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第2章

④あの日との違い

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夕食の時間が終わったことを告げるチャイムが鳴る。
途中からカレーの味なんて分からなかった。

それでも残すことはできない…。
作業のようにスプーンを口へ運び、なんとか完食した。

皆の手が止まると看守が動き出す。

「3番は刑務所内での素行不良によって懲罰となった。足をかけられたり、殴られたりした者は多いはずだ。よって、ここにいる全員。1発ずつ3番の腹を殴ること。殴った者から自由時間とする」

食堂の入口横に3番は震えながら立っている。
つまり出る時に殴らなければいけない…ってことね。

あたしも真咲も動けなかった。
しかし、他は違う。

立ち上がって食器をカウンターに戻し、そのまま3番のところへ向かう。
1発…また1発。

「おえぇ!」

と叫び声を上げ、何度も受け続ける。

「やらないと、ボクたちも懲罰を受けるかもしれない、です。看守命令の無視、だから…」

「こんなのおかしいって」

こう話している間にも3番は殴られ続ける。

「目をつけられる前にボクたちも…いかなきゃ」

逆らえない。現実。

結局あたしたちは最後の2人となってしまった。

「や、やっぱり無理です!」

3番を目の前にした時、真咲は泣き出して頭を抱えた。
看守はそれを許さない。

「では、33番真咲も明日から懲罰行くか?」

真咲が同じ目に遭わされたら…。
この子はきっと。


どうすれば良い?
あたしが2発分やれば…。

考えた時だった。あの言葉が思い出されたのは。

『人を傷つけるにはあまりにもったいない』

……あたしも、殴れないんだ。
手の力が抜け、こぶしを握れなくなった。

3番を連れてきた看守は逆らった真咲の腕を掴み、手錠をかけようとする。

だったら!

「あたしも、できない!!」

看守はこちらを睨む。

「お前もか37番沙羅!」

2人で懲罰を受けよう。
覚悟を決めた時だった。

看守の持っていた手錠が何かで弾き飛ばされ、床にカチャリと落ちた。

「なんかぁ、面白いことになってるわねぇ」

立花ルナだ。

「2人とも殴れないんだぁ? でもおかしいなぁ。37番沙羅は人を殴ってここに来たんでしょ? 暴力が得意なのよねぇ」

うるさい…。
黙れ。

「なんで殴れないのぉ?」

喋るな。
消えろ。

「我慢しきれずに手を出す暴力女なんだからぁ、33番の分も含めた渾身の一撃。できるわよねぇ? それに、あなたも受けないと終われないでしょ?」

3番は泣きながら同じ言葉を繰り返す。

「お願いします。殴ってください。お願いします。殴ってください。殴られないと、許しをもらえないのです。どうか、お願いします…」

そんな目で見るな。
お願いをするな。

あたしは殴れない。
我慢しろって言われたから。

どうすることも…。

「決断の時よぉ? 37番沙羅。あなたの1発が2人を救うわ」

3番と真咲の泣き声が耳に刺さる。
そして、椿さんの声も。

ー『人を傷つけるにはあまりにもったいない』ー




「…ごめん」







右手に精一杯の力を込める。
思い切り後ろに引き、左足で踏み込みながら突き出す。

お腹めがけて一直線に!

当たる寸前、安心した表情が見えた。


お腹で一撃を受けた3番は後ろに倒れ、ピクピク震えている。
強い衝撃を受け続けて制御しきれなくなったのか、「あぁぁ」と唸りながらおしっこを打ち上げていた。

尿があたしの足元まで流れてきても、特に汚いと思わない。

「フフッ。すっごぉい~。満足でしょ?」

立花ルナは3番を担当する看守の肩をポンと叩くと、「じゃあね~」と去っていく。

「……懲罰を終わりとする」

ワナワナと震え、悔しそうな顔だった。
看守同士も色々あるのね。


それにしても、クソみたいに痛いな。右手。
また人を殴ったんだな。
ヒリヒリと痛む右手に不快感を覚える。

でも、3番の表情。
真咲を守ることができた事実。

この選択が…一番良かったのかな。
暴力行為に変わりはないけど、逮捕された時とは違う気分だ。

分からない。
外にいる時のあたしは…何も考えていなかったな。
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