最初のものがたり

ナッツん

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ゆるふわガール

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「勇くん。何してるの?」

甘い声とともに、
ゆるふわカールで目がクリクリの、
漫画に出てくるような
超かわいい女の子が現れた。

す、すごいかわいい。

髪型もそうだけど、服もふわふわで
それに負けない白い肌とピンクのほっぺ。
何よりくっきり二重であまい瞳。
そのゆるふわガールが、
工藤くんの腕にからむ。

「ねぇ、勇くん、この子だぁれ?」

工藤くんは絡んだ彼女の腕に、
手を置いて優しく答える。

「クラスの子だよ。」

へぇ、まともに会話してる。

しかも優しい顔できるのか。

ちょっと安心したよ。

「あなた、私の勇くんに何の用?」

上目遣いに私を見る瞳に、
すっかり舞い上がった。

「何も用はないです」

それだけ言った。

かわいいが過ぎる!

「嘘だぁ。あなたも勇くんの事、
好きなんでしょ」

やきもちを妬いてるのか、
頬を膨らませてる。

きゃわゆい。

勇くん、ウザイけど、
あなたは超かわいい。

ただ、「あなたも」、が気になる。

「彼女さんの前では言いにくいけど、
好きじゃないです」

断言した。ごめんなさい。

彼女が、ふふっと笑う。

「なんで言いにくいの?
好きじゃないならいいじゃない」

むしろ嫌いだから言いにくい。

でも、なんでこんな天使みたいな子が、
この中2病の彼女なんだろ。

でもやっとできた彼女に、
こんなかわいい彼女に言えないよ。

中2病の陰気野郎だから嫌いなんて。

何も言えず彼女と工藤くんを見る。
工藤くんは、また勘違い野郎の顔をしてる。

「やっぱり俺を狙ってたんだな。
手の込んだ事、してんじゃねぇよ」

ウザイっ。

コイツ、私の親切を無駄にする!

またカーッと血が上った。
冷静さがぶっ飛ぶ。

「すみません、ちょっとだけ借ります。」

そう言って工藤くんを引っ張り、
彼女から離れた所まで連れて行った。

「いてっ、引っ張んな」

もう我慢できない。

「あんたね、
彼女の前だから我慢してたんだけど、
本当、最悪!
よくあんなかわいい彼女ができたもんだよ。
彼女に言っても良かったの?
大嫌いですって。
中2病の勘違い男で超ウザイって。
コミュケーション能力ゼロのあなたにできた、貴重な彼女でしょ。
悪口伝えたら悪いって遠慮してやったの。
なんで分からないかなぁ。
そこはありがとうでしょ!
というか、安心したよ。
工藤くん、
相当こじらせてると思ってたから。
ヒドイ環境の中にいるんじゃないか、
とか。
過去に何かあって、
人とまともに付き合えないのかと思ったし。
普通にヤバイ奴かとも思ったし。
だから彼女がいて、彼女には、
まともに話せて優しくもできる。
人間として普通かもしれないと思って
安心したよ。
まぁ私には考えられないけど、
工藤くんにも何か
いい所が1つでもあるんでしょ。
彼女、大事にしなね」

そう言ってから彼女に頭を下げた。

じゃあね。

と手を振って帰ろうとした時、
彼女がケラケラ笑いだした。

あんまりにも爆笑するので、
止まって見入っちゃった。

ヤバっ。
爆笑しても天使!

工藤くんは彼女のそばに行き肩を軽く突く。

は?
カチン!

「ちょっと、
女の子を突き飛ばさないでよ。
やっとできた彼女でしょ。」

私のその言葉に更に爆笑する彼女。

「笑うな、ミアン」

工藤くんの言葉に、
ミアンと呼ばれた彼女は
笑いを必死に堪える。

「ごめんごめん、
勇くん、この子、たぶん、
ううん、絶対、天然!初物!」

え?何?

どういう意味?

「勇くん、この子貴重だよ。
笑える!いるんだね。
勇くんもあんまり、
自惚れない方がいいね。かっこ悪。」

そう言って私に近づくと
ニッコリと笑った。

「名前なに?」

ドキドキするほどかわいい。

その辺のアイドルよりも華がある。

「ナナミです。」

ふーんと首を傾げる仕草もかわいい。

ファンになりそう。

ずっと見てたい。

「ナナちゃん、よろしくね。
今度、遊ぼう!」

え、え、遊んでくれるの?

携帯を出してアドレスを交換しようと笑う。

「おい、よせよ。ふざけんな」

は?陰気野郎は黙ってろ。

「ざんねーん。
じゃあ先に帰るね。ナナちゃんまたね。」

そう言う彼女に工藤くんは

「ちょっと待ってろ。
先にこいつを送ってくるから」

と、私を送ろうとした。

「いや、いいから。
彼女を送ってよ。私はまだ練習するし」

私の言葉は一旦無視して彼女を見た。

「勇くん、私は大丈夫だよ。
彼、待たせてるし。ほら。」

そう言って
コンビニの駐車場に停めてある車を指差す。

え、彼?

「早く帰れよ。オヤジが心配するから。」

うん?

どういう事?

「はーい。勇兄」

え?勇兄?

兄って、兄さん?

え?兄妹?

嘘でしょ。

あんな可憐な妹がいるのか。

全然、似てないじゃん。

というか、何してんだ、私。

シュート練習、結局、してないし。

工藤くんと関わると疲れる。

もう一度公園に寄って、
バスケチームのお兄さん達に
教えてもらおう。

それにしても、
あんなにかわいい妹がいるなんて、
神様も不公平な事するな。

明るさコミュ力の全てを
妹に取られたな、あれは。

それで恨んで中2病になったんだな。

少し同情しながら来た道を戻った。

「おい、先に行くな」

工藤くんが追いついた。

「いいのに、送らなくて。」

「そういう訳にはいかない。いちお女だし」

いちお、ね。

ふーん。

そういう事は出来るのか。

そのまま黙って歩いた。

公園の前で立ち止まって、
中をのぞいたけど、
もうみんないなかった。

ボールだけ置いてあった。

「ここでいいよ。
ちょっと練習して帰るからさ。」

今日も1回も、
かごにボールを入れられなかった。

あと少しで球技大会なのに。

焦ってる。

「ダメ、もう帰れ」

は?

なんなの。

「なんで命令されないといけない訳?
ここまで送ってくれてありがとう。
でも私のことはほっといて下さい。
じゃあね。」

そう言って公園に入ろうとした
私の腕を工藤くんは強く掴んだ。

「もう遅い。
練習は明日、付き合ってやるから。
今日はもう帰れ。いいな。」

え?

耳を疑った。

今、なんて?

教えてくれるの?

うそ。

なんで?

どうしてそうなるの?

何か企んでるとか?

分からない。

「ね、
どうして急に教えてくれる気になったの?
何か企んでるとか?
それともまた嫌がらせとか?
というか、
まともに会話が成立してて、
調子狂うんだけど。
どういう事なのかな。」

また私を睨んだけど、
今までと少し感じが違うような気がする。

「うるさい。じゃあ教えない。」

いや、待って。

例え補欠でも、
シュートのコツだけ教えてくれる人なら
大歓迎!

教えて欲しい。

「なんで補欠前提の話なんだよ。
俺、いちおレギュラーなんだけど。
シュートなんて1日で出来るようにしてやる」

あらあら、大きく出ちゃって。

例えあなたが名選手でも
私の運動神経の無さ、
なめてもらっちゃっ困る。

でも言ったら断られそうだから
黙ってる事にした。

「分かったら、今日は大人しく送られろ」

そう言ってまた歩き出した。

工藤くん、不思議。

なんかアタリが柔らかくなった。

国語、少し勉強したのかな。

でも、まずは。

早くシュートできるようにならないと。

頑張らないと。

明日、工藤くんにゴールできるように
してもらおうじゃないか。

そう思いながら家までの道のりを歩いた。
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