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桜高への長い坂道をツバサくんと歩いた。

見上げると葉桜から漏れる光がキラキラと
輝いてきれいだ。

「きれいだなぁ」

思わず呟いた。

横でツバサくんも上を見上げ目を細める。

「なぁながね、俺と同じ北高行くって言ってたのに、この桜並木見たら、こっちが良くなっちゃったんだ。」

ちょっとすねた顔をする。

「でも、本当、きれいだね」

ツバサくんは何を見てもなぁなさんがよぎる。

そっか、だから離れられるんだね。

私なら桜並木が気に入っても、
他に捨てられないものがあったとしても、
ツバサくんと同じ高校に行きたい。

今日、なぁなさんに会えたら、笑って話して
それで終わりにする。

そう決めた。

桜並木の先、校門をくぐった辺りで
突然、ツバサくんが叫んだ。

「おーい、なぁな!」

駆け出した。

ツバサくんを目で追い、
その先で手を振る彼女を見つけた。

その光景に足が止まった。

あの子だよね、なぁなさん。

カフェで一緒にいた子だ。

間違いない。

長い髪をくるっとおだんごにしている。

優しい笑顔の子。

でも、なんで、男の子と、2人でいるの?

ツバサくんが来るって知ってたのに。

なんでわざわざ、
あの、工藤くんと一緒に。

上半身裸の工藤くんと寄り添うように
花壇に座っていた。

それはまるで、恋人のようだ。

工藤くんはこの辺では知らない女の子は
いないんじゃないかな。
アイドル級の、いや、それ以上のルックスで
常に注目されている男子だ。

私の友だちも何人も告白してフラれてた。

女の子は、いや女子はみんな、
工藤くんが大好きだ。

その猫みたいな茶色い瞳に見つめられると
死んじゃうって噂もあった。

でも確か、女嫌いで、
女の子とは口も聞かないし、
いつも硬派な雰囲気をまとっているって。
それも人気の1つではあるらしい。

私も工藤くんを見かけた日は、なんだか
心がふわふわして、みんなに言いふらしたく
なっていたし、実際、騒いだ。

その工藤くんが今、
なぁなさんと並んで座ってる。

ツバサくんは全く動じず、なぁなさんに
背が伸びたと言われ喜んでいる。

あの笑顔や態度はいつも通りだ。

無理しているようにも、
ヤキモチを妬いているようにも見えない。

どういう事?

瞬間、周囲の悲鳴でツバサくんも固まる。

工藤くんが、
なぁなさんの肩を抱いてみせたからだ。

え。

なんで、彼氏の前でそんなこと、できるの?

おかしいよ、こんなの。

ツバサくんをバカにしてる。

急激に怒りが沸いてきた。

なんなの、この子!

ひどすぎる。

ツバサくんに近づいた。

「なぁな、いないから直せなくて」

そう甘えてカバンからワイシャツを出し、
なぁなさんに渡していた。

なぁなさんは優しい笑顔で受け取った。

「いーよ、すぐに付けてあげるから」

ボタンを直そうとしていた。

ヤダ!

あなたなんかに、ツバサくんのシャツは
渡せない!

ツバサくんを傷つける人なんかには。

わざとツバサくんの肩に手を置いて
にっこりと笑ってみせた。

「ダメだよ、ツバサくん。すみません、
私がつけます」

それだけを言って彼女からシャツを
奪い返した。

絶対に渡さない!

「ごめんなさい、他校の方に迷惑をかけて」

私の言葉にあきらかに動揺した彼女。
なんだか、傷ついているようにさえ見える。
その姿にひるんだけど、でも、もう
止められない。

私が欲しいツバサくんを手に入れてるのに、
工藤くんの笑顔でデレデレしちゃって、
最低!

やっぱり、諦めない!

私なら、ツバサくんだけを見て、
ツバサくんだけと仲良くする。

他の人とイチャイチャしてツバサくんを
悲しませない!

諦めるのはやめた!







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