【完結】幸福論

立華あみ

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番外編(完結一年後秋頼Side⑥)

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 こんなにベロベロの絢聖は、かつての自宅…井荻の家に連れ帰った時以来ではないだろうか。
「ほら…もう帰るよ」
「やぁっ…離れたくない」
 今日の酒の回り方は異常な程に早かった。やはり…藍に言われたことが、メンタルや、体調に響いているのだろう。
 結局この子は、悠が大好きで。彼のことで簡単に一喜一憂してしまう。まさに…愛憎だった。
 どんなに彼の願望を叶えても、穴があいた容器を持つ絢聖は満たされない。これ以上傷つかないように、膜を張っても、漏れ出すのが遅くなるだけで、結局は何も溜まらない。
 そんなことは、わかっていた。けれど…腹が立つ。
「帰る家…一緒だろう?」
「やだぁ…帰んない!ここ泊まる…!秋頼さんと外泊する!」
「絢聖がこんなに酔うなんてめずらし…。うちは泊まってもらっても構わないけど…秋頼さんが困るんじゃない?」
 藍が、気を遣ってくれてるというのに、微笑み返すだけで精一杯だなんて自分らしくない。懐深い、年上の男…そうでなければならないのに。
 そもそも、絢聖は、今の精神状態で悠に会いたくないだけだろう。それを、自分と一緒にいたいと言い換える、彼のいやらしさを今日は見過ごしてやることが出来ない。
 一回り以上下の、恋人…。いっそのこと、沢山甘やかし、自分に溺れさせてしまいたい。けれど、彼の体や、表面上の感情を依存させれても、心までは堕とせない。それを行えるのは悠だけで、けれど彼は望まない。
 私はロマンチストだ。ある意味…ナルシストな部分も持っていると自認している。
 行為に至るまでの過程で興奮するし、ねっとりしたセックスは好きだが、一回一回を丁寧に行いたい。
 しつこいながらも体力を必要とする、歳に見合わない無茶な抱き方も、はしゃぐような交流も、勢いで行うことはあれど、無理をしていることの方が多かった。
 それでも、絢聖を安心させたいから行えた。あとは、見栄を張りたかった自分のエゴ。
 その自覚があるから、当たらないように過ごしていたのに。
 抑え込んでいた、小さな不満の吹き溜まり…コントロールしてきた感情。
 だが、息を抜きたくなってしまった…。つまりは、最悪のタイミングでキレたのだ。
「そうか…なら勝手にしなさい」
「えっ…」
「悠のことで毎回乱れる君を慰めてきたが…安心を求めるばかりで、私自身を欲しがったことがあったかい?」
 情けない…もっともらしい言い方で相手を責めているが、少しはこちらにも合わせて欲しい、淋しかったというシンプルな話だ。
「あった…けど、伝わってなかったらごめんなさい」
 泣かれると思った。なのに、酒に酔ってるのは演技じゃないのかと疑ってしまうほど、まっすぐな目でこちらを見つめてくる。
「ちゃんと秋頼さんを欲っしてたんだけど。甘え方がわからなくて…。エッチしないと嫌われちゃうかなって。不安になって色々ぶつけてたかも。あっ、これは僕のエゴか。でも…特技そんくらいしかないし…」
 恥ずかしがりながらも、目を逸らさず絢聖は語り続ける。
「確かに悠のことで心乱れた場面もあったよ。だけど、今は秋頼さんに愛されてるって自覚したかった…。だから、その…したかったというか…、あっでも、これも僕の気持ちか…」
 眉間にシワを寄せながら、あーでもない、こーでもないと、必死に伝え方を考える絢聖…。色々悩んでいたが、結局、彼の健気さに負けてしまう。
 彼を抱き締めたい…。その気持ちに従いたい。
「いいさ…何となく言いたいことは伝わった」 
 絢聖を強く抱き締める。惚れた方が負け…そういう話なのかもしれない。好きだから相手に合わせてしまう、格好つけたくなる。けれど彼となら歩み寄れる。追い詰まる前に話し合える。
 それに、悠と比べ、人生経験の長い秋頼の方が自分の感情を自覚したり、相手の気持ちを察する能力に長けている分、有利だろう。
「僕だけじゃなくて、秋頼さんも不安だったんですよね…本当…自分のことばかりでごめんなさい」
 段々と、話し方が敬語に戻る。酒が抜けてきているのか、最初から大して酔ってなかったのか…。だが、全てに白黒つける必要なんてない。
 継続可能な、二人にとって…そして、三人にとってのベストな関係を築く。その為には、私の努力だけではなく絢聖の力も必要なのだ。
 
 

 
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