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毎日記念日小説(完)

もう親父の三回忌 5月17日は高血圧の日

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「親父、なんで死んじまうかな…」
 親父が亡くなって三回忌となった。
 三回忌には、葬式とほとんど変わらない規模の人が集まった。
 これが親父の人望だったのだろう。
 100人超の黒服がうつむいて、親父に思いをはせている。
 誰もが下を向いている。
 誰にも見られていない空は、夏らしい青々とした空だった。
 天までもが、親父の死を思っているのではないかと思えるほどいい快晴であった。
 坊さんの話が終わり、食事会となった。
 屈強な男どもが、その見かけからは考えられないほどちびちびと飯を食い、ちびちびと酒を飲んでいた。
 親父が死んでから三年がたったというのに、皆の目には涙が浮かんでいた。
 親父との思い出に浸っていると、親父が最後に可愛がっていた若いのが話しかけてきた。
「おう、坊ちゃん呑んでますかい?」
「坊ちゃんという呼び方はやめるようにと何度言ったらわかるんだ。俺はもう四十だぞ。それに年はお前の方が若いだろ」
「坊ちゃんはいつまでも坊ちゃんじゃないですか。それにしても、おやっさんの三回忌、結構集まりましたね」
「あぁ、皆親父にお世話になったからと言って、義理堅く来てくれたんだ」
「そうですかい。やっぱ親父さんは、すげぇいい人だったですねぇ」
「あぁ、古い人ではあったが、その分義理と人情にはめちゃくちゃ厚かったな」
「それじゃあ、俺は挨拶まわってきますね」
 俺と話してた若いのの目は、俺を見てはいなかった。
 親父を探しているみたいな目をしていた。
 あいつもまだ、親父に囚われているのかねぇ。
 若いのと入れ替わるように、おばちゃんが話しかけてきた。
「ちゃんとあいつと話せたかい?おっさんの相手ばっかで、そこを疎かにするんじゃないよ。こいつらが邪魔だったら私がガツンと言ったげるからね」
「あぁ、おばちゃんありがとう。でも大丈夫だよ。皆が親父を思ってくれているのを見せるのが、親父への一番の恩返しだと思うから」
「あいつは、死なないかと思うぐらい元気な頑固爺だったけど、病ってのは怖いね。あんな元気な奴でもコロッと行っちゃうんだから」
「高血圧から来る脳の病気だったらしいな。親父、病気が見つかった時にはもう末期で、対処のしようがなかったんだ。でも、寿命を宣告されたとき、親父は豪快に笑いながら『けつが決まってるほうが、残りの人生楽しめるってもんよって』って言ってたんだ。あの時、追っていくべき親の背中を見た気がする」
「あいつなら、そう言いかねんねぇ。あいつはそれくらい豪快なくらいがちょうどいいんだよ」
 いつもなら、おばちゃんって呼ぶとどやされてたのに、今日はやけにしんみりとしていた。
 おばちゃんは、移動していくときに小声で「あいつがいないと寂しくなるねぇ」とつぶやいていた。
 やっぱり親父は、いろんな人に慕われていたのだろう。

 青空は夕暮れ色になり、そして夜はふけていった。
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