毎日記念日小説

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8月6日 ハムの日

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今日もまた、白い空間に放り出された。
そしてどこからともなくアナウンスが鳴った。


”シチュエーションの設定、人物選択、話題選択が終了しました。
これより雑談を始めます。”

やっぱりアナウンスが止んだ。
やはり、雑談部屋で一番無駄な時間なう。
AIはここを修正しないのだろうか?
やっぱ、修正しないかぁ。
修正してくれないかなぁ。
毎回同じこと思ってるなぁ。
再びアナウンスが鳴った。


”雑談所要時間は30分、盛り上がり等により自動で延長や短縮を行います。
シチュエーションは、『ハムフェアの会場』です。
雑談に参加するメンバーは、『田中様』『小坂様』『芦田様』『五十嵐様』です。
決まった役職、役割等はございません。ご気軽に参加してください。
それでは雑談を始めさせていただきます。
今回の話題は『ハム』です。
それでは楽しい雑談の時間をお過ごしください。”

アナウンスがやんで、光に包まれた。
ハムかぁ。
今日はうまくいきそうだな。
さすがにハムについては話すことがあるだろう。
食べたことだってあるだろうし。
ハムかぁ。
別にめちゃくちゃ好きってわけじゃないけど、あるとテンション上がるんだよなぁ。
ハムとベーコンなら、ハムの方がテンション上がるんだよなぁ。
ハムかぁ。
光が収まった。
皆の表情は、昨日のように張り詰めたような感じはなく、雑談を楽しもうという顔をしていた。
よかった、今回はうまくいきそうだ。
ほっとしていると、最初に五十嵐が話しかけてきた。
「ハムかぁ。うち、ハムとベーコンの違い全然分かんないんだけど、あれって何が違うの?」
どうしよう。
俺も違いが分からねぇわ。
あれって何が違うんだろう?
食べて、なんとなくハムっぽいなとか、ベーコンっぽいな、とかで判断してきたわ。
よくそんなことが気になるな、五十嵐。
俺、そんなこと気にせずに食ってたわ。
誰か答えられる人いるのかな?
ふたりの方を見る。
小坂はダメそうだ。
首を横に振っていた。
芦田はいけるのかな?
おずおずと自信なさげに手を挙げていた。
芦田が話し出した。
「えぇ、あれはね、何個か違いがあるんだよ。えぇ、まずは、原材料が違うよ。ハムは豚のもも肉を、ベーコンは、バラ肉を使うのが一般的なんだよ。えぇ、後なんだっけ?ど忘れしちゃった。えぇ、ちょっと待ってね。パパッと調べるから。


あぁ、えぇっと、製造方法も違うらしいよ。えぇ、ハムの方は燻製後にゆでるか蒸すかして仕上げるんだって。ベーコンの場合は燻製だけで出すことが多いんだって。この二つの違いで、味わいとかが変わってくるんだって。五十嵐ちゃんも食べたらなんとなくハムとベーコンの違いは分かるよね?」
芦田って博識だなぁ。
よくそんなこと知ってるなぁ。
細部が抜けちゃってたのは仕方ない。こんな知識、どこでも使わないだろうから。
芦田の話をうんうんとうなずきながら聞いていた、五十嵐が感心したって感じの声で話し出した。
「ハムとベーコンって全然違うんだ。全然知らなかった。確かに、ハムとベーコンって、食べるとなんとなくわかるよねぇ。味?食べ応え?って感じで全然わかるんだよね」
女子二人だけの流れになりそうだったので、とりあえず会話に参加している風を出すため俺と小坂は小さくうなずいておいた。
たしかに、なんとなくわかるけど、何が違うかといわれると表現が難しいよな。
「気になって前調べたけど、えぇ、私もそれまではなんとなくで食べてたよ。案外違いとか気にしないよね。食レポとかするわけじゃないしね」
五十嵐の発言に感心しているうちに、芦田が話し出していた。
どうしよう、これ上手く入れるのかな?
会話に入っていないっていう警告が一番恥ずかしいんだよなぁ。
どうにかしてはいらなきゃ。
どうしよう?
どのタイミングが一番自然なのかな?
こっちに話を振ってもらったタイミングかな?
でも、人任せにしてると痛い目を見そうだしなぁ。
どうしよう?
小坂はどうするのかと思って小坂の方を見てみたら、なんか決意を固めたみたいな表情をしていた。
小坂は、方針を決めたらしい。
ここで小坂に入っていかれて、一人、注意とかいう展開になったらいたたまれないなぁ。
ぐるぐると考え事をしている間に、今度はまた五十嵐が話し出した。
「ハムってさ、生ハムも全然あるけど、生ハムも好き?私は全然かな。なんか、とがったしょっぱさをしてるやつが多いから、なんとなく苦手なんだよねぇ」
これはチャンスだ。
いまだ、今しかない。



結局、あのチャンスにはうまく乗れなかった。
なんで生ハムも話ししてたのに、急に燻製ベーコンの話をしだすんだよ。
生ハムについてで、前のめりになりすぎて、上手く話題に入れなかったじゃねぇかよ。
それにしても、頷いているだけで、会話に参加している判定になっているのか、最後まで注意は食らわなかったな。俺も小坂も。
それにしても最後の方で一言、二言、話した以外、まったく話せなかったなぁ。
体調不良で、フォームを崩したのかなぁ?
でも、今日は小坂も話せてなかったし、男が入っていきにくかったんだろう。
そうだ。
そうに違いない。
じゃなきゃいたたまれない。
まぁ、仕方ないよね。
今日のメンバーは、乗り遅れたら、入っていくのが難しかったんだろう。
だから、最初に乗り遅れた時点でこの結果になるのはしょうがないことなんだ。
自分を慰めているとアナウンスが鳴った。







”28分22秒65が経過しました。お話の途中かと思いますが、教室の方に転送いたします。話し足りないかと思いますが、この話題はこの場限りといたしますようよろしくお願いします。教室で同じ話題をしたとしても特に罰則等はございませんが、ご協力よろしくお願いいたします。それと同じように、教室での話題をこの場に持ち込まないようよろしくお願いいたします。このアナウンスの内容を何度もお聞きになっていると思いますがなにとぞご協力よろしくお願いいたします。


興味を持って調べること、その知識をいつでも取り出せるところに置いておくことは大切なことです。
いつでも取り出せる知識を蓄えておくため、今日の残りの時間も頑張ってください。
それでは教室にお送りいたします。
それでは良い学校生活を”

アナウンスが止んだ。

教室に戻ってきた。
はぁ、今日はうまくいかなかったなぁ。
でも、上手くいかなくても楽しかったなぁ。
それにうまくいかなくて試行錯誤をするのも楽しいしなぁ。
でも、
今日は家に帰ったら一人反省会だな。

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