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工藤くんがツバサくんに自己紹介をしていた。

すかさず私も参加した。

彼女は木下ナナミと行った。
あぁ、それでナナか。
じゃあツバサくんのなぁな呼びはどこから?

なんだか、2人の歴史のようで
胸が苦しくなる。

だから、私しか知らない事を話した。
北高で、
ずっとツバサくんが頑張っていた事を。
そばでずっと見ていたことを、
ずっと、ずっと近くで見ていたこと。

あなたがツバサくんと離れ、
工藤くんと過ごしていた、
その間中ずっと、そばにいたのは
私だから。

気がついたら「ずっと」を繰り返していた。

部員たちの想いをまた感じて、
涙が溢れそうになった。

彼女を傷つけたいだけなのに。

そんな私にツバサくんは優しい。

「ありがとう。
一緒に悩んでくれたり、
悲しんでくれて嬉しいよ。
今度は一緒に喜べるようにがんばるから、
もう泣かないで」

ああ、私って最低だ。

目の前のツバサくんは、
悪意のない世界で、いつも笑ってる。

私の嫉妬や意地悪な気持ちなんて
全く気が付かす、優しく受け止めてくれる。

私の言葉や態度で傷ついた彼女は
さっきから青ざめて動揺している。

あなたが悪い、あなたが悪いけど、
そんな顔をしないでよ。

私だけ悪いみたい。

彼女はツバサくんに別れを告げて
帰ろうとした。

その彼女をツバサくんは呼び止める。

「今度の土曜日、
13時にサンフラワーガーデンの
映画館前でいい?」

映画の約束だとすぐに分かった。

また最低な私が顔を出す。

ヤダ、2人で行って欲しくない!

ツバサくんは渡したくない!

ダメ元で一緒に行きたいとアピールした。
「いいな、映画」

ツバサくんが彼女を誘ったんだから、
2人で行きたいはず。
断られるか、流されると思ってたのに、
ツバサくんはあっさりOKしてくれた。

なんで?

デートなんじゃないの?

すごく嬉しくて喜んだけど、何か
ひっかかる。

さっきのシャツのボタンの時のようだ。

ただ、映画が見たいだけ、とか。

まさかね。

彼女の方は不満が顔に出ている。

だけど、私への怒りよりも、
なんか、もっと、弱い感じ。

もう、今すぐ逃げ出したい、そんな様子。

諦めようとさえしている雰囲気だ。

なんなの?この2人は。

「仕方ねぇなぁ。じゃあ俺も参加する。
みんなで行こうぜ」

工藤くんが助け舟を出した。

4人で行くことになった映画を、
楽しみに思う気持ちと、
なんか解せない気持ちで混乱した。
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