毎日記念日小説

百々 五十六

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7月30日 梅干しの日

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今日もまた、白い空間に放り出された。
そしてどこからともなくアナウンスが鳴った。


”シチュエーションの設定、人物選択、話題選択が終了しました。
これより雑談を始めます。”

やっぱりアナウンスが止んだ。
やはり、雑談部屋で一番無駄な時間なう。
AIはここを修正しないのだろうか?
やっぱ、修正しないかぁ。
再びアナウンスが鳴った。


”雑談所要時間は30分、盛り上がり等により自動で延長や短縮を行います。
シチュエーションは、『おばあちゃん家の食卓』です。
雑談に参加するメンバーは、『田中様』『大久保様』『九条様』『関様』です。
決まった役職、役割等はございません。ご気軽に参加してください。
それでは雑談を始めさせていただきます。
今回の話題は『梅干し』です。
それでは楽しい雑談の時間をお過ごしください。”

アナウンスがやんで、光に包まれた。
梅干しかぁ。
また、渋いなぁ。
こういう内容はあと40年くらい後でいいんだけどなぁ。
高校生が話すような話題じゃないような気がする。
それにしても、梅干しかぁ。
皆食べれるタイプの人かなぁ。
食べれない人が集まってたら、どうなっちゃうんだろ。
皆食べれないってことで話が終わっちゃうのかな?
それとも、どのくらいの梅製品からがダメなのかって話にでもなるのかな?
もしくは、梅干しの悪口大会になっちゃうのかな?
もし悪口大会が始まっちゃったら、聞くに堪えなくて棄権・退出をしてしまうかもしれないなぁ。
今日も今日とて、渋すぎる話題のせいで、展開を想像してちょっとだけ不安になっていると光が収まった。
落ち着く具合で和洋が折衷している食卓に出た。
なんとなく和風なつくりの家なのに、食卓は洋風感が強くて、このちぐはぐ感こそおばあちゃん家の食卓だなって感じがする。
毎回思うけど、この絶妙に納得させられるようなシチュエーションを誰が考えているんだろう?
もしかして、これもAIなのかな?
ここまで、AIが進出してきてるなら、もう人間は勝てないんじゃないかな?
シチュエーションの感想から飛躍して、適当なことを考えていると、元気よく九条が話を始めてくれた。
「なんか、『おばあちゃん、お代わり!!!』って言いたくなるような雰囲気の場所だな!!!」
九条の独特な感性では、ここは『おばああちゃん、お代わり!!!』って言いたくなるらしい。
なんとなく言いたいことは分からなくもないが、俺がここの感想を語るとしたら絶対に出ない視点だなぁ。
やっぱ九条って面白いんだよなぁ。
俺が九条に感心してると、関が丁寧に今日の話題へとつなげてくれた。
「たしかに、ちゃんと『おばあちゃん家の食卓』がありますね、はい。うちのおばあちゃんは朝食は必ず梅干しをご飯に乗せて出すんですよね、はい。だから、はい。お代わりしすぎると塩分が馬鹿にできない領取っちゃうので、自然と量が抑えられるんですよね、はい。梅干しって好き嫌いがわかれやすい食べ物だと思うんです、はい。皆さんって梅干しは食べられますか?わたしは、結構梅干し好きですよ」
おばあちゃんちの食卓の話からよく、梅干しの好き嫌いの話につなげられたな。
ちょうどよく梅干しのエピソードもってるって、関すごいなぁ。
ここで最後に回るのはなんとなく嫌だから、関の問いに一番に答える形で、俺はなんとか最後を回避しながら雑談に参加する。
「俺は、結構好きだな、梅干し。食卓ではあんまりでないけど、弁当とか、おにぎりとかで食べることが多いかな。酸っぱさで眠気が冷めやすいから朝ごはんとかに食べたいけど、うちでは出ないんだよなぁ。父が梅干し嫌いだからさ」
結構うまく話せたんじゃないだろうか。
俺の話しに反応する時間もないくらい間髪入れずに、最後に残った大久保が話し始めた。
「私は、食べれるけど、好きでも、嫌いでも、ないかな。おにぎりの、具で、入ってたら、びっくり、するけど、それくらい、しか、梅干しで、話すこと、ないかな」
大久保はちょっとだけテンション低めだった。
確かに、好きでも嫌いでもないようなものについて話すのって難しいよな。
熱く語るなんて無理だもんな。テンションをそこまで下げなかっただけいいんじゃないだろうか。
それにしても、梅干しで好き嫌いなしか。
意外だな。
さっき関が言ってた通り、梅干しって、好き嫌いが激しい食べ物だと思ってた。
だから、好き嫌いでは熱量もって話しやすいと思ってたんだけどなぁ。
好きでも嫌いでもないかぁ。
なんか逆に面白いなぁ。
俺の脳内発言品評会を、九条の元気が全部吹き飛ばした。
「俺は、!!!酸っぱい梅干しは食べれない!!!酸っぱくて食べれないんだ!!!はちみつ系のやつは、好きだよ!!!」
元気いっぱいで子供っぽい、九条らしい発言だな。
はちみつ系は甘めだし、酸っぱさがマイルドだからいけるのだろう。
刺激物系苦手そうだもんな、九条。
あと、刺激物系食べてる時、今よりもっとうるさそう。
関の質問に全員が答えたので、次のテーマに移るべきだろう。
この、梅干しの好き嫌いはこれ以上広がりようがなさそうだからな。
またもや関が気を使って次の質問を出してくれた。
「九条君は、はい。はちみつ系が好きなんだね。田中君、大久保さんも梅干しの好みってある?私は酸っぱいほうが好きかなぁ、はい。梅干しは朝食べるものだっている習慣だったから、朝めっちゃ目が覚める酸っぱいやつが好きなんだよね、はい。しょっぱい系のと甘い系のは、朝ごはんで食べることが多い鮭とかの魚系と味が喧嘩しちゃうから、私は酸っぱい梅干し派かな、はい」
関は、ちゃんと丁寧に理由まで話すから、なんとなく聞きやすいんだよなぁ。
でもちょっとだけ、それのせいで発言が長めだけど。
さっきの順番通りに行くなら俺の番だから、俺は、話し出した。
「俺は、少し酸っぱいくらいのやつがいいかな。俺はさっきも言ったけど、弁当とかおにぎりに入っていることが多いから、刺激が強いようなものはびっくりしちゃうから、ちょっと酸っぱいぐらいがいいかな。それと、好みの話しなんだけど、俺は甘いものでご飯食べられないタイプだから、甘めの梅干しだとご飯が進まないんだよね。甘めの卵焼きとかも同じ理由でご飯が進まないんだよね」
関につられてなのか、ちょっとだけ話しが長くなっちゃったけど、これはまだ許容範囲だよな?
もうちょっと要点をかいつまんでいった方がよかったかな?
一人反省会をしてると、大久保が話しだした。
一人反省会はあとでできるし、いったん大久保の話に集中しよう。
「私は、しょっぱいやつ、が好き、かな。私も、田中君と、同じで、甘いもので、ご飯は、食べれない、タイプ、だから、甘いのが、選択肢に、入らなくて、それと、酸っぱいのは、びっくり、しちゃうから、苦手で。だから、消去法で、しょっぱいやつが、好きに、なった」
消去法で好きになるってすごいな。
そんなことあるんだ。
それにしても一周知っちゃったよ。
次のテーマどうしよう。
さすがに、次も関に頼るのは良くないよなぁ。
次の話題を探すために頭をフル回転させていたタイミングで、アナウンスが鳴った。
頑張ればもう1テーマ出せそうなんだけど。
でも、もう時間みたいだ。


”30分49秒35が経過しました。お話の途中かと思いますが、教室の方に転送いたします。話し足りないかと思いますが、この話題はこの場限りといたしますようよろしくお願いします。教室で同じ話題をしたとしても特に罰則等はございませんが、ご協力よろしくお願いいたします。それと同じように、教室での話題をこの場に持ち込まないようよろしくお願いいたします。このアナウンスの内容を何度もお聞きになっていると思いますがなにとぞご協力よろしくお願いいたします。


甘酸っぱい青春、甘い思い出、苦い思い出、しょっぱい結果、刺激的な日々。
日常には、味が溢れている。
何かを表現するときについ味を出したくなるほど、味というのは私たちの生活と密接にかかわっています。
味気ない人生にならないために、味のでた人生を味わうために、
今日の残りの時間も頑張ってください。
それでは教室にお送りいたします。
それでは良い学校生活を”

アナウンスが止んだ。

教室に戻ってきた。
なんとなく口の中がすっぱい気がする。
気のせいだろうけど。
その気のせいで、眠気が全部吹き飛んだみたいだ。
よし、頑張るか。


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