上 下
63 / 258
毎日記念日小説(完)

旅を始める前に 5月16日は旅の日

しおりを挟む
「旅に出ようと思う」
俺は、こぶしを握り締めながら、両親に向かって宣言した。
「どうしたんだい一体?」
母は困惑したように答えた。
「学校はどうするんだ?」
父は心配するように答えた。
「それは大丈夫。もともと通信制の高校だから、学校に行く必要はないよ」
「確かにそうだったな」
父は忘れていたことを恥じるように早口で言った。
父はしばらく考え込んだ。
そのあいだに、母が聞いてきた。
「どこに行く予定なの?もちろん国内でしょ?海外とか言わないわよね?」
宝物を没収されそうになっている子供みたいな顔をして母は言った。
「もちろん国内だよ」
「そう、よかったわ。具体的にはどのあたりに行く予定なの?」
母は、安堵の表情を浮かべていた。
「南に行ってみようと思う」
「そう、ならおばあちゃんちとかも寄ってくのね」
「近くに行ったら寄ってくと思うよ」
母と入れ替わるように、考え込んでいた父が質問してきた。
「何で旅をするつもりだ?」
「何でって何?」
「移動手段は何にするつもりだ?」
「バイクか、電車かな」
「そうか、じゃあ寝泊りはどうするつもりだ?」
「バイクならテントを持って行って、電車ならネカフェとかに泊まるつもりだよ」
「そうか、なんで旅に出るんだ?」
「いろいろなことを経験して、世界を広げたいと思ったから」
「じゃあ、バイクにしなさい。それなら、ある程度お金を出してやろう」
「わかったよ。お金ありがとうね。もともとは、出先で単発のバイトとかやるつもりだったから助かるよ」
父とのテンポのいい問答が終わった。
そして再び父は考え込んでしまった。
また、それを待っていたかのように母が話しかけてきた。
「今のお父さんと貴方の話を聞いて、ちゃんと考えていっていることが伝わったわ。思い付きで言っているわけじゃないのね。それならお母さんはおおえんするわ」
「ありがとうお母さん」
「それじゃ、夕飯食べちゃいましょ。せっかくおいしく作ったんだから、冷めちゃったらもったいないわ。」
母が、並べられた夕飯を見ながらそう言った。
そして、三人で手を合わせて言う。
「「「いただきます」」」
それから、もくもくと食事をした。
うちは、食事中はしゃべらないタイプの家庭だ。
父は、難しい顔をしながら黙々と食べていた。
母は、先ほどの話はいったん忘れて、料理を楽しんでいるかのような顔で黙々と食べていた。
俺は、ほっとして、少しの達成感を感じた顔で黙々と食べていた。
しばらく黙食が続き、食べ終え箸をおくタイミングで父に話しかけられた。
「キャンプ道具はあるのか?」
「これから買うつもり」
「それなら、お父さんが昔使っていたのをあげればいいじゃない」
母が横から話に入ってきた。
父は、少し驚いた後冷静になっていった。
「あぁ、元からそのつもりだ。うちにあるやつを持っていきなさい」
「わかったよ。そのほうが安く済むからありがたい」
「どれくらいキャンプする予定なんだ?」
「寝泊りと、軽い朝食用ぐらいを考えてるよ」
「じゃあ、バーベキュー関連の物はいらないな。小さいやつはうちにはないから、後で一緒に買いに行くか」
「あら、お父さんから買い物に誘うなんて珍しいわね」
母がにやにやしながら言った。
父は心なしか恥ずかしそうで、緊張してるように見えた。
「あぁ、わかった。じゃあ今度の月曜日でどうだろう」
「あぁ、了解した」
だんだんと旅の準備が整っていく。
旅が近づいてくる。
不安とワクワクで、心がいっぱいだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

処理中です...