最初のものがたり

ナッツん

文字の大きさ
上 下
42 / 64

香澄ちゃんの想い

しおりを挟む
「ナナちゃん!」

駅で声をかけられた。
振り返って驚いた。

香澄ちゃんだった。

1人だ。

ちょっと顔色が悪い。

「香澄ちゃん、どうしたの?」

私の言葉に思い切ったように口を開く。

「ナナちゃん、話があって、待ってたの」

ドキドキした。

何の話?

あれしかないよね。

ツバサくんの事だよね。

「う、うん。あ、じゃあ、お店」

近くのファーストフード店に入った。
ストローを持つ手が震えた。

変なの、何も悪い事してないのに。

少しの沈黙の後、
香澄ちゃんが震える声で話し出した。

「ツバサくん、ケガしちゃって。
検査で肩が悪くなってたら、もう投げられない」

青い顔で話す香澄ちゃんの言葉に、動揺した。

え。ケガって?

そんなに悪いの?

「中学の頃から肩を少し痛めてたらしくて、
この前の試合で悪化したんだって。
明日、検査結果が出るの。」

あ。

思い当たった。

肩が痛いと言ってたの、知ってた。

私、何をしてたんだろう。

ずっと見てたのに。

受診をもっと強く勧めれば良かった。

無理にでも連れて行けば良かった。

「ごめんなさい。私、ずっと知ってたのに。
もっと強く受診を勧めていれば良かった。
投げられなくなったら私の責任だ。」

そう言う私に大きなため息をついた。

「やっぱり、ナナちゃんはすごいね。
ツバサくんを守ってる。
私には出来ない。
ツバサくん、自分もツライのに、
なぁなに知られなくて良かったって言ってた。
きっと責任感じるからって。
病院も行くように言われてたって。
2人の間には入れない。
明日の検査結果、私は行けない。
ナナちゃん、行ってあげて。お願い」

そのまま、うつむいて黙ってる。

ツバサくん、今、きっとツライはず。

そばにいて励ましてあげたい。

守ってあげたい。

でも。

「香澄ちゃんがそばにいてあげた方がいいと思う。」

涙目の香澄ちゃんは可憐だった。

私、誤解してた。

この子は今風のキャピキャピガールでも、
計算高い女でもないのかもしれない。

素直にツバサくんが好きなんだ。

そう思った。

「ううん、ナナちゃんが行って。
私は何も出来ないから。
1番ツライ人の横で私が泣いちゃうから。
気を遣わせちゃう。
守ってあげられない」

そんな事、ないんだと思う。

今、ツバサくんに必要なのは、
守ってくれる誰かじゃなくて。

一緒に泣いてくれる香澄ちゃんだ。

だけど、香澄ちゃんは譲らなかった。

私に病院と自分の連絡先を渡して、
帰って行った。

どうしょう。

ツバサくんが心配だ。

でも私が行くのは違う気がする。

勇磨に聞いてみよう。

そう思った。

次の日、思い切って勇磨に聞いた。

「最後まで怒らないで聞くって、約束してね」

先に約束してもらった。
だって、すぐ怒るから。
最後まで聞いてよ。

「はいはい、うるせ」

感じ悪い。

案の定、途中で怒る。

「は?なんでナナのせいなの?
自分のせいだ。
ナナが責任感じる事なんて1つもないし、
検査結果なら親か顧問と行け」

だからさ、怒らないでってば。
私の言葉に頭をかきむしる。

「私が行っても何も出来ないし、
ツバサくんも、香澄ちゃんにそばにいて欲しいと思う。
すごく頑張ってたのを1番近くで
香澄ちゃんは見てたんだから」

勇磨が、腕を組んで大きなため息をつく。

「確かになぁ。
たかが部活っていっても、
俺も命かけてるしなぁ。
ケガで試合に出れませんって、
なったら落ちるなぁ。
誰とも話したくなくなるな。
1人でひきこもりたくなるし、
自暴自棄になって何するか分からねぇ」

うん、そうだよね。

「でもだからこそ、ナナを1人で、
ツバサのとこには行かせられない。
アイツを信じてない訳じゃないんだ。
だけど、落ちてる男はオオカミなんだよね、
ナナちゃん。」

最後はふざけた。

バカだなぁ。

大丈夫だよ、勇磨。

そんな心配はいらないよ。

「分かってるよ。
香澄ちゃんに後で連絡する。
行けないって。」

分かればいいと私の頭を撫でた。

もうっ勇磨って。

でも自分でも不思議だった。
ツバサくんの事は今も正直、好きだ。
かわいくて守ってあげたい。

そのツバサくんのピンチに側にいてあげたい。

抱きしめてあげたい。

だけど、なんだろ、前と違う。

よく分からないけど、前とは違う。

だから、勇磨、心配いらない。

放課後、香澄ちゃんに連絡したけど、
繋がらなかった。
困って困って結局、
北高まで行ってみる事にした。

校門前で見覚えのある顔を見つけた。
中学の同級生だ。

彼女に香澄ちゃんを呼んできてもらうように頼んだ。

空を見上げて大きく息を吸い込んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

ハイスペックでヤバい同期

衣更月
恋愛
イケメン御曹司が子会社に入社してきた。

好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。

石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。 すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。 なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。

【完結】やさしい嘘のその先に

鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。 妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。 ※30,000字程度で完結します。 (執筆期間:2022/05/03〜05/24) ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ 2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます! ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ --------------------- ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。  (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) ○雪さま (Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21 (pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274 ---------------------

イケメンエリート軍団の籠の中

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 唯一の女子、受付兼秘書係が定年退職となり 女子社員募集要項がネットを賑わした 1名の採用に300人以上が殺到する 松村舞衣(24歳) 友達につき合って応募しただけなのに 何故かその超難関を突破する 凪さん、映司さん、謙人さん、 トオルさん、ジャスティン イケメンでエリートで華麗なる超一流の人々 でも、なんか、なんだか、息苦しい~~ イケメンエリート軍団の鳥かごの中に 私、飼われてしまったみたい… 「俺がお前に極上の恋愛を教えてやる 他の奴とか? そんなの無視すればいいんだよ」

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?

ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編

タニマリ
恋愛
野獣のような男と付き合い始めてから早5年。そんな彼からプロポーズをされ同棲生活を始めた。 私の仕事が忙しくて結婚式と入籍は保留になっていたのだが…… 予定にはなかった大問題が起こってしまった。 本作品はシリーズの第二弾の作品ですが、この作品だけでもお読み頂けます。 15分あれば読めると思います。 この作品の続編あります♪ 『ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編』

処理中です...