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「立川さんは嘘つきじゃない!」

振り返ると佐藤くんだった。

え?

突然、何を叫んでいるの?

話が複雑になっちゃうからやめて欲しい。

でも、佐藤くんは構わずに続ける。

「立川さんは、俺たちを応援すると言ってくれて、全力でサポートしてくれてる。転んでケガしても泥だらけになっても、いつも頑張ってくれてるんだ。嘘つきなんかじゃない!」

全身をカミナリに打たれたような衝撃だった。

「友だちが夢中になっている事を、
どうして応援できないの?
いつも一緒にいて、仲良しだっただろ。
なのに、なんで信じてあげられないの?」

佐藤くんは必死に叫んでいる。

なんで、そんなこと、するの?

もう、いい。

やめて。

私、そんなふうにかばってもらえるほど、
本気じゃなかったから。

友だちに対して、適当だったから。

私が悪い。

あきれて背を向け、
そのまま立ち去る彼女たち。
それでも更に追いかけようとする、
佐藤くんの腕を掴んだ。

「もう、いいの、ありがとう」

そう言うのが精一杯だった。

そのまま帰ろうと思った。

なのに、佐藤くんは

「よくないよ、追いかけようよ、
友だちでしょ。大事な友だちなんだから。ね、早く追いかけよう。」

そう言って私の手を引いた。

あまりにもガッシリと握られ、
強く引っ張るから逃げられず、
そのまま彼女たちに追いついた。

「何?」

険悪な雰囲気。

もう、私の方が何?って言いたい。

佐藤くんってなんなんだろう。

常識とか、空気とか、普通は、とか、
そんなの頭にないのかな。

ほら、早くいいなよ、と背を押す。

「あの、あのね。」

なんで、私がこんな。

もう、やだ。

佐藤くんのせいだ。

もう、どうでもいい。

だけど、口から出た言葉は自分でも
意外だった。

「みんな、リサ、ごめんね。
私、みんなの事、
本当はそんなに大事にしてなかった。
ただ、楽しくて。
一緒にいるのが楽しくて、
ただ、それだけで。
みんなといると1人じゃないって
安心したかっただけなの。
チヤホヤしてくれてるのも分かってた。
居心地が良くて、利用してただけなの」

こんな風に気持ちを話したのは初めてだ。

どうせもう嫌われちゃったんだから、
もう、本心を話しても一緒だ。

「誰でも良かったの?違うよね。
この人たちだから、1人じゃないって、
安心したんだよね。
ちゃんと言わないと伝わらないよ」

また佐藤くんがしゃしゃり出る

天然なのね、やっばり。

ニコニコ笑って私を見つめる。

その笑顔に包まれ素直になれた。

「うん、誰でも良かったわけじゃない。
リサ達だから、安心した。
でも、利用したのは本当だから、
もう嫌われても仕方ない」

そう仕方ない。

リサ達も黙ってる。

「でもさ、人は誰も利用しあうものだよ。
誰かに頼ったり頼られたりしないと、
生きていけないもん。」

え?

もう、黙って!

イライラしてきた。

「ねぇ、佐藤くん、もう、黙って!
関係ないよね。
私が言ってるのは利用したってことなの。
チヤホヤしてくれて、
私の言う通りになって、楽だったの。
それって利用でしょ。
頼るとは違うよね」

それにも反論してくる

「ううん、みんなだって、
立川さんと一緒にいたいから、
チヤホヤしてくれたんでしょ。
立川さんも一緒にいたいから、
チヤホヤされてたんだし、
お互いに寄り添ってるよね?」

え?

ちょっと!

もう、ほんとに、いや!

「黙って、もう。
なんで寄り添うになるかな。
私は寂しくなりたくなくて、
彼女たちを利用した。
でも、野球部のマネージャーになって、
初めて応援したい、支えたい、
野球そのものにも、興味を持ったの。
だから、彼女たちは捨てた、それだけ」

「うん。
立川さんが本気で俺たちを、
サポートしてくれているのは分かる。
すごく嬉しいありがとう」

いい笑顔で笑う。

何?

話にならない。

もう、本当。

「ぶはっ」
瞬間、リサが笑いだした。

堪らないというふうに爆笑し出すと
他の子もみんな笑いだした。

え?

どうしたの?

「佐藤、やば。話がめちゃくちゃ。」

リサが続ける。

「それに、香澄がこんなにイライラするの、
初めて見たよ、佐藤って最悪!」

こんなに笑われ、最悪とまで言われた本人は
きょとんとしてる。

「何?仲直りしたの?
良かったね、立川さん」

その言葉にまた笑いが起きる。

「もう、分かった、いいよ。
佐藤の言う通り、お互い様だったし。
私も香澄だからチヤホヤした。確かに、
佐藤の言う通り。うん、お互い様。」

リサ・・・。

「香澄の気持ち、聞けて良かった。
部活が休みの日はさ、またごはんに行こうよ」

そう言って笑ってくれた。

こんなことって、あるんだ。

もう仲良くはできないと思った。
戻れないって。
理解してもらえないし、しなくていいし、
無駄な努力だと、思った。

なのに、
佐藤くんに無理やり連れてこられて、
今、気持ちを伝えあって和解できるなんて。

「ていうかさ、佐藤。
さっきから香澄の手、
握りっぱなしなんだけど!」

リサに言われて気がついた。

私、ずっと、佐藤くんと、手を繋いでいた。

佐藤くんも言われて気がついたのか
慌てて手を離し、
「ごめん」
「あの、忘れてて」
しどろもどろだ。

照れてるのかな。
なんか赤くなっている。

その姿に私もキュンとしてしまった。

「何、2人で赤くなってんの?
もう、ほっとこ」

そう言ってみんなは帰っていった。




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