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毎日記念日小説(完)

バカ舌野郎 6月6日は飲み水の日

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俺は友人の部屋で勉強会をしていた。
カリカリ、カリカリ。ペラッ
ノートをめくる音と何かを書く音だけが耳に響く。

さっきまで二人分あった勉強の音が、一つぱたりと止まった。
俺はいまだに勉強をしていたので、手を止めたのは友人の方だ。
彼はもう、勉強に飽きたんだなぁと思った。
鼓舞してやるのと同時にからかってやろうと思い、俺は手を止め、彼の方を向いた。
彼もまたこちらを見てきた。
俺が声を出そうとしたとき、タッチの差で彼が話し始めた。
「ねぇ、水の違いって分かる?」
「どういうこと?軟水とか硬水とかってこと?」
俺は、彼の方から教科書に視線を戻し、勉強をしながら言った。
「そういうことじゃなくて、水道水とミネラルウォーターを飲み比べた時に違いが判ると思うかってこと」
俺はまだ、ちゃんと手を動かしながら彼の話を聞いていた。
俺の視線が教科書に向いていることが不満だったらしい。彼が、頬を膨らませているのが定規の反射越しに見えた。
俺は、切りのいいとこまでノートを書いた後、頭の中における、勉強の比重を下げ、会話の比重を上げて彼の問いに答えた。
「あぁ、そういうことか。それならはっきり断言できる。俺は水の違いが分からない」
「そんなに堂々と言うことじゃないでしょ」
その時には俺も完全に手が止まっていた。
勉強の音はこの部屋から完全に聞こえなくなった。
「じゃあ、ちょっと待っててね」
彼は、スタスタと部屋から出ていった。
彼のいなくなった部屋は静かであった。
先ほどまでしていた勉強の音はなく、完全な無音になった。
これから何が起こるのか不安が込み上げてきた。
何が「じゃあ」なのだろうか。
俺をここで待たせて何をする気なのだろうか。
その時には、俺の中で勉強をするという気持ちが完全に抜け落ちていた。
彼がいないのなら、勉強をしてればよかったのに、俺は部屋の中であたふたと歩き回っていた。
しばらくすると彼が帰ってきた。
「ただいまー。ていうかなんで君は立ち上がっているの」
「あぁ、戻ってきたか。これについては気にしないで大丈夫だ」
「勝手にベッドの下とか物色してない?もしくは、勉強机の引き出しの奥とか」
「そんなことはしていない。あれだ、あれ、リフレッシュに立ち上がっただけだ」
「まぁ、それならいいけど。じゃじゃーん、こんなの持ってきたよ」
彼の腕の中には、いくつかの紙コップと、いくつかのラベルのないペットボトルがあった。
「何だそれ」
「これはね、本当に君が水を飲み分けられないのか調べるためのキットだよ。水道水と、ミネラルウォーター100円くらいのやつと、何故かうちにあった1000くらいの水と、アメリカの水道水」
彼が、ひとつずつ机の上に並べていく。
場所が足りなくなったのか勉強道具を雑に端に寄せていた。
もう、勉強をちゃんとする気がないらしい。
まぁ、楽しそうだからいいけど。
「いやいやいや、なんでお前の家にアメリカの水道水があるんだよ。あっちの水道水ってそもそも飲んでよかったのか?危なくないのか?」
「冗談だよ冗談。これはうちのウォーターサーバーの水だよ。アメリカの水道水なんてそんなニッチなもの持ってないよ」
「それにしても、見た目は完全に同じだな。キャップの色に違いくらいしか分からない」
「私もキャップの色でしか区別がつかないよ。じゃあ、ルールを説明するね。まず君には、後ろを向いてもらう。そこに私が、この水たちを適当な順番でこの番号の書いてある紙コップに入れて君のところにもっていく。君はそれを順番に飲む。最後に、番号とどの水なのかを言ってもらう。どう?簡単でしょ?」
「まぁ、ルールは簡単だけど、やることはめちゃくちゃ難しそう。じゃあ俺は後ろを向けばいいのね」
「うん。あっち向いてて」
俺は、彼の指示に従って後ろを向いた。
後ろから、トプトプと水を注ぐ音が聞こえてくる。
「じゃあ、まず一番の水ね」
彼が、1と書かれた紙コップを持ってくる。
とりあえず飲んでみた。
水だ。
水だということは分かるけど、これがどの水なのかは分からない。
まぁ、これが基準になるわけだし、今わからなくても、次飲めば、相対的に分かるでしょ。
「次のよろしく」
「じゃあ、二番の水ね」
彼が、次は2と書かれた紙コップを渡してきた。
とりあえず飲んでみた。
水だ。
さっきのとの違いは1ミリも分からない。
もしかして同じのを飲ませてきてるのではないかと思えるほど水だ。
まぁ、まぁ、焦るな俺。
二つ分からなくても、残り二つがわかれば、二択になる。
そうなれば、運でなんとかなるだろう。
落ち着いていこう。
「次、頼む」
「はい、三番の水」
彼が、3つ書かれた紙コップを渡してきた。
とりあえず飲んでみた。
水だ。
また、同じ水なんじゃないかというくらい違いが分からない。
さすがに三連続で違いが分からないのはまずい。
さすがに舌が馬鹿すぎる。
「もう一杯お願いできるか?」
「分かったよ」
彼が、俺の渡したコップにまた水を注いで返してくれた。
ペットボトルが見えたが、キャップが外れていたためどの水か見分けられなかった。
くそ、カンニングはできないのか。
「はい、どうぞ」
もう一度、三番の水を飲んだ。
やはり、水だ。
ほんとに違いなんてあるのだろうか。
ッ水の違いは、パッケージの違いだけなんじゃないかと思い始めてきた。
「最後お願い」
「じゃあ次最後ね、四番の水」
彼が、4と書かれた紙コップを渡してきた。
最後の希望だ。
とりあえず飲んでみた。
水だ。
まごうことなきただの水だ。
俺の中ではっきりとしたことがある。
水に違いはない。
皆パッケージに騙されているのだ。
それにしても、5杯も水を飲んだから腹がタプタプ言っている。
「全部同じ味に感じた」
「え、ほんとに?」
「あぁ。逆にまじで、全部同じ水なんじゃないか?そういうドッキリを仕掛けられているのか?」
「いやいや、ドッキリなんかじゃないよ。ちゃんと別々の水を出したよ」
「ドッキリじゃないなら、水って全部同じ味なんだな。パッケージしか違いがないのか。それでこんなに値段の差があるなんて詐欺みたいだな」
「いやいやいや。私、君に渡す前に全部飲んでるけど、ちゃんと全部違う味がしたよ。君が分からないからってそんな詐欺だなんて言い出すのは良くないよ。それにしても、君の舌って本当に馬鹿なんだね」
それから、彼は水を片付けるために部屋から出ていった。
それにしても、本当にドッキリじゃなかったのか?
全部同じ味がしたぞ。
そんなに俺の舌ってバカだったのかなぁ。
俺が落ち込んでいると、彼が部屋に戻ってきた。
彼が戻ってきたときにはもう、再び勉強をしようという雰囲気ではなくなっていた。
俺たちは勉強を知ることをあきらめ、雑談をしながらゲームを始めたのだった。
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