毎日記念日小説

百々 五十六

文字の大きさ
上 下
15 / 111

7月14日 ゼリーの日

しおりを挟む
 いつも通り扉に触れると、白い空間に放り出された。
 あ、そうか。昨日アップデートあったんだっけ?
 何年もあのスタイルだったから、急にUIが変わると驚くなぁ。
 いつも通りどこからともなくアナウンスが鳴った。



 ”シチュエーションの設定、人物選択、話題選択が終了しました。
 これより雑談を始めます。”

 どうやら始まるみたいだ。
 いっしょにすればいいのにってくらい、前のアナウンスに間髪入れずに再びアナウンスが鳴った。

 ”雑談所要時間は30分、盛り上がり等により自動で延長や短縮を行います。
 シチュエーションは、『おばあちゃんちの縁側』
 雑談に参加するメンバーは、『田中様』『九条様』『大久保様』『吉田様』です。
 決まった役職、役割等はございません。ご気軽に参加してください。
 それでは雑談を始めさせていただきます。
 今回の話題は『ゼリー』です。
 それでは楽しい雑談の時間をお過ごしください。”

 アナウンスが止んだ。
 ただでさえ白い空間で、俺の周りが白くぴかっと光った。
 転送用の光だ。
 俺はまぶしくて、直感的に、目を閉じた。
 もういいかと思い目を開けると、アニメに出てきそうなおじいちゃん家の縁側みたいなところに座っていた。
 今回は、いつもの4方位に一人ずつ座るスタイルじゃなくて、四人横並びのスタイルらしい。
 これも今回のアップデートの影響なのかな?
 それとも、めちゃくちゃ低い確率でこういうことが起こるのかな?それならめっちゃラッキーなんだけどなぁ。
 今回のメンバーは、事前のアナウンスの通り、九条、俺、大久保、吉田。この順番で今、縁側に座っている。
 左に座っている九条の方を見ると明らかにほっとした顔になっている。
 多分女子の隣だと緊張するから端でよかったとでも思っているのだろう。
 俺をバリケードとするつもりか。
 薄情な奴め。
 俺だって女子の隣に座るっていうことで緊張するのに。
 それに、縁側にわりと肩が右隣の大久保の肩に触れそうな距離で座っているから余計に緊張する。
 外の田んぼでも見ながら心を落ち着かせようとしたタイミングで、吉田が話し始めた。
「うわー、めっちゃおじいちゃん家じゃん。お中元でいっぱい貰ってあるゼリー食べたい!!!」
 九条がその話に興奮気味に乗った。
「分かる!!マジ分かる!!!おじいちゃん家に夏行くと、おじいちゃんとおばあちゃんじゃ食べきれないでしょってくらいのお中元置いてあるよね!!!!あれの、果肉入りのゼリーめっちゃおいしいよね」
 九条、テンション高いなぁ。
 女子と隣じゃないからって羽のびまくってるな。
 そういえば、確か九条ってわりとおばあちゃん子なんだっけ?
 吉田さんがぽつぽつとだけれど、しっかりした声量で話に入っていった。
「わかる、おじいちゃん家に、出てくるゼリーって、そこそこ高いんだけど、バクバク食べちゃう。うちにあったとしても、親の『これ、〇〇円したんだけど』っていう、視線の圧が、強くて、バクバクいけない。私は、割と、おばあちゃんと、一緒に、抹茶とか。あんこ系の、ずっしりした方、よく食べるよ」
「確かに、おばあちゃんとかって、ずっしり系行くから、果実系があまりがちだよね。俺は九条と同じで余ってる果実系バクバク行っちゃうなぁ。暑さと、柑橘系の酸っぱさがちょうどいいんだけよなぁ」
 俺もスムーズに会話に入っていけた。
 これで注意が入ることはないだろう。
「田中って、ゼリー行くんだ。なんかうち、田中は甘いものあんまり好きじゃないのかと思ってた。うちはね、ゼリーを縁側で食べた後にリビングに戻ってエアコンのガンガンに聞いた部屋で、クッキー系のパサパサしてるのを食べるのが一番好きかなぁ。ちなみにゼリーだと果実梨系の一色のゼリー好きだよ。ブドウゼリーの真紫のやつとか」
「確かに、縁側にゼリーと同じくらい、おばあちゃんちのリビングとパサパサ系ってあうよね!!!俺は、田中の柑橘系とは違って、果物としてあんまり普段食べない系のゼリーが好きかな?マンゴーとかメロンとか」
「わ、私も、一色ゼリー好き。最初から、最後まで、同じ味、だから、安心して、食べれる。」
「お、大久保っちも一色ゼリー好きなんだ。あれ良いよね!!見た目もいいし、ちゃんと普段のゼリーの上位版って感じがするよね」
「九条は、珍しい系派なんだな。ああいうゼリー食べた後に、実際のメロンとかマンゴー食べるとさ、なんか違う感じしないか?俺は、ちょっと違う甘さに感じる」




 雑談は、だんだんと盛り上がっていった。
 最初は横並びで外を見ながら話していたけど、だんだんと話が盛り上がっていって、お互いに顔を見て話すようになると、いつもと同じように四人向き合って話していた。
 いつもと違うのは、真ん中に机がない分、皆の距離がだいぶ近くなったくらいかな。
 九条が吉田に近づかれてたじたじになっていたのも面白かったな。
 前までよりもいいタイミング、話しの切れ目でアナウンスが鳴った。
 お、アナウンスもアップデートで空気が読めるようになったんだな。





 ”33分24秒03が経過しました。お話の途中かと思いますが、教室の方に転送いたします。話し足りないかと思いますが、この話題はこの場限りといたしますようよろしくお願いします。教室で同じ話題をしたとしても特に罰則等はございませんが、ご協力よろしくお願いいたします。それと同じように、教室での話題をこの場に持ち込まないようよろしくお願いいたします。このアナウンスの内容を何度もお聞きになっていると思いますがなにとぞご協力よろしくお願いいたします。



 きれいな田んぼの景色を見てできた活力で、今日の残りの時間も頑張ってください。
 それでは教室にお送りいたします。
 それでは良い学校生活を”


 基本的には文言は変わってないのかな?
 まぁ、テンプレってくらいだから、今までの文章もよくできていたんだろうし、ムリに変える必要もないのかな?
 それでも、最後の方に一言入れてくれるのはありがたいな。
 なんか頑張れそうな気がする。
 でも、あの和やかな雰囲気が染みついちゃってて、授業のペースに置いていかれたらどうしよう。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る

マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。 思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。 だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。 「ああ、抱きたい・・・」

孤児になると人権が剥奪され排泄の権利がなくなりおむつに排泄させられる話し

rtokpr
エッセイ・ノンフィクション
孤児になると人権が剥奪され排泄の権利がなくなりおむつに排泄させられる話し

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

両隣から喘ぎ声が聞こえてくるので僕らもヤろうということになった

ヘロディア
恋愛
妻と一緒に寝る主人公だったが、変な声を耳にして、目が覚めてしまう。 その声は、隣の家から薄い壁を伝って聞こえてくる喘ぎ声だった。 欲情が刺激された主人公は…

男性向けシチュエーションボイス フリー台本 ショタ 弟

しましまのしっぽ
キャラ文芸
男性向けシチュエーションボイスのフリー台本となります。 弟系やショタぽいものを投稿したいと考えております。 女性向け、性別、語尾などご自由に変更して使用してください。 ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガール様からお借りしました

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

処理中です...