百々五十六の小問集合

百々 五十六

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私の他作品のあらすじ

短編集花火 作品例

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【残花火】


花火が昇った。
ひゅうひゅうと気の抜けた音を立てながら、花火が天高く上った。
ひゅうひゅうという音がやけに鮮明に耳まで届く。
喧噪の中で、確かに聞き取れるほど鮮明に。
決して大きな音ではないのに。
聞き取ろうとしてもいなかったのに。
上がる花火に連れられて、顎が程よく上がる。
ぱん。
花火がはじけた。
激しい光で夜空が照らされる。
皆が同じ方向を向いていた。
さっきまで見つめあっていたカップルや、場所取りに疲れて寝てしまったお父さんまで、誰一人として、花火から視線を外している人はいなかった。
1点を見つめる人々の顔が花火にてらされる。
喧噪が止まった。
さっきまで、2人となりの人の声が聞こえないほどの喧騒だったのに。
はじける音の余韻が、しっかりと残り続ける。
誰もが、花火に魅入られてしまったようだ。
後続の花火の音と光だけが、その場を彩る。
見入られた人々の表情はかわらない。その表情を照らす花火の色が変わるだけ。
花火の音が骨を震わす。
低く大きいあの音が、心をつかんで離さない。
花火の光が、目に残る。
激しい光のあの色が、目の奥に残り離れない。
次の花火が来ても、残り続ける。
そして次の花火が、上から重なっていく。
時がたてばたつほど、動けない。
花火に圧倒されて。
花火が自分に残り続けて。
光っては消える花火のように、花火の時間も泡沫のように過ぎていく。
一瞬の輝きも、幾度にも重なれば、人を圧倒する。
魅入られる。憧れられる。感動を呼ぶ。

また夏が来る。花火の揚がる夏が来る。
人々の瞳には、まだ消えない花火が。

また一つ花火が増えた。瞳の奥に。
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