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8月1日 水の日
しおりを挟む今日もまた、白い空間に放り出された。
そしてどこからともなくアナウンスが鳴った。
”シチュエーションの設定、人物選択、話題選択が終了しました。
これより雑談を始めます。”
やっぱりアナウンスが止んだ。
やはり、雑談部屋で一番無駄な時間なう。
AIはここを修正しないのだろうか?
やっぱ、修正しないかぁ。
再びアナウンスが鳴った。
”雑談所要時間は30分、盛り上がり等により自動で延長や短縮を行います。
シチュエーションは、『公園の水飲み場の前のベンチ』です。
雑談に参加するメンバーは、『田中様』『佐々木様』『佐藤様』『早川様』です。
決まった役職、役割等はございません。ご気軽に参加してください。
それでは雑談を始めさせていただきます。
今回の話題は『水』です。
それでは楽しい雑談の時間をお過ごしください。”
アナウンスがやんで、光に包まれた。
水かぁ。
だいぶシンプルだな。
シンプルすぎると難しいよなぁ。
あることが当たり前すぎて、微妙に難しい。
昨日強制終了食らったし、今日はおとなしくしてたいな。
昨日は俺のせいで強制終了になったわけでもないけど。
いや?俺が最後話に入ってったから、タイムオーバーになっちゃったのかな?
終わったことだし、今更だし…まぁ、いっか。
今日は何事もなく楽しく雑談できるといいな。
昨日の今日で、なんかやらかさなければいいけど。
今日はちゃんとメンバーも変わっているし大丈夫だろう。
それにしても昨日のメンバーは奇跡だったってことなのかな?
今日はちゃんと誰とも連続になってないし。
頭の中が右へ左へとふらふらしだしたタイミングで、光が収まった。
公園の水飲み場の前のベンチ、すごく懐かしい気分になった。
小学生に上がるか上がらないかぐらいの時にめちゃくちゃ公園で遊んでいたおぼろげな記憶が、ふんわり頭の中で広がっていく。
シチュエーションに設定されているこの公園には、一度も来たことがないのに、何故かすごく懐かしい気分になる。
ただ、子供たちのいない公園に少しだけ寂しさがある。
公園は賑やかな方が落ち着くんじゃないかな?
他のメンバーの方を見ても、なんだか懐かしさに浸っているようなやさしい顔をしていた。
緊張感のないほんわかした空気が流れる空間。
そんな空気に一番合っている早川が雰囲気を壊さない穏やかな感じで話し始めた。
「公園の水ってなぜだかめちゃくちゃおいしいんですよね~。味的にはミネラルウォーターとか、どこかの天然水とか、そういうののほうが、おいしいはずなのに、公園の水を飲むようのあの蛇口から出る水ってなんかおいしいですよねぇ~」
水の切り口が、そこなんだ。
確かにあれうまいよね。
確かにシチュエーションからしてそういうことを話させたかったのかな?
『雑談部屋』って話題が具体的じゃないというか、広すぎる時に、シチュエーションにヒントというかアドバイスみたいなものを置いてくれることが多いよなぁ。
早川の発言の余韻が消えたくらいのタイミングで、次は佐々木が話し始めた。
「分かるぅ。あれって、出始めのめちゃくちゃぬるいというか、むしろ熱い水はめちゃくちゃまずいのに、冷たくなってから上っていく水ってなんかめちゃくちゃうまいよねぇ。なんでなんだろう?運動の直後にある程度冷えた水が飲めるからかな?冷えてるものって正直味とかよく分からないし、運動の直後も味覚がなくなってることが多いし、そんな中で身体が欲している水分と体温を下げるための冷たいという刺激が、味覚を馬鹿にしてるのかなぁ?」
論理的?な雰囲気で、説明?主張?をする佐々木。
すごく納得のいく説明だけど、いつもの佐々木の話し方で、この場と早川の雰囲気に引っ張られて、気の抜ける感じになっていた。締まらないなぁ。
それにしても、今回は、いつもの誰かが何かを言って、それに誰かが反応して、っていう感じのわりとテンポの速めな雑談じゃなくて、一人一人がしっかり言いたいことをゆっくりいう感じの雑談の雰囲気というか流れになった。
俺は、流れに身を任せゆっくりと話し始めた。
「あれって、子供の頃しか飲んでないんだけど、今飲んでも本当においしいのかな?もしかしたら、昔の思い出的な感じでおいしかったと思ってるだけで、それが美化された思いでって可能性はない?もしくは、あの頃の味覚じゃおいしかったけど、今は別にそうでもないのかもしれないし。まぁ、今おいしく感じなくなってたからなんだって話だけど」
俺が話し終わると、佐藤が遠慮気味に話し始めた。
「確かにそうかもね…今と比較したり、それが本当においしかったのかを考える子はすごく大切だと思う…まぁ、そこまで、公園のあの水が上ってくる蛇口の水について興味があるかって言われると、そんなことはないんだけどね…」
確かにな。
そんな熱心に調べられるほどの興味も持ち合わせてないな。
やれって、誰かに言われたら少しは楽しんでやるかもしれないけど、自分から積極的にやりたいというほどのものでもないな。
佐藤って、言語化がうまいのかぁ。
佐藤の発言に感心していると、アナウンスが鳴った。
今日は正常に終われるみたいだ。
ほっと一息。
”28分46秒67が経過しました。お話の途中かと思いますが、教室の方に転送いたします。話し足りないかと思いますが、この話題はこの場限りといたしますようよろしくお願いします。教室で同じ話題をしたとしても特に罰則等はございませんが、ご協力よろしくお願いいたします。それと同じように、教室での話題をこの場に持ち込まないようよろしくお願いいたします。このアナウンスの内容を何度もお聞きになっていると思いますがなにとぞご協力よろしくお願いいたします。
思い出は美化されていくものです。
その美化というオブラートをはがすかどうかは、個人の自由です。
思い出を実態を知るためには邪魔とするならば、取り払ってもかまわないのです。
ただ、授業というのは内容を時がたったからって勝手に自分の頭の中で美化したり改変したりしてはいけません。
それを頭に入れて、今日の残りの時間も頑張ってください。
それでは教室にお送りいたします。
それでは良い学校生活を”
アナウンスが止んだ。
教室に戻ってきた。
今日の帰り、公園にでも行って久しぶりにあの水飲んでみようかな?
まぁ、放課後までこのテンションでこの興味の度合いで入れたらだけど。
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