毎日記念日小説

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8月5日 タクシーの日 満場一致の早期終了

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今日もまた、白い空間に放り出された。
そしてどこからともなくアナウンスが鳴った。


”シチュエーションの設定、人物選択、話題選択が終了しました。
これより雑談を始めます。”

やっぱりアナウンスが止んだ。
やはり、雑談部屋で一番無駄な時間なう。
AIはここを修正しないのだろうか?
やっぱ、修正しないかぁ。
修正してくれないかなぁ。
毎回同じこと思ってるなぁ。
再びアナウンスが鳴った。


”雑談所要時間は30分、盛り上がり等により自動で延長や短縮を行います。
シチュエーションは、『タクシー乗り場』です。
雑談に参加するメンバーは、『田中様』『岡様』『斎藤様』『野口様』です。
決まった役職、役割等はございません。ご気軽に参加してください。
それでは雑談を始めさせていただきます。
今回の話題は『タクシー』です。
それでは楽しい雑談の時間をお過ごしください。”

アナウンスがやんで、光に包まれた。
タクシー?
使ったことないな。
使うほどのお金もないしなぁ。
そもそもタクシーってどういう仕組みなんだろう?
誰か乗ったことあるのかな?
ある人がいたら聞いてみよう。
どうしよう?それにしても、タクシーに対する知識も思い入れもない。
タクシーの印象って、ドラマの中で出てくるやつぐらいの印象なんだよなぁ。
ドラマの話しでもすればいいのかな?
でもなぁ。ドラマとかもよく分からないからなぁ。
どうしよう?
雰囲気の話しで30分持つかな?
回しをすれば、あんまり自分の話をしなくて済むのかなぁ?
じゃあ、最初に発言して流れもってくしかないなぁ。
誰かタクシーの話をしている人いねぇかな?
斎藤あたりが小話の一つでもうんちくや雑学の一つでも持ってないかなぁ。
それを願うしかないかぁ。
誰に祈ればいいか分からない中、適当に祈りを捧げていると光が収まった。
祈ってるんだから、もっと光り輝くとかすれば面白いのに。
光が収まり、他の三人の方を見ると、皆決意の表情をしていた。
皆の強い決意の表情に一瞬のまれてしまった。
皆のまれたようで、誰かがフライングで話し出すことはなかった。
そして、皆の目を見て分かった。
こいつらも司会的なポジションを狙ってる。
一瞬でも出遅れたら、駄目な奴だ。
あぁ、これ、誰もエピソードがないやつだ。
一瞬の静寂の後、皆同時のタイミングで、満を持していった。
「「「「(逆に)タクシーって乗ったことある(よ)(じゃん)?もしくは(逆に)タクシーにまつわる話ある(よ)(じゃん)?」」」」
あぁ、やっぱり皆エピソードないんだぁ。
ちょっとした絶望の後、皆で息をそろえたようにみんなの問いに答えた。
「「「「(逆に)ない!!!!(よ)(じゃん)!!!!」」」」
「「「「はぁ…」」」
ここまで全部そろっていたから、溜息までそろってしまった。
まぁ、ないよね。
タクシーなんて使わないもん。
それにしてもどうしよう。
これってこのまま終われたりできるのかなぁ。
そう思ったらなぜかアナウンスがなった。
皆はそれがあったか?!!みたいな驚愕の表情をしていた。
あれ?もしかして、今の心の声、口から洩れてた?
やば?!!無意識だった。


”皆さんの投票で、全会一致だった場合、『雑談部屋』を閉じることができます。
この場合は、途中退場時のペナルティである「24時間、『雑談部屋』使用不可」は、ありません。
投票を開始しますか?
はい/いいえ”

脊髄反射で”はい”を押してた。
そして再びアナウンスが鳴った。


”これより、この『雑談部屋』を閉じるか同課の投票を行います。

・この話題の広がりはこれ以上ないと思うからこの『雑談部屋』を閉じてもいい
・それ以外の考えだから、この『雑談部屋』を閉じるべきではない
・投票を棄権する

以上の三つの選択肢の中から一つお選びください。”

おれは、ノータイムで一つ目の選択肢を選んだ。
再びアナウンスが鳴った。


”処理中.処理が終了しました。
投票の結果、満場一致でこの『雑談部屋』を閉じてもいいという意見となりましたので、この『雑談部屋』は終了となりました。
教室への転送のアナウンスをこのあとしますので、それまでお待ちください。”

皆、この話題に未来を感じていなかったようだ。
まぁ、誰も思い出も知識もないような話題って難しいよなぁ。
めっちゃ日常に寄り添っているような話題じゃないと。絞り出すこともできないしなぁ。
あまり待たされることなく4度目のアナウンスが鳴った。




”2分6秒34が経過しました。満足にお話ができたと思いますので、教室の方に転送いたします。話し足りないかと思いますが、この話題はこの場限りといたしますようよろしくお願いします。教室で同じ話題をしたとしても特に罰則等はございませんが、ご協力よろしくお願いいたします。それと同じように、教室での話題をこの場に持ち込まないようよろしくお願いいたします。このアナウンスの内容を何度もお聞きになっていると思いますがなにとぞご協力よろしくお願いいたします。


何かをすぐに終わる勇気、未来を感じないものを切る勇気、このようなものは、学校生活では学ぶことの難しい経験だと思います。
それでも、学校の授業のことは無駄だとか未来を感じないとかで切らないで、今日の残りの時間も頑張ってください。
それでは教室にお送りいたします。
それでは良い学校生活を”

アナウンスが止んだ。
教室に戻ってきた。
明らかにほっとした。
30分間ふわふわした、中身も感心もない話をさせられなくてよかった。
もしかして、『雑談部屋』って思ったよりもいろんな機能があるのかなぁ?
まぁ、後でいっか。
安心でちょっと、緊張の糸がゆるんで、眠くなってきちゃった。
気合で行けるかなぁ?
ちょっと不安。

復帰早々レアケースで、あまり話せなかったけど、楽しかったなぁ。
明日はちゃんと雑談ができますように。
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