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毎日記念日小説(完)
あの日の麦茶 6月1日は麦茶の日
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夢を見た。
遠き日の思い出。ひと夏の記憶。
俺が俺になったあの日の夢を。
それは、暑い夏の日だった。
俺は、おじいさんの家に帰省していた。
おじいさんの家は、田舎だった。
そこそこの都会から来ていた俺は、全てが珍しかった。
視界のほとんどを占める自然。
人波や喧噪なんてものはなく、虫の音と風の音だけが響き渡っていた。
緑に覆われた町は、別世界に思えたことを今でも覚えている。
俺はその日、おじいさんの家の縁側に座って外を眺めていた。
何かやりたいことはなかったけれど、俺にとって珍しい眼前の景色を一秒でも眺めていたかった。
だけど俺には外を走り回るだけの体力はなかった。
だから涼しい縁側から景色を目に焼き付けていた。
その姿は、周りの親せきからは変な子と思われていたらしい。
そんな変な子であった私に、唯一話しかけてきたのがあの子だった。
あの子との初対面は、あの子から話しかけてもらった。
あの子は、麦茶を片手に、俺の隣に座った。
それからしばらく俺たちは二人並んで静かに座っていた。
あの子は俺の顔をのぞき込んで、意を決したように言ったのだ。
「麦茶いる?」
その顔を見た瞬間俺は、恋に落ちた。
さっきまで感動していた、景色がかすむほどあの子は可愛かった。
それから俺にはあの子しか見えていなかった。
さっきまで感動していた景気は、あの子の背景へとなり下がっていた。
「あ、うん」
俺は、あまり口が達者な方じゃなかったので、しどろもどろになりながらあの子から麦茶を貰った。
恋に落ちた衝撃と、割と長時間外を眺めていたことで火照った身体を麦茶で冷やした。
体が冷え冷静さを取り戻した。
冷静になって、好きな子が隣にいるという事実に心臓をバクバクさせた。
「ねぇ、君なんて言うの?」
それから、あの子にリードされながら会話を続けた。
あの子は、話し上手というより聞き上手だった。
俺の言葉をちゃんと待ってくれて、相槌もしっかりしてくれて、何より目を見て話せた。
だから会話が苦手な俺でも、あの子の前では饒舌になれた。
いつの間にか、燦燦と照っていた太陽は沈み、あんなに高かった気温は、落ち着いていた。
それから俺は、あの子と別れるまでずっと一緒にいた。
一緒に虫取りに出かけたり、散歩に出かけたりもした。
いっぱいお話をしたし、いろいろなことを聞いた。
俺より二つ年上のあの子の話は、とても面白かった。
大人が話している話よりも近く感じられた。
あの事何かをしたいというより、あの子と一緒に居たくて、その口実で何かしていた。
ただ俺たちにも別れの時が訪れた。
当然だ。俺たちは親せきの集まりでおじいさんの家に来ていただけで、もともと住む場所は、遠い。
俺は、人生で初めて駄々をこねた。
もっとあの子と一緒にいたいと。一緒にいさせてほしいと。
親は困った顔をするだけで、俺の願いはかなえてくれなかった。
離れるのは嫌だったけれど、涙の別れはもっと嫌だった。
だから俺は、あの子が帰ってしまう直前に泣き止んで笑顔で見送った。
その時に何か約束をした気がするけど、もう何年も前の話なので、忘れてしまった。
多分あの子ももう覚えてないだろう。
薄情だと思うかもしれないが、子供のころのひと夏の思い出なんてこんなもんじゃないだろうか?
夢から覚めた時、俺の頬には一筋の涙が伝っていた。
俺は、もう一度会いたいと願いながら瞳を再び閉じた。
遠き日の思い出。ひと夏の記憶。
俺が俺になったあの日の夢を。
それは、暑い夏の日だった。
俺は、おじいさんの家に帰省していた。
おじいさんの家は、田舎だった。
そこそこの都会から来ていた俺は、全てが珍しかった。
視界のほとんどを占める自然。
人波や喧噪なんてものはなく、虫の音と風の音だけが響き渡っていた。
緑に覆われた町は、別世界に思えたことを今でも覚えている。
俺はその日、おじいさんの家の縁側に座って外を眺めていた。
何かやりたいことはなかったけれど、俺にとって珍しい眼前の景色を一秒でも眺めていたかった。
だけど俺には外を走り回るだけの体力はなかった。
だから涼しい縁側から景色を目に焼き付けていた。
その姿は、周りの親せきからは変な子と思われていたらしい。
そんな変な子であった私に、唯一話しかけてきたのがあの子だった。
あの子との初対面は、あの子から話しかけてもらった。
あの子は、麦茶を片手に、俺の隣に座った。
それからしばらく俺たちは二人並んで静かに座っていた。
あの子は俺の顔をのぞき込んで、意を決したように言ったのだ。
「麦茶いる?」
その顔を見た瞬間俺は、恋に落ちた。
さっきまで感動していた、景色がかすむほどあの子は可愛かった。
それから俺にはあの子しか見えていなかった。
さっきまで感動していた景気は、あの子の背景へとなり下がっていた。
「あ、うん」
俺は、あまり口が達者な方じゃなかったので、しどろもどろになりながらあの子から麦茶を貰った。
恋に落ちた衝撃と、割と長時間外を眺めていたことで火照った身体を麦茶で冷やした。
体が冷え冷静さを取り戻した。
冷静になって、好きな子が隣にいるという事実に心臓をバクバクさせた。
「ねぇ、君なんて言うの?」
それから、あの子にリードされながら会話を続けた。
あの子は、話し上手というより聞き上手だった。
俺の言葉をちゃんと待ってくれて、相槌もしっかりしてくれて、何より目を見て話せた。
だから会話が苦手な俺でも、あの子の前では饒舌になれた。
いつの間にか、燦燦と照っていた太陽は沈み、あんなに高かった気温は、落ち着いていた。
それから俺は、あの子と別れるまでずっと一緒にいた。
一緒に虫取りに出かけたり、散歩に出かけたりもした。
いっぱいお話をしたし、いろいろなことを聞いた。
俺より二つ年上のあの子の話は、とても面白かった。
大人が話している話よりも近く感じられた。
あの事何かをしたいというより、あの子と一緒に居たくて、その口実で何かしていた。
ただ俺たちにも別れの時が訪れた。
当然だ。俺たちは親せきの集まりでおじいさんの家に来ていただけで、もともと住む場所は、遠い。
俺は、人生で初めて駄々をこねた。
もっとあの子と一緒にいたいと。一緒にいさせてほしいと。
親は困った顔をするだけで、俺の願いはかなえてくれなかった。
離れるのは嫌だったけれど、涙の別れはもっと嫌だった。
だから俺は、あの子が帰ってしまう直前に泣き止んで笑顔で見送った。
その時に何か約束をした気がするけど、もう何年も前の話なので、忘れてしまった。
多分あの子ももう覚えてないだろう。
薄情だと思うかもしれないが、子供のころのひと夏の思い出なんてこんなもんじゃないだろうか?
夢から覚めた時、俺の頬には一筋の涙が伝っていた。
俺は、もう一度会いたいと願いながら瞳を再び閉じた。
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