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7月4日 梨の日
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”これより雑談を始めます。雑談の所要時間は30分、役職等はございません。
それでは始めさせていただきます。
今日の雑談の話題は『梨』です。
アナウンスが終わった。
梨かぁ。
うまいんだけどなぁ。
なんか良い話題あったかな。
おいしさ?
さすがに話の広がりがないかぁ。
産地とか?
どこどこ産の梨おいしいですよね、とか言えればいいんだけどな。そこまで俺、梨について詳しくないなぁ。
それに多分みんなもそこまで詳しくないでしょ、梨について。
えぇ、他になんか梨についてって言ったら、ガ〇ガリ君の話でもする?
あれの梨味って異常なくらいうまいんだよな。
梨のおいしさを超えちゃってる気がする。
けど、この話ってやっぱり広がりがなぁ。
そうだねー、から無言人あられたら俺のメンタル終わっちゃう。
マジでどうしよう。
とりあえず、自分が話題を出すのはあきらめて、周りの表情を見て回った。
まず右手に座っている佐藤の方を見た。
佐藤は眉がちょっとだけ内側に寄っていた。
多分ダメそうだな。
あれは、ひねり出そうと考えている人の顔だ。
次に正面に座っている森を見た。
森も同じような表情をしていた。
頑張って考えてくれているんだろうけど、期待はできそうにないな。
やばい、やばい。左の堀が同じ表情をしてたら、三十分険しい表情の四人組が黙って机を囲んでいる変な空間になってしまう。
せっかく、海沿いのコテージ?砂浜の海の家?みたいないい感じの雰囲気の場所なのに、もったいない。
お願いだ堀、何か話題があるみたいな顔をしていてくれ。
願いのこもった表情で俺は堀の方を向いた。
堀はさっきまでの二人と同じような表情をしていた。
終わった。
これならせめて、「梨っておいしいですよね」くらい言った方が良いのかな?
そっちの方が険しい表情で黙っている四人組よりはましなはず。
そう思って俺が「梨っておいしいですよね」って言おうとしたタイミングで、堀の表情が晴れた。
もしかして堀、良い感じの話題が浮かんだのだろうか?
堀が口を開いた。
「梨ってさ、冷蔵庫で保管してた?それとも、梨の段ボールの中で保管してた?」
堀が話題を出してくれた。
堀以外の三人の表情がぱあっと明るくなった。
それから、三人とも視線で堀にありがとうを伝えた。
これで変に感謝を述べる時間を作ってしまうと、せっかく堀が出してくれた話題が流れてしまうという三人の意志が統一されたように感じた。
マジでありがとう。
これで沈黙の三十分間は回避できる。
堀の発言からちょっとだけ変な間が開いて、俺が話し始めた。
「うちは基本冷蔵庫に入れるな。たまに入りきらずに野菜室とかにいる時もあるが」
「わかる。冷蔵庫はだよ、わたしの家も。気づいたら野菜室の方に入れてることある、お母さんが」
堀がはしゃぎながら返してくれた。
それに続いて、佐藤が話し出した。
「俺のとこは、おじいさん家から箱で送られてくるから、それをそのまま開けておいとく…」
「分かる。うん。私の家もおじいちゃん家から大量に送られてくるから、そのまま段ボール保管だよ、うん」
今度は、佐藤の発言に森が乗る。
あ、そう言えば梨の話せること一個あったわ。
「梨ってさ、常温より冷やしたほうがうまいけど、常温の方が甘いよな」
「そうだよね。おいしいよ、暑い時に食べる冷えた梨も。それに、甘い時あるよね、あんまり冷えてない加工した梨のお菓子とかどんだけ砂糖使ってんのってくらい梨が」
俺の話題にはなりえないくらいの話しを堀が拾ってくれた。
堀ってもしかして結構、梨について詳しいのかな。
佐藤がなんかワクワクしたような表情で話し出した。
「梨って冷凍庫に入れるとめちゃくちゃ冷たくてうまいんだけど、氷かってくらい味がしないんだよね…」
「分かるわー。なんか食ってて梨に申し訳なるくらい味しない」
俺は佐藤の話しに良い感じで乗れた。
それからは、話題が『梨』だとは思えないくらいの盛り上がりを見せた。
これも、ファーストペンギンで最初に話題を出してくれた堀のおかげだな。
堀への感謝の気持ちを胸に抱いているタイミングでアナウンスがなった。
もうそんな時間か。
”30分が経過しました。お話の途中かと思いますが、教室の方に転送いたします。話し足りないかと思いますが、この話題はこの場限りといたしますようよろしくお願いします。教室で同じ話題をしたとしても特に罰則等はございませんが、ご協力よろしくお願いいたします。それと同じように、教室での話題をこの場に持ち込まないようよろしくお願いいたします。このアナウンスの内容を何度もお聞きになっていると思いますがなにとぞご協力よろしくお願いいたします。
それでは良い学校生活を”
教室に戻ってきて、程よい喧騒がやけに心地よかった。
最初に沈黙の気まずさがあったからか、いつもは少しうるさいと思っていた教室のざわざわとした感じがすっと入ってくる感じがした。
三十分とは思えないくらい、濃い時間だった。
授業前だというのにどっと疲れが溢れた。
そしてそれ以上の達成感が襲い掛かってきた。
今日の授業、起きていられるかなぁ。
それでは始めさせていただきます。
今日の雑談の話題は『梨』です。
アナウンスが終わった。
梨かぁ。
うまいんだけどなぁ。
なんか良い話題あったかな。
おいしさ?
さすがに話の広がりがないかぁ。
産地とか?
どこどこ産の梨おいしいですよね、とか言えればいいんだけどな。そこまで俺、梨について詳しくないなぁ。
それに多分みんなもそこまで詳しくないでしょ、梨について。
えぇ、他になんか梨についてって言ったら、ガ〇ガリ君の話でもする?
あれの梨味って異常なくらいうまいんだよな。
梨のおいしさを超えちゃってる気がする。
けど、この話ってやっぱり広がりがなぁ。
そうだねー、から無言人あられたら俺のメンタル終わっちゃう。
マジでどうしよう。
とりあえず、自分が話題を出すのはあきらめて、周りの表情を見て回った。
まず右手に座っている佐藤の方を見た。
佐藤は眉がちょっとだけ内側に寄っていた。
多分ダメそうだな。
あれは、ひねり出そうと考えている人の顔だ。
次に正面に座っている森を見た。
森も同じような表情をしていた。
頑張って考えてくれているんだろうけど、期待はできそうにないな。
やばい、やばい。左の堀が同じ表情をしてたら、三十分険しい表情の四人組が黙って机を囲んでいる変な空間になってしまう。
せっかく、海沿いのコテージ?砂浜の海の家?みたいないい感じの雰囲気の場所なのに、もったいない。
お願いだ堀、何か話題があるみたいな顔をしていてくれ。
願いのこもった表情で俺は堀の方を向いた。
堀はさっきまでの二人と同じような表情をしていた。
終わった。
これならせめて、「梨っておいしいですよね」くらい言った方が良いのかな?
そっちの方が険しい表情で黙っている四人組よりはましなはず。
そう思って俺が「梨っておいしいですよね」って言おうとしたタイミングで、堀の表情が晴れた。
もしかして堀、良い感じの話題が浮かんだのだろうか?
堀が口を開いた。
「梨ってさ、冷蔵庫で保管してた?それとも、梨の段ボールの中で保管してた?」
堀が話題を出してくれた。
堀以外の三人の表情がぱあっと明るくなった。
それから、三人とも視線で堀にありがとうを伝えた。
これで変に感謝を述べる時間を作ってしまうと、せっかく堀が出してくれた話題が流れてしまうという三人の意志が統一されたように感じた。
マジでありがとう。
これで沈黙の三十分間は回避できる。
堀の発言からちょっとだけ変な間が開いて、俺が話し始めた。
「うちは基本冷蔵庫に入れるな。たまに入りきらずに野菜室とかにいる時もあるが」
「わかる。冷蔵庫はだよ、わたしの家も。気づいたら野菜室の方に入れてることある、お母さんが」
堀がはしゃぎながら返してくれた。
それに続いて、佐藤が話し出した。
「俺のとこは、おじいさん家から箱で送られてくるから、それをそのまま開けておいとく…」
「分かる。うん。私の家もおじいちゃん家から大量に送られてくるから、そのまま段ボール保管だよ、うん」
今度は、佐藤の発言に森が乗る。
あ、そう言えば梨の話せること一個あったわ。
「梨ってさ、常温より冷やしたほうがうまいけど、常温の方が甘いよな」
「そうだよね。おいしいよ、暑い時に食べる冷えた梨も。それに、甘い時あるよね、あんまり冷えてない加工した梨のお菓子とかどんだけ砂糖使ってんのってくらい梨が」
俺の話題にはなりえないくらいの話しを堀が拾ってくれた。
堀ってもしかして結構、梨について詳しいのかな。
佐藤がなんかワクワクしたような表情で話し出した。
「梨って冷凍庫に入れるとめちゃくちゃ冷たくてうまいんだけど、氷かってくらい味がしないんだよね…」
「分かるわー。なんか食ってて梨に申し訳なるくらい味しない」
俺は佐藤の話しに良い感じで乗れた。
それからは、話題が『梨』だとは思えないくらいの盛り上がりを見せた。
これも、ファーストペンギンで最初に話題を出してくれた堀のおかげだな。
堀への感謝の気持ちを胸に抱いているタイミングでアナウンスがなった。
もうそんな時間か。
”30分が経過しました。お話の途中かと思いますが、教室の方に転送いたします。話し足りないかと思いますが、この話題はこの場限りといたしますようよろしくお願いします。教室で同じ話題をしたとしても特に罰則等はございませんが、ご協力よろしくお願いいたします。それと同じように、教室での話題をこの場に持ち込まないようよろしくお願いいたします。このアナウンスの内容を何度もお聞きになっていると思いますがなにとぞご協力よろしくお願いいたします。
それでは良い学校生活を”
教室に戻ってきて、程よい喧騒がやけに心地よかった。
最初に沈黙の気まずさがあったからか、いつもは少しうるさいと思っていた教室のざわざわとした感じがすっと入ってくる感じがした。
三十分とは思えないくらい、濃い時間だった。
授業前だというのにどっと疲れが溢れた。
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今日の授業、起きていられるかなぁ。
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