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映画はホラーだった。

私、割とホラーは得意。

好きではないけど、特殊メイクとか、
演出が見ていて飽きない。
グロイ系はちょっと嫌だけど、それでも
きゃーきゃー騒ぐほど、純粋じゃない。

人が演じている前提だし、そもそも、
幽霊なんて信じていない。
いたとしても、生きてる人間の方が
よっぽど怖いから。

でも、今日は怖がる。
だって、
ツバサくんにしがみつくチャンスだもん。

「俺は絶対恋なんてしたくない」

後ろから工藤くんの声がした。

工藤くんとナナちゃんは、
私たちの後ろの席に座っていた。

ナナちゃんはきっと、
ツバサくんの隣が良かったよね。

席が分かれた時に、そんな顔をしてた。

「うん、確かに!
恋愛ってコミュニケーション大事だもんね。
勇磨、国語力ないし、会話成立しないしね」

ナナちゃんの言葉にツバサくんが反応した。

「あ、中2病の人って、工藤の事か!
そっかそっか、治ったんだね」

そのツバサくんに、
ナナちゃんと工藤くんが爆笑する。

ああ、そうか、中2病。

少し前にツバサくんが言ってた。

「中2病って、病気じゃないんだってね。
俺、病気かと思ってた」

その時は何を言っているのか分からず、
かわいいなぁ、勘違いして、と思ってた。

そっか。

ナナちゃんがツバサくんの気を引くために、
工藤くんの事をそう言ったんだな。

だけど、

工藤くんは中2病でもなんでもない。
だって、彼は特別だから。
王子様だ。
世界中の女の子がみんな彼を好きで
彼のためなら、
何でもする人もいるんじゃないかなって、
そんな気さえする。

「ナナ、お前、罰ゲームな。
散々、俺の悪口言いまくった罰。」

そう言う工藤くんに反論するナナちゃん。

「え、なんでよ。
そう思わせたのは勇磨じゃん。
私じゃなくてもそう思うよ」

イチャイチャしているようにしか見えない。

ナナちゃんだって、分かってるはずなのに。

工藤くんは「俺様」が許される程
ものすごくカッコイイ。
みんな、大好きだ。

当の工藤くんも

「いや、ナナ以外は俺を好きになる」

と断言している。

ナナちゃんだって、絶対に好きだよ。
わざとやってるんでしょ。
私、興味がありませんって。

だけど、無垢なツバサくんは素直に驚く。

「うわーこれか。これが中2病なんだね、
なぁな。俺、こんな事言う人初めて見たよ。」

もう、本当、イライラする。

ナナちゃんのわざとらしい演技、
いつまで見させられるわけ?

それにいちいち驚くツバサくんもウザイ!

これ、作戦だから。
こういう人いるよね。
芸能人とかに会って、嬉しいのに、
全く興味がありません顔をする人!

嫌い!イヤ!

「工藤くんの言う通りだよ。
私、隣の市の中学だったけど、
みんな工藤くんの事、知ってた。
追っかけの子もいたよ。
ファンクラブもあるよね」

知ってるんだよね、全く。
知らんぷりしないでよ。

それでもとぼけるから、言ってやった。

「わざと知らんぷりしてるんでしょ」
って。

言い当てられて彼女は黙った。

ざまーみろ。

もう、あなたには振り回されないから。

「私達はお邪魔だって。いいね、仲良しで」

適当なことを言ってツバサくんと前を向いた。

もう後ろの2人は知らない!

映画が始まったら、
全力でツバサくんに甘えよう。

ナナちゃんに見せつけながら、
大好きなツバサくんの心に近づけるように。
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