百々五十六の小問集合

百々 五十六

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桜のように散った私たち【読み切り版】【俺Ver.】(未完)

前日相談 当人よりも自分事

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公園にたどり着き、いつものベンチに座る。

いつ相談が始まるのかとソワソワしながら幸太郎を見つめる。

軽く間をおいて、幸太郎が話し始めた。

「早速、相談なんだけど」

幸太郎は大きく息を吸う。こちらを引き込み、俺の意識が完全に、幸太郎が話すであろう次の言葉に向けられる。ちょうどその時、落ち着いた声で、再び幸太郎が話し始めた。

「明日、癒月に告白しようと思うんだ」

予想通りの内容。いつか来るだろうと予想していた相談が、幸太郎から持ちかけられた。

とうとう、この時が来たか。

「おう。それはまた、だいぶ急だな」

「僕だけ、高校が君たちと違うじゃん。離れる前にちゃんと気持ちを伝えて、この気持ちにきちんとけりをつけようと思うんだ」

3年間抱えていた思いの割に、なんともお粗末で、チンケな理由じゃねえか。

今までのチキってたのは何だよ、焦りで告白するのかよ。満を持していくんじゃねえのかよ。

それと、それだけの思いで、告白するなら、ちと危うくねえか?

焦って告白してもうまく行かねえんじゃねえか?幸太郎から借りた漫画には、そう書いてあったが。

幸太郎のことだし、それだけじゃねえよな?なにか考えがあんだろ?あんだけ熱く語っていた、癒月への思いはそんなんじゃなかっただろ。聞かせてくれよ。

なるべく感情を抑えて、幸太郎に聞いた。

「でもよ、さっき幸太郎が言ってたように別に引っ越すわけでもないんだし今に拘る必要は、ないんじゃね」

「きっかけは離れることだよ。でも、告白しようと思って、改めて癒月のことを真剣に考えてみたんだ。そしたら、この気持ちを癒月に伝えたいって気持ちが段々と大きくなって、今なら優柔不断な僕でも告白できるんじゃないかと思ったんだ」

やっぱり、幸太郎は主人公みたいなやつだ。幸太郎から借りたラノベの主人公と、同じようなこと言ってやがる。

それだけの思いがあるんなら、手伝わねえ理由はねえよな。

それなら親友として、幸太郎には大船に乗ったつもりで告白してもらわねえとな。

「幸太郎にしては、随分と思い切りの良いことを考えたな。よし、じゃあ全面的に手伝ってやるよ。相談だな、どんと来い。」

そう言って、思いっきり幸太郎に向けて手を差し伸べた。

幸太郎は一瞬キョトンとした後、しっかりと力強く握り返してきた。

手を離し、再び幸太郎の正面に向き直る。すると、ふと、初めて相談された日のことを思い出した。入学式の日の帰り、この場所で癒月に一目惚れしたって聞かされたな。あのときは、目ん玉飛び出すかってぐらい驚いたのを覚えてるな。

「まあそれにしても、お前がアイツのことを好きになってもう三年近くも経つのか」

「中学入学直後からだから、もうほとんど三年になるね」

やっぱ聞いとくか、幸太郎の惚気話。相談にのるんだ、けじめだと思えば、聞いておくべきだよな。

「改めて聞くけど、あいつのどこが好きなんだ?俺には恋愛とかよくわかんねえからさ、もう一度教えてくれよ」

「癒月はね、僕に優しく声をかけてくれるんだ。薫が休んだ日とかに、一人でいる僕に話しかけてくれたことがきっかけなんだ。それとね、僕の知る限り唯一薫のネガティブなことを言わないんだ。癒月ってすごく優しくて思いやりがあるんだよ」

眩しい笑顔を浮かべる幸太郎。

めっちゃ幸せそうだな。俺と遊んでるときには絶対こんな顔しねえからな。ちょっと悔しい。

「めちゃくちゃ好きなんだな。聞いてるだけで伝わってきたわ。癒月の話をしているときの幸太郎って幸せそうだよな」

「うん、大好き。癒月にはずっと幸せでいてほしいんだ。笑顔がすごく似合うからね」

「おう、わかった、わかった。で、相談ってのは何なんだ?今のところ決意と惚気しか聞いてないんだが」

危ねえ、危ねえ。流石に二度の惚気は耐えられん。よかった、なんとか始まる前に止められた。

「えっ…えっとね。僕、どうやって告白すればいいのか分からないから、一緒に考えてくれない?」

やっと相談が始まった。

「おっしゃあ、まかせとけ。幸太郎のために、最高の告白を考えてやるよ」

「さすが薫。やっぱり頼りになるなぁ」


大事なこと忘れてた。俺、恋愛経験ねえわ。てか、そもそも、ほとんど対人経験ねえわ。小学校から怖がられて、話す人は、親と先公を除いて、幸太郎と癒月ぐらいしかいねえわ。

「まあ、俺、告白とかしたことねえけどな。幸太郎から貸してもらった漫画とかでの情報しかねぇわ」

「僕もそれくらいしかないし、一緒に考えよう」

幸太郎は一瞬、手元のスマホに視線を向けると、顔を上げて話し始めた。

「まず、告白ってどこですればいいのかな?人目に付くところとか絶対に嫌だよ」

「んー…無難なのは、校舎裏とかじゃね?ラブコメとかだいたいそこで告白してた気がすっぞ」

「うちの学校の校舎裏って人来るかな?」

「前に授業サボるのに使ってたけど、人を見かけたことなかったぞ」

「じゃあ、校舎裏にしようかな」

割とハイテンポに質問が投げられてくる。

「じゃあ次に、どうやって校舎裏に呼び出せばいいと思う?直接言うのは、無理だよ。緊張に緊張が重なって心臓潰れちゃう」

「じゃあ、俺が呼んできてこようか?」

「でもそれじゃ、僕の告白っぽくなくならない?やっぱり一連の流れって、自分でやったほうがいいと思うんだよね」

善意で言ってみたら、男らしい理由で断られた。

幸太郎がそういう男らしいことを言えるようになったのかと思うと、笑顔になる。

「幸太郎の割に男らしいこと言うじゃねえか」

嬉しくなり、バシバシと幸太郎の背中を叩いた。

「『幸太郎の割に』は余計だよ」

「じゃあ、手紙なんてどうだ?」

「どうやって渡すの?」

「靴箱にでも入れとけばいいって。ちゃんと時間を指定すれば、来なくても待ちぼうけなくてもいいしな」

「確かに。今日の薫なんか冴えてない?」

言われてみれば、相談が始まってからやけにいいひらめきをする気がする。やっぱ親友のためだから、脳が200%の出力で動いてるのかもな。

「お前のために、それくらい真剣に考えてやってるんだよ」

「ありがとう。告白の言葉って、なんて言えばいいと思う?長い言葉とかだったら、絶対に噛む自信があるよ」

「男なら短く簡潔に『好きです。付き合ってください』だろ。長ったらしく言うよりも何倍もいいと俺は思うぞ」

「確かにそうだね。いつも、うじうじしてる僕が更に長ったらしく告白なんてしたら、逆効果だよね。」

質問に答えてばっかりで、あんまり幸太郎の意見を聞けてねえ気がするな。

これじゃあ、俺の告白を幸太郎が代わりにやってるみたいにならねえか?

「あ、そうだ。俺の助言をそのまんま全部やるなよ。それだったらお前の告白じゃなくなっちまうからな」

「薫の意見を参考にして、自分なりにもう一回考えてみるよ」

「僕の告白って成功するのかな?今から不安になってきたよ。だんだんドキドキしてきたかも…」

さっきまであんなに男らしいこと言ってたやつが、何言ってんだ。

やっぱ幸太郎には、ドンと背中押さねえとだめなんかな。

「ドンッと構えとけ。成功しても失敗しても俺がいる。成功したら誰よりも祝ってやるし、失敗したら一緒に泣いてやる。告白はゴールじゃねえんだ。ドンと胸張っていけ」

「ありがとう薫。緊張とか不安とかがスッと消えていったよ。」

キザなこと言いすぎたかな?

まぁ、幸太郎の緊張が取れたならいっか。

ピロン

スマホの通知が鳴った。

スマホを確認すると、何も通知が来ていない。

顔を上げて、幸太郎の方を見ると、幸太郎がスマホとにらめっこしていた。

幸太郎は入力を終えると、立ち上がった。

「ごめん、そろそろ塾なんだ。明日頑張ってくるね」

幸太郎は、お礼を言いながら手を振り、去っていった。

「おう、頑張ってこいよ」

それだけ言うと、俺も席を立ち、一人で帰路についた。

幸太郎が告白かぁ。


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