毎日記念日小説

百々 五十六

文字の大きさ
上 下
15 / 147

7月14日 ゼリーの日

しおりを挟む
 いつも通り扉に触れると、白い空間に放り出された。
 あ、そうか。昨日アップデートあったんだっけ?
 何年もあのスタイルだったから、急にUIが変わると驚くなぁ。
 いつも通りどこからともなくアナウンスが鳴った。



 ”シチュエーションの設定、人物選択、話題選択が終了しました。
 これより雑談を始めます。”

 どうやら始まるみたいだ。
 いっしょにすればいいのにってくらい、前のアナウンスに間髪入れずに再びアナウンスが鳴った。

 ”雑談所要時間は30分、盛り上がり等により自動で延長や短縮を行います。
 シチュエーションは、『おばあちゃんちの縁側』
 雑談に参加するメンバーは、『田中様』『九条様』『大久保様』『吉田様』です。
 決まった役職、役割等はございません。ご気軽に参加してください。
 それでは雑談を始めさせていただきます。
 今回の話題は『ゼリー』です。
 それでは楽しい雑談の時間をお過ごしください。”

 アナウンスが止んだ。
 ただでさえ白い空間で、俺の周りが白くぴかっと光った。
 転送用の光だ。
 俺はまぶしくて、直感的に、目を閉じた。
 もういいかと思い目を開けると、アニメに出てきそうなおじいちゃん家の縁側みたいなところに座っていた。
 今回は、いつもの4方位に一人ずつ座るスタイルじゃなくて、四人横並びのスタイルらしい。
 これも今回のアップデートの影響なのかな?
 それとも、めちゃくちゃ低い確率でこういうことが起こるのかな?それならめっちゃラッキーなんだけどなぁ。
 今回のメンバーは、事前のアナウンスの通り、九条、俺、大久保、吉田。この順番で今、縁側に座っている。
 左に座っている九条の方を見ると明らかにほっとした顔になっている。
 多分女子の隣だと緊張するから端でよかったとでも思っているのだろう。
 俺をバリケードとするつもりか。
 薄情な奴め。
 俺だって女子の隣に座るっていうことで緊張するのに。
 それに、縁側にわりと肩が右隣の大久保の肩に触れそうな距離で座っているから余計に緊張する。
 外の田んぼでも見ながら心を落ち着かせようとしたタイミングで、吉田が話し始めた。
「うわー、めっちゃおじいちゃん家じゃん。お中元でいっぱい貰ってあるゼリー食べたい!!!」
 九条がその話に興奮気味に乗った。
「分かる!!マジ分かる!!!おじいちゃん家に夏行くと、おじいちゃんとおばあちゃんじゃ食べきれないでしょってくらいのお中元置いてあるよね!!!!あれの、果肉入りのゼリーめっちゃおいしいよね」
 九条、テンション高いなぁ。
 女子と隣じゃないからって羽のびまくってるな。
 そういえば、確か九条ってわりとおばあちゃん子なんだっけ?
 吉田さんがぽつぽつとだけれど、しっかりした声量で話に入っていった。
「わかる、おじいちゃん家に、出てくるゼリーって、そこそこ高いんだけど、バクバク食べちゃう。うちにあったとしても、親の『これ、〇〇円したんだけど』っていう、視線の圧が、強くて、バクバクいけない。私は、割と、おばあちゃんと、一緒に、抹茶とか。あんこ系の、ずっしりした方、よく食べるよ」
「確かに、おばあちゃんとかって、ずっしり系行くから、果実系があまりがちだよね。俺は九条と同じで余ってる果実系バクバク行っちゃうなぁ。暑さと、柑橘系の酸っぱさがちょうどいいんだけよなぁ」
 俺もスムーズに会話に入っていけた。
 これで注意が入ることはないだろう。
「田中って、ゼリー行くんだ。なんかうち、田中は甘いものあんまり好きじゃないのかと思ってた。うちはね、ゼリーを縁側で食べた後にリビングに戻ってエアコンのガンガンに聞いた部屋で、クッキー系のパサパサしてるのを食べるのが一番好きかなぁ。ちなみにゼリーだと果実梨系の一色のゼリー好きだよ。ブドウゼリーの真紫のやつとか」
「確かに、縁側にゼリーと同じくらい、おばあちゃんちのリビングとパサパサ系ってあうよね!!!俺は、田中の柑橘系とは違って、果物としてあんまり普段食べない系のゼリーが好きかな?マンゴーとかメロンとか」
「わ、私も、一色ゼリー好き。最初から、最後まで、同じ味、だから、安心して、食べれる。」
「お、大久保っちも一色ゼリー好きなんだ。あれ良いよね!!見た目もいいし、ちゃんと普段のゼリーの上位版って感じがするよね」
「九条は、珍しい系派なんだな。ああいうゼリー食べた後に、実際のメロンとかマンゴー食べるとさ、なんか違う感じしないか?俺は、ちょっと違う甘さに感じる」




 雑談は、だんだんと盛り上がっていった。
 最初は横並びで外を見ながら話していたけど、だんだんと話が盛り上がっていって、お互いに顔を見て話すようになると、いつもと同じように四人向き合って話していた。
 いつもと違うのは、真ん中に机がない分、皆の距離がだいぶ近くなったくらいかな。
 九条が吉田に近づかれてたじたじになっていたのも面白かったな。
 前までよりもいいタイミング、話しの切れ目でアナウンスが鳴った。
 お、アナウンスもアップデートで空気が読めるようになったんだな。





 ”33分24秒03が経過しました。お話の途中かと思いますが、教室の方に転送いたします。話し足りないかと思いますが、この話題はこの場限りといたしますようよろしくお願いします。教室で同じ話題をしたとしても特に罰則等はございませんが、ご協力よろしくお願いいたします。それと同じように、教室での話題をこの場に持ち込まないようよろしくお願いいたします。このアナウンスの内容を何度もお聞きになっていると思いますがなにとぞご協力よろしくお願いいたします。



 きれいな田んぼの景色を見てできた活力で、今日の残りの時間も頑張ってください。
 それでは教室にお送りいたします。
 それでは良い学校生活を”


 基本的には文言は変わってないのかな?
 まぁ、テンプレってくらいだから、今までの文章もよくできていたんだろうし、ムリに変える必要もないのかな?
 それでも、最後の方に一言入れてくれるのはありがたいな。
 なんか頑張れそうな気がする。
 でも、あの和やかな雰囲気が染みついちゃってて、授業のペースに置いていかれたらどうしよう。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...