとも言われた。
だけど私もトモも納得しなかった。
まだ諦めない。
何かあるはず。
今日はどこに行こうか。
「あー木下さん、昨日も彼とデートだったでしょ。
いいなぁ。昨日は水族館だっけ?
うらやましい、ね、工藤くん」
勇磨の隣をキープしながら、南さんが声をかけてきた。
私が最近2人を無視するから、
南さんはファンクラブの情報網を使い、
私の行動をチェックし始めた。
「南さん、私に興味ありすぎじゃない?
今度は私のファンクラブ作ってよ」
そう言う私を睨んでプンプンする南さん。
そんな私達を興味なさそうに見る勇磨。
なんだ、この感じ。
あ、鬱陶しい。
私は廊下に出た。
大きなため息をついて窓の外を見た時、
制服のポケットに、振動を感じた。
携帯にメールが来てた。
確認する。
画面を見た瞬間、心が温かくなった。
このアドレス。
あ。そうか。
アドレス。消したんだったな。
でも、消しても覚えてた。
ツバサくんだ。
―なぁな、久しぶり元気?―
―今日、会える?―
瞬間的に思った。
どうしたのかな。
また何かあったのかな。
―うん、元気だよ―
―今日、用事があるんだけど、30分くらいなら大丈夫―
そう返事した。
―じゃあ、放課後、なぁなの学校まで行くね―
久しぶりにツバサくんに会える。
ワクワクした。
ちょっと心配にもなる。
でも、ツバサくんに会える!
久しぶりに心がほっこりした。
その日1日をなんとかやり過ごした放課後、
トモに先に練習に行ってと伝えた。
「ふーん。昔の男ね。それもいいかもね。」
勝手に解釈して頷く。
全くトモってダンスの事しか、頭にないのかね。
好きな人とかいないのかな。
そう聞くと
「ちびってさ、自分の事以外興味ナシだな。
ま、どっちにしろ今は好きな女よりちびを優先する。」
なんだかなぁ。
寂しい人生。
このままずっと独り身かもよ。
「ちびにだけは言われたくない」
そう言って練習に出かけて行った。
帰り支度をして廊下に出ると、
勇磨に絡む南さんが私を呼び止めた。
「ねぇ木下さん。
校門で北高の男の子が、待ってるわよ。
全く、お盛んね。」
勇磨がその言葉に反応する。
「北高?」
呟いて私を見る。
「ツバサか」
勇磨の視線に耐えられず、
目をそらし南さんに向き直った。
「ねぇ、南さん。もう私に構わないで。
南さんは勇磨だけを見ればいいでしょ。
私を見ても仕方ないよ。
私と勇磨は何の関係もないんだから」
もう私の事は、ほおっておいて欲しい。
2人をセットで見るのは嫌だ。
もう振り回されたくない!
南さんは口を尖らせる。
「そうだな。関係ないな。」
勇磨の同意に思った以上の傷を受けた。
早くこの場から逃げたい。
トモに言われた事を思い出し、アキレス腱を伸ばす。
足首を回して屈伸をした。
勇磨も南さんも、そんな私を嫌悪感丸出しの顔で見る。
「バカにしてんのか」
「何?感じ悪ーい」
感じ悪いのもバカにしてんのも、そっちだ。
ジャンプして体がOKを出したところで一気に駆け出した。
そのまま校門で待ってるツバサくんの元へ。
ツバサくんは遠目でも分かる。
門にもたれかかり、こっちに気付く。
軽く右手を上げて
「おーい、なぁな!」
と恥ずかしいくらい大きな声で呼ぶ。
かわいい!
「久しぶり!ツバサくん、また背が伸びたね」
もう180センチはあるんじゃないかな。
「なぁなは痩せたね。体調悪いとか?」
お門違いな心配もツバサくんらしい。
会ってみて思う。
やっぱりツバサくんだ!
ツバサくんに会えただけで、こんなにも、
心が穏やかになる。
これが、好きって事だよ。
駅前のカフェに入った。
ツバサくんはウキウキでメニューを開き、
イチゴのパンケーキを選んだ。
好きね、全く。
「ねぇなぁな、ダンスしてるの?」
唐突に聞かれた。
「うん。そうだよ」
でも、何で知ってるんだ?
「いや、この前、
クラスの奴に、なぁなの事を聞かれたんだよ。
同じ中学だったんだろって。
なぁなの事、すごく褒めてた。
ダンスがものすごく上手いって。」
そっか、北高にもチームの子いたな。
「笑っちゃうよね、私がダンスなんて」
でもツバサくんは首を振った。
「ううん、あるかなって思ったよ。
なぁな、運動はイマイチだったけど、
柔軟は得意だったよね。
ダンスの授業も上手だったし。」
え、あ、そうなんだ。
なんか、ちょっと嬉しい。
「俺も見たいな、なぁなのダンス。
今度、見に行こうかな」
うん、いつか来て。
ツバサくんに知られたくなくて、
ダンスをやめたのに。
今は、
私の好きなものを見てもらいたいって思う。
不思議だなぁ。
「ところで、今日、工藤は?
一緒に来るかと思ってた」
勇磨の話題で気持ちが下がる。
「何?ケンカしたの?」
クリームをイチゴに付けて、口に運ぶツバサくん。
なんだろう、癒される。
こんな気持ちになるの久しぶりだ!
「早く仲直りしなよ」
ツバサくんの言葉で、途端に胸が変に痛む。
「ううん、勇磨は好きな人ができて、
そっちに夢中なんだよ。」
フォークとナイフを置いて私を見ながら、
「それはない」
断言するから、ちょっと笑った。
なんで、ツバサくんが断言するのか。
「本当なんだよ。
勇磨は私のダンスの仲間も、私の事も信用してくれない。
今は話せない事もあって、でも信じて欲しいのに。
チカは信じてくれたのに、勇磨には届かない。
友達だって思ってたのに。
勝手に怒って私を無視するんだ。
だからもう、勇磨とは何の関係も…」
―ない―
何故かそれは言葉にできなかった。
ツバサくんは優しい顔で聞いていた。
また泣きそうになる。
でも泣かない。
「男と女は違うよ、なぁな。
工藤はさ、
なぁなの事、友達なんて思ってないよ。
ヤキモチも妬くし、ひねくれる。
信じたいけど信じられなくて。
でも、そんな自分がイヤでさ。
工藤も苦しんでると思う。」
そんな事、ないよ。
それは違うと思う。
もう勇磨は南さんが好きなんだから。
「だから、それはない。
アイツはコロコロ気持ちを変える奴じゃないの。
なぁなも分かってるでしょ。
ほら、なんだっけ?病気。ああ、中2病。
なぁなが告白しちゃえば、すぐに元通りになるよ」
告白って。
私が勇磨を好きって事?
チカも言ってた。
「じゃあ、なぁなは何でこんなに悲しい顔してるの?
工藤が友達なら、彼女できたっていいじゃん。
でも2人を見るの、ツライんじゃない?」
それは、そうだけど。
でも、私、好きっていうのは、
ツバサくんを好きだった時みたいに、
守ってあげたくて笑顔が見たくて、
それが出来たらものすごく幸せで満たされる、そういうものだと思うから。
不安になったり、怖くなったりは違う。
「うん、それも好き、だよね。
俺、なぁなが俺の事好きって言ってくれて、
すごく嬉しかったよ。
でも、なぁなの好きは俺と同等じゃないよね。
与えてくれるって言うか。母の愛みたいな。」
そう言ってケラケラ笑う。
母の愛?
まぁ分からないでもない。
そう感じてた時もある。
でも言い切れない気持ちもあったよ。
私はドキドキして、チクチクして、
ツラくて苦しいのは嫌なんだよ!
「なぁなはさ、ツライ時に俺に会いたいと思った?
俺の前で泣きたいって思った?
ツライ時は工藤に会いたかったんじゃないの?
工藤のツライ時だって側にいて励ましたいって思ったから、
あの時、震えても病院に走ったんでしょう」
それは…
確かに勇磨の前だけでは素直に泣けた。
勇磨が側にいてくれると涙が乾いた時に元気になれた。
勇磨がケガしたって聞いた時も1人にしたくなかった。
側で一緒に泣くしかできなくても。
勇磨といるとドキドキして不安になって怖い。
今もすれ違うだけで、遠くに見えるだけで、
名前を耳にするだけで、怖い。
自分が自分じゃなくなるみたいだ。
「俺だって香澄ちゃんといると、
ドキドキして不安になるよ。
他の奴と話したり一緒にいるのを見かけたら
イライラするし、物に当たりたくなる。
工藤がなぁなと会うなって、
触るなって言ったの、今なら分かる」
意外。
「ツバサくんって感情の振り幅が少ないと思ってた。」
「俺だって、なぁなの事、そう思ってたよ。
だから、俺たちはやっぱり友達だったんだよ。
本当に好きになるとさ、
やっぱり自分のペースじゃいられなくて、
戸惑って怖くなって自分から手放したくなったり、でも離したくなくなるもんじゃないかな」
怒って背を向ける勇磨を手放したい。
見えない所に行きたい。
でもまた一緒に笑いたい。
一緒にいたい。
でも違うよ、好きなんかじゃない。
南さんがチラつく。
好きな訳ない。
勇磨は私の話なんて聞いてくれないんだから。
「じゃあさ、今から俺と観覧車乗りに行こうか」
突然の誘いに驚いた。
でも、観覧車は、乗りたくない。
観覧車だけは。
ツバサくんはニッコリと笑う。
「工藤としてたみたいにさ、
ぎゅーっとしながら観覧車に乗ろうよ」
ちょっと驚いた。
「見てたの?」
照れた顔して笑うツバサくん。
「うん、俺、あの時ものすごく緊張しててさ、助けを求めて振り返ったら、2人でイチャイチャしてるから、余計に緊張して恨んだ。」
イチャイチャなんて。
だって私、高いところ苦手で。
「なぁな、俺とは何回も乗ったけど、
高い所苦手なんて1回も言わなかったよね。
震えもしなかったし。
なぁなが自分を安心して出せるのは、
工藤だけなんじゃないの?
怖くてツラくて不安になっても、
それ以上に楽しくて嬉しくてさ。
大事な思い出になるんじゃない?
俺と乗った何回かよりも、工藤との1回なんじゃないの?」
ツバサくんと何回も乗った観覧車。
なのに、あの日、勇磨と乗ったら全く違ってた。
怖くて怖くて本当に怖かったのに、
一緒に見た夕陽が今でも心に残ってる。
勇磨の優しい声も温かい手も鼓動も。
忘れない。
だから、南さんと乗って欲しくない。
南さんにして欲しくない。
でも、南さんは関係ない。
他の誰にもして欲しくないんだ。
そっか。
私がどうしたいか、だ。
勇磨以外とは観覧車に乗りたくない。
私にとっては大事な場所だ。
私、自分の気持ちを何にも伝えてなかった。
ダンスの事も仲間の事も、勇磨への気持ちも。
他の人とは違う。
勇磨は私にとって大事な存在だ。
どうしても伝えたい。
何してたんだ、私。
いじけてスネて避けてる場合じゃない。
「じゃあ、なぁな、健闘祈るね。」
ツバサくんはニッコリと笑った。
「ありがとう。
でもツバサくんに恋愛語られるなんてねー。
笑える!」
その言葉にちよっとむくれる。
「いつまでも弟キャラじゃないからね。
工藤によろしくね。
また4人で遊ぼうって伝えといて。」
うん、そうだね。
それ、いい!
私は店を出てまたストレッチをした。
よし、待ってろ、勇磨!
無視してもウザがってもぶつかって、
その壁をぶち壊すから。
相変わらずでなかなか抜けない。
あと一歩のようで届かない。
焦る私の為にトモが試行錯誤してくれていた。
「技術の問題じゃない。完全に表現力の問題だ。」
トモの意見にみんなも私も賛成した。
昨日は水族館に連れて行ってくれた。
自由に泳ぐ魚たちを見ていると、
私の気持ちと重なった。
あんな風に自由になれたら。
何も考えず好きに泳ぐ。
大きな水槽の中で大小様々な生き物が、
踊ってるように見えた。
みんな、それぞれのパートを精一杯表現してる。
実際、その日の練習では、みんなに褒められた。
妥協点かもしれないとも言われた。
だけど私もトモも納得しなかった。
まだ諦めない。
何かあるはず。
今日はどこに行こうか。
「あー木下さん、昨日も彼とデートだったでしょ。
いいなぁ。昨日は水族館だっけ?
うらやましい、ね、工藤くん」
勇磨の隣をキープしながら、南さんが声をかけてきた。
私が最近2人を無視するから、
南さんはファンクラブの情報網を使い、
私の行動をチェックし始めた。
「南さん、私に興味ありすぎじゃない?
今度は私のファンクラブ作ってよ」
そう言う私を睨んでプンプンする南さん。
そんな私達を興味なさそうに見る勇磨。
なんだ、この感じ。
あ、鬱陶しい。
私は廊下に出た。
大きなため息をついて窓の外を見た時、
制服のポケットに、振動を感じた。
携帯にメールが来てた。
確認する。
画面を見た瞬間、心が温かくなった。
このアドレス。
あ。そうか。
アドレス。消したんだったな。
でも、消しても覚えてた。
ツバサくんだ。
―なぁな、久しぶり元気?―
―今日、会える?―
瞬間的に思った。
どうしたのかな。
また何かあったのかな。
―うん、元気だよ―
―今日、用事があるんだけど、30分くらいなら大丈夫―
そう返事した。
―じゃあ、放課後、なぁなの学校まで行くね―
久しぶりにツバサくんに会える。
ワクワクした。
ちょっと心配にもなる。
でも、ツバサくんに会える!
久しぶりに心がほっこりした。
その日1日をなんとかやり過ごした放課後、
トモに先に練習に行ってと伝えた。
「ふーん。昔の男ね。それもいいかもね。」
勝手に解釈して頷く。
全くトモってダンスの事しか、頭にないのかね。
好きな人とかいないのかな。
そう聞くと
「ちびってさ、自分の事以外興味ナシだな。
ま、どっちにしろ今は好きな女よりちびを優先する。」
なんだかなぁ。
寂しい人生。
このままずっと独り身かもよ。
「ちびにだけは言われたくない」
そう言って練習に出かけて行った。
帰り支度をして廊下に出ると、
勇磨に絡む南さんが私を呼び止めた。
「ねぇ木下さん。
校門で北高の男の子が、待ってるわよ。
全く、お盛んね。」
勇磨がその言葉に反応する。
「北高?」
呟いて私を見る。
「ツバサか」
勇磨の視線に耐えられず、
目をそらし南さんに向き直った。
「ねぇ、南さん。もう私に構わないで。
南さんは勇磨だけを見ればいいでしょ。
私を見ても仕方ないよ。
私と勇磨は何の関係もないんだから」
もう私の事は、ほおっておいて欲しい。
2人をセットで見るのは嫌だ。
もう振り回されたくない!
南さんは口を尖らせる。
「そうだな。関係ないな。」
勇磨の同意に思った以上の傷を受けた。
早くこの場から逃げたい。
トモに言われた事を思い出し、アキレス腱を伸ばす。
足首を回して屈伸をした。
勇磨も南さんも、そんな私を嫌悪感丸出しの顔で見る。
「バカにしてんのか」
「何?感じ悪ーい」
感じ悪いのもバカにしてんのも、そっちだ。
ジャンプして体がOKを出したところで一気に駆け出した。
そのまま校門で待ってるツバサくんの元へ。
ツバサくんは遠目でも分かる。
門にもたれかかり、こっちに気付く。
軽く右手を上げて
「おーい、なぁな!」
と恥ずかしいくらい大きな声で呼ぶ。
かわいい!
「久しぶり!ツバサくん、また背が伸びたね」
もう180センチはあるんじゃないかな。
「なぁなは痩せたね。体調悪いとか?」
お門違いな心配もツバサくんらしい。
会ってみて思う。
やっぱりツバサくんだ!
ツバサくんに会えただけで、こんなにも、
心が穏やかになる。
これが、好きって事だよ。
駅前のカフェに入った。
ツバサくんはウキウキでメニューを開き、
イチゴのパンケーキを選んだ。
好きね、全く。
「ねぇなぁな、ダンスしてるの?」
唐突に聞かれた。
「うん。そうだよ」
でも、何で知ってるんだ?
「いや、この前、
クラスの奴に、なぁなの事を聞かれたんだよ。
同じ中学だったんだろって。
なぁなの事、すごく褒めてた。
ダンスがものすごく上手いって。」
そっか、北高にもチームの子いたな。
「笑っちゃうよね、私がダンスなんて」
でもツバサくんは首を振った。
「ううん、あるかなって思ったよ。
なぁな、運動はイマイチだったけど、
柔軟は得意だったよね。
ダンスの授業も上手だったし。」
え、あ、そうなんだ。
なんか、ちょっと嬉しい。
「俺も見たいな、なぁなのダンス。
今度、見に行こうかな」
うん、いつか来て。
ツバサくんに知られたくなくて、
ダンスをやめたのに。
今は、
私の好きなものを見てもらいたいって思う。
不思議だなぁ。
「ところで、今日、工藤は?
一緒に来るかと思ってた」
勇磨の話題で気持ちが下がる。
「何?ケンカしたの?」
クリームをイチゴに付けて、口に運ぶツバサくん。
なんだろう、癒される。
こんな気持ちになるの久しぶりだ!
「早く仲直りしなよ」
ツバサくんの言葉で、途端に胸が変に痛む。
「ううん、勇磨は好きな人ができて、
そっちに夢中なんだよ。」
フォークとナイフを置いて私を見ながら、
「それはない」
断言するから、ちょっと笑った。
なんで、ツバサくんが断言するのか。
「本当なんだよ。
勇磨は私のダンスの仲間も、私の事も信用してくれない。
今は話せない事もあって、でも信じて欲しいのに。
チカは信じてくれたのに、勇磨には届かない。
友達だって思ってたのに。
勝手に怒って私を無視するんだ。
だからもう、勇磨とは何の関係も…」
―ない―
何故かそれは言葉にできなかった。
ツバサくんは優しい顔で聞いていた。
また泣きそうになる。
でも泣かない。
「男と女は違うよ、なぁな。
工藤はさ、
なぁなの事、友達なんて思ってないよ。
ヤキモチも妬くし、ひねくれる。
信じたいけど信じられなくて。
でも、そんな自分がイヤでさ。
工藤も苦しんでると思う。」
そんな事、ないよ。
それは違うと思う。
もう勇磨は南さんが好きなんだから。
「だから、それはない。
アイツはコロコロ気持ちを変える奴じゃないの。
なぁなも分かってるでしょ。
ほら、なんだっけ?病気。ああ、中2病。
なぁなが告白しちゃえば、すぐに元通りになるよ」
告白って。
私が勇磨を好きって事?
チカも言ってた。
「じゃあ、なぁなは何でこんなに悲しい顔してるの?
工藤が友達なら、彼女できたっていいじゃん。
でも2人を見るの、ツライんじゃない?」
それは、そうだけど。
でも、私、好きっていうのは、
ツバサくんを好きだった時みたいに、
守ってあげたくて笑顔が見たくて、
それが出来たらものすごく幸せで満たされる、そういうものだと思うから。
不安になったり、怖くなったりは違う。
「うん、それも好き、だよね。
俺、なぁなが俺の事好きって言ってくれて、
すごく嬉しかったよ。
でも、なぁなの好きは俺と同等じゃないよね。
与えてくれるって言うか。母の愛みたいな。」
そう言ってケラケラ笑う。
母の愛?
まぁ分からないでもない。
そう感じてた時もある。
でも言い切れない気持ちもあったよ。
私はドキドキして、チクチクして、
ツラくて苦しいのは嫌なんだよ!
「なぁなはさ、ツライ時に俺に会いたいと思った?
俺の前で泣きたいって思った?
ツライ時は工藤に会いたかったんじゃないの?
工藤のツライ時だって側にいて励ましたいって思ったから、
あの時、震えても病院に走ったんでしょう」
それは…
確かに勇磨の前だけでは素直に泣けた。
勇磨が側にいてくれると涙が乾いた時に元気になれた。
勇磨がケガしたって聞いた時も1人にしたくなかった。
側で一緒に泣くしかできなくても。
勇磨といるとドキドキして不安になって怖い。
今もすれ違うだけで、遠くに見えるだけで、
名前を耳にするだけで、怖い。
自分が自分じゃなくなるみたいだ。
「俺だって香澄ちゃんといると、
ドキドキして不安になるよ。
他の奴と話したり一緒にいるのを見かけたら
イライラするし、物に当たりたくなる。
工藤がなぁなと会うなって、
触るなって言ったの、今なら分かる」
意外。
「ツバサくんって感情の振り幅が少ないと思ってた。」
「俺だって、なぁなの事、そう思ってたよ。
だから、俺たちはやっぱり友達だったんだよ。
本当に好きになるとさ、
やっぱり自分のペースじゃいられなくて、
戸惑って怖くなって自分から手放したくなったり、でも離したくなくなるもんじゃないかな」
怒って背を向ける勇磨を手放したい。
見えない所に行きたい。
でもまた一緒に笑いたい。
一緒にいたい。
でも違うよ、好きなんかじゃない。
南さんがチラつく。
好きな訳ない。
勇磨は私の話なんて聞いてくれないんだから。
「じゃあさ、今から俺と観覧車乗りに行こうか」
突然の誘いに驚いた。
でも、観覧車は、乗りたくない。
観覧車だけは。
ツバサくんはニッコリと笑う。
「工藤としてたみたいにさ、
ぎゅーっとしながら観覧車に乗ろうよ」
ちょっと驚いた。
「見てたの?」
照れた顔して笑うツバサくん。
「うん、俺、あの時ものすごく緊張しててさ、助けを求めて振り返ったら、2人でイチャイチャしてるから、余計に緊張して恨んだ。」
イチャイチャなんて。
だって私、高いところ苦手で。
「なぁな、俺とは何回も乗ったけど、
高い所苦手なんて1回も言わなかったよね。
震えもしなかったし。
なぁなが自分を安心して出せるのは、
工藤だけなんじゃないの?
怖くてツラくて不安になっても、
それ以上に楽しくて嬉しくてさ。
大事な思い出になるんじゃない?
俺と乗った何回かよりも、工藤との1回なんじゃないの?」
ツバサくんと何回も乗った観覧車。
なのに、あの日、勇磨と乗ったら全く違ってた。
怖くて怖くて本当に怖かったのに、
一緒に見た夕陽が今でも心に残ってる。
勇磨の優しい声も温かい手も鼓動も。
忘れない。
だから、南さんと乗って欲しくない。
南さんにして欲しくない。
でも、南さんは関係ない。
他の誰にもして欲しくないんだ。
そっか。
私がどうしたいか、だ。
勇磨以外とは観覧車に乗りたくない。
私にとっては大事な場所だ。
私、自分の気持ちを何にも伝えてなかった。
ダンスの事も仲間の事も、勇磨への気持ちも。
他の人とは違う。
勇磨は私にとって大事な存在だ。
どうしても伝えたい。
何してたんだ、私。
いじけてスネて避けてる場合じゃない。
「じゃあ、なぁな、健闘祈るね。」
ツバサくんはニッコリと笑った。
「ありがとう。
でもツバサくんに恋愛語られるなんてねー。
笑える!」
その言葉にちよっとむくれる。
「いつまでも弟キャラじゃないからね。
工藤によろしくね。
また4人で遊ぼうって伝えといて。」
うん、そうだね。
それ、いい!
私は店を出てまたストレッチをした。
よし、待ってろ、勇磨!
無視してもウザがってもぶつかって、
その壁をぶち壊すから。
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(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
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(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
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