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毎日記念日小説(完)
なつかしき給食 6月4日は蒸しパンの日
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「給食で好きだったもの何?」
彼が突然そんなことを聞いてきた。
子湯室の喧騒の中、普段は小声であまり聞き取りやすくはない彼の声。不意に言われて聞き取れたのは初めてだった。今回が特別声が大きかったわけではないのに何故か今までで一番クリアに聞き取れた。
なんでなんだろう。
「唐揚げかな」
俺は唐揚げを頬張りながらこたえた。
「じゃあこれあげる」
彼は、俺の弁当箱の蓋の裏に唐揚げを載せてきた。
「いらないよ。自分で食べなよ」
俺は、弁当箱の蓋の裏に乗った唐揚げを、彼の弁当箱に戻した。
戻した唐揚げは、俺の弁当箱の裏の水滴を吸って少しふやけてしまっていた。
「いいよいいよ。やっぱり、唐揚げも唐揚げのことが好きな奴に食べられた方がうれしいでしょ」
「お前は唐揚げ好きじゃないのかよ」
彼がまた唐揚げを載せようとしたので、俺は弁当箱の蓋を彼から届かない所に匿った。
「俺は、魚派なんだよ。だから、蓋出せよ。唐揚げ載せてやるから」
「俺もだよ。だから、唐揚げ押し付けようとしてくるなって」
彼は、箸でつまんだ唐揚げをこちらに向けて振りながら言った。
「唐揚げ好きって言ったじゃねえか。騙したのか?」
「小学校の給食の時は好きだったんだよ。唐揚げの話を家でして、山盛りの唐揚げを出されたときに俺はもう四半世紀分は唐揚げを食ったんだよ。だからもう20年は唐揚げはいいんだよ」
「じゃあ、しょうがねえか」
彼はシュンとしながら、ゆっくりと唐揚げを引き上げていった。
「じゃあ、今も好きな食べ物の中で、給食の時好きだった食べ物はねぇのか?」
「また押し付けたい食べ物でもあるのか?」
手を顔の前でぶんぶんと震わせ彼は否定した。
「嫌そんなわけないじゃん。ただ興味本位で聞いてるだけだよ」
「そんだけ必死で否定してるところが逆に怪しいな。まぁ、いいや。俺の今も好きな給食の時好きだったものは…蒸しパンだな」
「蒸しパン?それはまた意外」
「なんかパンのわりにぱさぱさしてなくて好きだったんだよ」
「あぁ、君パン苦手だもんね」
「ぱさぱさしてる感じがどうも苦手でね。そんなパンの苦手な要素がまったくと言っていいほどないのが蒸しパンだったから、最初俺のために用意されたパンなのかと思った」
「大げさだね」
気が付けば俺は、席から立ち上がって彼の眼前まで詰め寄っていた。
無意識って怖いね。
「そんなことないぞ。その当時の俺にしてみたら世紀の大発見だったんだからな。そもそも給食ってなんかパンが多いじゃん。俺には、蒸しパンがパン嫌いな俺に降り立った救世主に見えたんだ」
「やっぱり大げさだ」
「そうかな?」
「それにしても、君の好きな食べ物が蒸しパンだとはねぇ。良いこと聞いちゃった」
彼がボソッと何かをお呟いた。
俺は、蒸しパンの魅力を伝える演技に浸っていたため聞き逃してしまった。
やっぱ彼の声量はこのくらいでなくちゃ。
さっきまでが大きすぎたんだな。
「え?何て言った?」
俺はいつものように耳を近づけて聞き返した。
彼が突然そんなことを聞いてきた。
子湯室の喧騒の中、普段は小声であまり聞き取りやすくはない彼の声。不意に言われて聞き取れたのは初めてだった。今回が特別声が大きかったわけではないのに何故か今までで一番クリアに聞き取れた。
なんでなんだろう。
「唐揚げかな」
俺は唐揚げを頬張りながらこたえた。
「じゃあこれあげる」
彼は、俺の弁当箱の蓋の裏に唐揚げを載せてきた。
「いらないよ。自分で食べなよ」
俺は、弁当箱の蓋の裏に乗った唐揚げを、彼の弁当箱に戻した。
戻した唐揚げは、俺の弁当箱の裏の水滴を吸って少しふやけてしまっていた。
「いいよいいよ。やっぱり、唐揚げも唐揚げのことが好きな奴に食べられた方がうれしいでしょ」
「お前は唐揚げ好きじゃないのかよ」
彼がまた唐揚げを載せようとしたので、俺は弁当箱の蓋を彼から届かない所に匿った。
「俺は、魚派なんだよ。だから、蓋出せよ。唐揚げ載せてやるから」
「俺もだよ。だから、唐揚げ押し付けようとしてくるなって」
彼は、箸でつまんだ唐揚げをこちらに向けて振りながら言った。
「唐揚げ好きって言ったじゃねえか。騙したのか?」
「小学校の給食の時は好きだったんだよ。唐揚げの話を家でして、山盛りの唐揚げを出されたときに俺はもう四半世紀分は唐揚げを食ったんだよ。だからもう20年は唐揚げはいいんだよ」
「じゃあ、しょうがねえか」
彼はシュンとしながら、ゆっくりと唐揚げを引き上げていった。
「じゃあ、今も好きな食べ物の中で、給食の時好きだった食べ物はねぇのか?」
「また押し付けたい食べ物でもあるのか?」
手を顔の前でぶんぶんと震わせ彼は否定した。
「嫌そんなわけないじゃん。ただ興味本位で聞いてるだけだよ」
「そんだけ必死で否定してるところが逆に怪しいな。まぁ、いいや。俺の今も好きな給食の時好きだったものは…蒸しパンだな」
「蒸しパン?それはまた意外」
「なんかパンのわりにぱさぱさしてなくて好きだったんだよ」
「あぁ、君パン苦手だもんね」
「ぱさぱさしてる感じがどうも苦手でね。そんなパンの苦手な要素がまったくと言っていいほどないのが蒸しパンだったから、最初俺のために用意されたパンなのかと思った」
「大げさだね」
気が付けば俺は、席から立ち上がって彼の眼前まで詰め寄っていた。
無意識って怖いね。
「そんなことないぞ。その当時の俺にしてみたら世紀の大発見だったんだからな。そもそも給食ってなんかパンが多いじゃん。俺には、蒸しパンがパン嫌いな俺に降り立った救世主に見えたんだ」
「やっぱり大げさだ」
「そうかな?」
「それにしても、君の好きな食べ物が蒸しパンだとはねぇ。良いこと聞いちゃった」
彼がボソッと何かをお呟いた。
俺は、蒸しパンの魅力を伝える演技に浸っていたため聞き逃してしまった。
やっぱ彼の声量はこのくらいでなくちゃ。
さっきまでが大きすぎたんだな。
「え?何て言った?」
俺はいつものように耳を近づけて聞き返した。
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