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毎日記念日小説(完)

殴りたくなるくらいの失敗 5月19日はボクシングの日

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スパンッ
父親の腕が、俺の頬をかすめ振りぬいた。
重い音と共に頬に激痛が走った。
不意の一撃に無防備にビンタをくらってしまった。
親父にもぶたれたことがなかった頬が、親父にぶたれた頬になってしまった。
「何するんだ親父」
俺は、痛みが止まない頬を抑えながら、親父に向かって叫んだ。
「何をのうのうとうちに帰ってきているんだ、お前は。お前は、自分が何をしでかしたのかを分かっていないのか?この薄情息子が」
親父が言っていることが何一つピンと来ない。
「今朝、麻野さんという女性から電話が来た。麻野さんは、お前に捨てられたと言っていた。散々貢いだのに捨てられた。それに、DVも受けたと怒りながらに言っていた。お前は女性に貢がせて、捨てるような薄情者だったのだな。それに、俺が教えた拳は、ボクシングのための物であって、喧嘩や、ましてやDVの為に教えたんじゃない。そんな奴はもう俺の息子じゃない。徹底的に反省するまで家から出さないからな」
その言葉と共に、親父は俺の頭めがけて拳骨をしてきた。
頬と頭の痛みは、親父が出した名前を聞いた瞬間に吹き飛んでしまった。
イヤな汗が、全身の穴という穴から噴き出すように感じた。
殴られた怒りなど忘れ、親父に即急に確認を取った。
「親父、その電話氏の声って、こういう声じゃなかったか」
「あぁ、そのまんまの声だ。なんだ、きちんと身に覚えがあるじゃないか。それなら、すっとぼけて、なかったことにしようとするんじゃなく、ちゃんと反省しなさい。もうすぐ麻野さんも来るはずだから、まずは、当事者同士ちゃんと話し合いをしなさい」
親父の説教が始まりそうになったタイミングで、俺は親父を怒鳴りつけた。
「親父、何してくれてんだ。あのストーカー女を家に招き入れようとするなんて。何されるかわかったもんじゃない」
「ストーカーとはどういうことだ?麻野さんは、お前と同棲していたと言っていたぞ」
親父は、怒鳴られたことに不服そうに言った。
「親父は、今朝初めて電話越しで話した相手と、長年一緒にいる息子、どっちの話を信用するんだよ。あいつと同棲なんてしてない。俺はあいつに軟禁されていたんだ。そこから何とか抜け出して、今いる場所が分からないようにいろいろな場所を転々として暮らしていたんだぞ。もちろん自宅は特定されていたから帰れない。まるで、逃亡生活みたいだったんだぞ」
俺は再び、親父を怒鳴りつけた。
あの長く苦しい逃亡生活の思いを載せて。
すると親父は、シュンとした後考え込んだ。
しばらくして親父は考え終えたのかゆっくりと口を開いた。
「もちろん息子の言うことを信じたいさ。でも、麻野さんの言うことが真実かもしれないだろう?一度ちゃんと両者の話を聞いてから行動するべきだったな。でも、もううちの場所を教えてしまったんだ。もうそろそろ、家についてしまうぞ」
冷静に反省している親父が、他人事で言っているように聞こえた。
俺は、あの女への恐怖と親父への怒りで感情が爆発してしまい、親父を殴り飛ばした。
親父は、俺に急に殴られたということで動揺している。
その間に、広げようとしていた荷物をつかんで、家から飛び出した。
廊下に差し掛かった時に、吐き捨てるように親父に言った。
「今度の逃亡生活の費用は完全に親父持ちだからな。うちがばれたことの非は親父にあるんだから、全額出してくれるよな?!!後で振り込んどけよ。あの女の言葉を信じた親父が悪いんだからな。知らない奴からの電話でペラペラ個人情報を言うなよ」
俺はまたあいつから、逃げなきゃいけないらしい。
あのヤンデレストーカー野郎から。
やっと実家に帰って平和に暮らせると思ったのに。
あぁ、もう一発くらい親父を殴っておけばよかった。
どうしよう、もう、国内だと逃げ切れる気がしない。いっそ海外に行こうかな。
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