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桜のように散った私たち【読み切り版】【僕Ver.】(未完)
だんだん心離れていく自殺未遂の後日談
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寝ておきたらよりいっそう、自分が惨めに思えた。
もう何もやる気が起きない。
ぐぅう~。
昼間で寝てたのだからそりゃ、お腹もすくだろう。
もう親は出勤してるだろうから、飯はコンビニにでも買いに行くしかないか。
ということで、コンビニまで来てみた。
空腹を追い越して悟りみたいな状態に入りかけているせいか、コンビニ飯があまり美味しそうに見えない。
とりあえず、フルーツジュースと鮭おにぎりをもってレジに向かった。
「こちら温めますか?」
胸に研修中のバッチを付けた店員が、聞いてきた。
え、何を温めようとしているの?
おにぎりなのかな?おにぎりしかありえないよな。
流石に温かいフルーツジュースとかはないだろう。
店員さん何考えてるのかな?疲れてるのかな?
余計なことを考えて固まってしまった僕に店員さんは、一言も聞き逃さないとばかりに真剣な目線を向けていた。
僕はあわてて激しく首を横に振った。
「温めますか?」
もう一度店員さんに聞かれた。
これって口頭で言わなきゃいけないやつ?
「結構です」
すると店員さんは、普通に会計を進めだした。
多分マニュアル通りの対応なのだろう。融通がきかないんだなぁ。
会計をおえて、フルーツジュースとおにぎりを両手にもち、コンビニから出る。
するとちょうど入ってこようとしていた、癒月が目の前に居た。
デジャブ?
顔をそらしてバレないようにしようとしたが、もう遅かった。
「どうしたの幸太郎?そんな暗い顔して。今にも死にそうな顔してるけど、辛いことでも会った?」
「あ、あぁ、癒月か。最近よく会うね」
癒月に声をかけられ、詰まりながらもなんとか応えた。
正直今はだれかと話す気分じゃないんだよな。
それに、癒月って今の僕には眩しすぎるし。
さっさと返って自分の殻に閉じこもりたい。
「少し話さない?」
「いいよ。じゃあ公園に行くか」
自分が、人と話したくないという気持ちより、人に誘われたときの断りづらさと、店の入口2いいつでも痛くないという気持ちが勝って、癒月の提案に乗ってしまった。
ほら、店員さんも他所でやってくれみたいなイライラした顔をしてるし。
「うん」
癒月の返事がやけに真剣だった。
なんでだろう?
ただの世間話ぐらいのテンションじゃない話題でもあるんだろうか?
「薫ると喧嘩したんでしょ?」
公園につくと早速、癒月が話しかけてきた。
なんか、公園で話す時ふえたなぁ。
「あぁ、採寸であった日の前日にね」
もう、ずっと昔のことのようだな。
あれから色々ありすぎて、正直殆ど忘れてたなぁ。
僕は、懐かしいことを語るテンションになっていた。
「あの日、薫の話題出しちゃってごめんね」
胸の前で手を合わせながら申し訳なさそうな顔で謝る癒月。
話題に出しただけのことを、後日に謝るだなんて律儀なやつだな。
気を使わせてしまって申し訳ない。
「いいよ、大丈夫だよ。その日のうちに気持ちの整理をつけてたから」
だから、少し声色を明るくして、もう大丈夫と思われるように言った。
「幸太郎くんが悩んでたのって、薫と喧嘩したことだったの?」
前で合わせていた手を後ろに回して、僕の顔を覗き込むようにして癒月が聞いてくる。
「いや、違うよ。ただ燃え尽きていただけで、何も悩み事とかなかったよ」
本当のことを言うと話が長くなりそうだから、とりあえず嘘を言った。
正直、家に帰って飯を食べたい。
今日の朝昼と2色食べてないから正直もう限界が来ている。
こんな、シリアスですよーと訴えかけて来る場でおにぎりを貪れないだろ。
あぁ、腹減った。なんで今、腹がならねえんだよ。
「ねえ、本当に燃え尽きただけなの?悩みごとがあるんじゃないの?幸太郎、日に日に弱っていってるから凄く心配だよ」
よりシリアスを加速させていく癒月。
俺の空腹は、とっくの昔にピークを超えて、食欲は減っていく一方だ。
だけれど空腹なのは変わりない。体の動きも鈍くなっていってるし、頭もほとんど働いていない。
「大丈夫だよ。大丈夫。本当にちょっと体調を崩しただけだから」
空腹でより体調を崩しそう。
どんどん返答が雑になっていく。
「本当なの?」
正直もう、癒月の質問が鬱陶しく感じてきた。
「信じてよ。なんでそんなに信用してくれないの?」
なんか僕、浮気している彼氏みたいなこと言ってない。
まぁ、いっか。
今は空腹なこと以外どうでも良くなってくる。
もはや食欲はなくなっている。それでも、体がエネルギーを求めていることがわかる。良くはなくても取らなければいけないエネルギーが僕にはあるんだ。
思考がだんだん食に引っ張られていく。
やはり三大欲求はすごい。
結局ここに返ってくるんだなぁ。
「だって、今にも死にそうな雰囲気が出てるんだもの」
お腹が減って寒気がしてきた。
思わず癒月の話の途中で、ビクッと体を震わせてしまった。
いつになったら終わるのかなこの話。
頭が回らなくてぼーっとしてるし、春の暖かい気候で、めちゃくちゃ眠くなってきた。
「今、体ビクッてしたけど、幸太郎くんあなた自殺しようとなんてしてないよね?!」
いま寝たら、起きれなさそうだな。その直感を信じて気合で目を開けている。
「し、し、してないけど、じ、自殺なんて」
何も食べてないからだんだん口が動かなくなってきた。
あれ?さっき癒月って何を言ってたんだっけ?何の話だっけ?
「本当のこと言って。はぐらかさないで。目を見て言って」
なんか面倒くさくなってきた。もういいや全部言っちゃえ。そっちのほうが早く開放されそうだし。
もう癒月を気遣う必要ない!
家に帰って、飯食って寝る!
これより優先されることがあるか?
ない!あるはずがない!
「ごめん…実は昨日、自殺しようとして、首に縄をかけたんだ。でも、最後の最後で怖くなって、結局死ねずじまいだったんだ」
言って冷静になった。
あ、これ長くなるやつだ。
心配の種を与えちゃったから、めちゃくちゃ言われるやつだ。
血の気が引いた。それによって体が冷えて、体が目覚める。
正直もう帰りたい。
お腹が空きすぎてなのか、余計なこと言っちゃったという気持ちからなのか、気持ち悪い。吐きそう。
「馬鹿っ。『死ねずじまいとか』軽い気持ちで言う言葉じゃないよ。この世には生きたくても生きられない人だっているんだよ。そんな、命を軽んずるような発言絶対言っちゃいけないよ」
やっぱりか。
始まりました。お説教という名のお節介。
「すまん。迂闊な発言だった」
これは正直、自分に向けた言葉だ。
癒月の気に障る言葉を言ってしまった申し訳無さよりも、もうしばらくエネルギー補給ができない自分の体への謝罪の言葉。
「なんで自殺しようとしたの?」
怒りと心配の気持ちがこもったような、声色と表情で、癒月が問いかけた。
なんでそんなに人のことで熱くなれるのかな?
僕にはもう分からないや。
「なんかもう、こんなに苦しいなら生きている意味ないのかなって思って自殺しようとした」
もうどうにでもなれとヤケになった気持ちと、誰かに聞いてほしいという心の弱さが合わさって、僕は正直に心の内側を癒月に話していた。
これで嫌われたとしたら、それはもう仕方がない。
「自殺ってぐらい追い詰められたのなら、やっぱり何か悩みがあったんじゃないの?なんで、そのことを相談してくれなかったの?」
怒りと心配の顔から、気になったことを素直に聞く無邪気な疑問の顔へと、癒月の表情が変わった。
「ごめん。本当にごめん。この悩みだけは人には言えないんだ。癒月にも言えないことなんだ」
僕の中の最後の一線だけはなんとか守った。
何もかも吐き出してしまいたい気持ちに駆られたが、最後の良心がそれを阻んだ。
これを言っってしまえば本当に終わってしまう。この関係も、自分への信頼も。
さっき冷静に慣れていなかったら正直に聞かれるがまま言っていたかもしれなかった。危なかった。
それと同時に、自分の中途半端さ、虫の良さが嫌になる。
なにが『これで嫌われたとしたら、それはもう仕方ない』だよ。結局いちばん大事なところは怖くていえないチキン野郎じゃないか。相手を思ってという言葉で隠して、自分を守っているだけ。
昨日から何も変わっていない。元々こういう人間なんだろう。これからも変われないんだろうな。
「死んだら、今の辛いこと、苦しいことからは開放されるかもしれないけど、これから来るであろう幸せな未来も失っちゃうんだよ。そんな一時の感情だけで死のうなんて絶対ダメだよ」
僕が自己嫌悪にふけっているうちに、癒月の表情はシリアス顔に戻っていた。
何やら僕に訴えかけているらしい。
正直、あまり響かない。
言葉に重さがない。軽い。そして薄っぺらい。
幸せなやつに僕の何がわかるんだよと思ってしまう。
「私は幸太郎に少し失望したよ。幸太郎は困難にちゃんと立ち向かえる人だと思っていたんだよ。それなのに、辛いことから逃げるんだ。逃げちゃうんだ。幸太郎は、もう少し強い人かと思ってたよ」
よりシリアス顔になった癒月は、失望という名の僕への文句を言いだした。
癒月は、僕が癒月の理想ではなくなったからと言って、攻撃的になるような人だったんだ。人を煽るような人だったんだ。
自分の価値観に囚われて、僕に攻撃をするさまに、だんだんと苛立ちをつのらせていく。
君には分からないだろうね。
好きな人が親友に取られた気持ちも、自分の好きの気持ちがしぼんでいく悲しさも、恐怖に追い詰められる感覚も、自分に失望し絶望するときの気持ちも、君にはわからないんだろうね。
幸せでいいね、君は。
絶対に口には出せないけれど癒月への怒りの言葉で頭が埋め尽くされていく。
そしてそれを何一ついえない自分が情けなくて仕方ない。
「そこまで言わなくていいじゃないか。それに、僕が死んだところで誰にも迷惑をかけないだろ?」
癒月への好意は尽きて、向ける感情がなかったけれど、今は明確な敵意を癒月に向けている。
こんな言い訳のようなことしか言えないことが悲しい。
「君が死ぬことで悲しむ人は、いっぱいいるんだよ。薫だって私だって、もちろん幸太郎の家族だって、みんな悲しむんだよ。その人達を悲しませたいの?」
悲しませようと思って行動するやつなんていないだろ。
実質一択の二択を出して、相手の話すことを限定するとかクソ面倒くさい。
僕の地雷を的確に踏み抜いてくる。イライラが抑えられなくなってきた。
だから、僕は癒月への怒りをオブラートに包んだ上からオブラートに包み、オブラートのほうが体積が大きいんじゃないかってぐらいオブラートに包んで言った。
「そんなこと言ってないだろ。たしかに僕の考えが足らなかったのかもしれないけど…僕にだって苦労があるんだよ」
キョトンとする癒月。
あぁ、伝わってないんだな。全くわかってないんだな、私が何を言いたいのかを。
流石にオブラートに包みすぎたのかな?
え、これって僕のせいなの?流石にそれはないか。
「そんなに思い詰めてるのならちゃんと相談してよ。私を頼ってよ。私に恩を返させてよ」
癒月がどんどん面倒くさい彼女みたいになっていく。
なんで僕はこんな人が好きだったのかな?私が好きだった癒月はどこに行ったのかな?まぁ、僕は、癒月が僕の理想からズレたってそれに対して怒ったりはしないけど。
「でも、悩みの内容を癒月に言う訳にはいかないから」
きょう1冷たい声で癒月に告げる。
「どんな秘密にしたいことなのか私は知らない。でも、悩みの内容以外の愚痴ぐらいなら聞けるし、悩み以外のことで話せる人がいれば少しは楽になるでしょ?」
なんかもう、浮気して捨てられそうになったのに彼氏にすがりつく彼女くらい今の癒月は面倒くさい。
話す一言一言にイライラする。
なんで癒月はこんなにも自分本意なんだろう?
『失望した』『恩返しさせて』だの、自分が気持がいい状況にしたいだけなんだな。
呆れてもう怒りも湧いてこない。
「よし、じゃあ私が毎日、幸太郎に連絡するね。生存確認のためと、少しでも自殺以外のことを考える時間を作るために。一緒に生きる意味見つけて行こう?」
も負うここで話していたくなくなったので適当にうなずくことにする。
それぐらいのことで、今、この場から開放されるならうなずいてやる。
「わかった。時間があったらちゃんと返事をするよ」
癒月の顔がぱぁっと明るくなった。
自分が思い描いていた通りに事が運んで嬉しいのだろう。
「じゃあ、またね。自殺なんて二度と考えないでね」
「うん。もう、反省してる」
今日一の棒読みで応えた。
こう言えばあなたは納得するんでしょ。
こう言わない限り永遠に繰り返されるんだろう。もはや、人格矯正ではないか。
自分が言わせたい言葉を相手に言わせる。それ以外を言ったらキレるって相当にたちが悪い。
それから、もうここに居たくなかったので足早に家に帰った。
家に帰っても一向に食欲が湧いてこない。
しょうがないから、冷蔵庫に買ってきたものをしまって、不貞寝をした。
翌朝起きると口の中が胃液の味がした。
流石に三食は抜きすぎたらしい。
ぐぅう~。
食欲は正常に戻ったようだ。
キッチンに入り、冷蔵庫を開けると、僕が昨日買ってきたおにぎりとフルーツジュースがなくなっていた。その代わりに、ラップがかけられたオムライスと書き置きと万札が入ってた。
書き置きには、
『すまん幸太郎。今日急ぎで、朝食を食べてる余裕ないから、お前のおにぎりとフルーツジュースもらっていくわ。料金で諭吉さんを払うから許してね。ついでに俺の文の朝食も入れとくから許してね。父より』
冷えたオムライスを食べ、一応腹を満たすことができた。
部屋に戻って、スマホをつけると、通知が12件も溜まっていた。しかも、それは癒月からのメッセージだった。正直怖い。これがいわゆるメンヘラというやつなのだろうか?わからん。
『よろしくね』
『事務的な連絡以外をするの初めてだね』
『普段ってどれくらいの返信速度なの?』
『え、全然返信しないじゃん』
『すぐ返信するイメージあったんだけど』
『生きてる?』
『ねえ、生きてるの?』
『無視しないでよ』
『あんなに言ったのに死んだとか無いよね?』
『え、まじで心配になってきた』
『日付超えちゃったよ』
『その日のうちに返信ほしいなぁ』
癒月のメッセージは、始まりから終わりまで約二十分ぐらいで送られてきていた。
それなら、まとめて3つくらいにして送れよ。
それに、日付が変わったころにメッセージをよこして、返事しろって理不尽じゃない?
癒月への不満をつのらせていく。
一度スマホの電源を落として、深呼吸をする。
怒りの感情を落ち着けて、再びスマホの電源をつける。
やってまいりました義務タイム。
昨日の約束があるから僕は癒月からのメッセージを既読無視も未読無視もできない。
流石に、いくら嫌いな相手でも約束は約束。
義務があるのなら、義務を全うしなければならない。
会話をしなくちゃいけないので、とりあえず適当に言い訳をしておく。
『気が付かなくて、ごめん』
『家に帰ってすぐ寝ちゃってたんだ』
『あまり返信は早くないけど、よろしくね』
3つほど素早く送ったら、すぐさま既読が付いた。
こういう陽キャって、ずっとスマホの画面にかじりついているのかな?暇なのかな?
『生きてたー』
すぐに返信が帰ってきた。
これはこれで怖い。
『良かった死んでなくて。心配したんだよ』
『今日はなにか予定とか無いの?』
SNSで陽キャのペースから逃れる方法はないんじゃないだろうか。
そういえば昨日、先生から夜に出されたんだった。それどころじゃなかったから忘れてたけど。
何時だっけ?
えーっと、確か、昼頃に来いって言われてたよな。
『ちょっと、学校に忘れ物取りに行ってくる』
『なんか、担任が「お前にだけ渡してないものがある」って呼び出された』
簡潔に返して早く会話を終えようとした。
しかし、さすがの陽キャ力。無理矢理に話題を広げてくる。
『あぁ、幸太郎卒業式の日、先に帰っちゃったよね。あの後、先生が一人一人に書いてきた手紙を配ってたんだよ。』
『多分それじゃない?』
『そっか、なんか楽しみ』
ポンポンポンポン次から次へとメッセージが届く。やっぱり陽キャとSNSのやり取りをするのは、疲れる。ましてや、昨日から敵視している相手ならなおさら。
やっと終わった。
僕は疲労でいっぱいだった。
昼ごろまで寝てよう。
もう何もやる気が起きない。
ぐぅう~。
昼間で寝てたのだからそりゃ、お腹もすくだろう。
もう親は出勤してるだろうから、飯はコンビニにでも買いに行くしかないか。
ということで、コンビニまで来てみた。
空腹を追い越して悟りみたいな状態に入りかけているせいか、コンビニ飯があまり美味しそうに見えない。
とりあえず、フルーツジュースと鮭おにぎりをもってレジに向かった。
「こちら温めますか?」
胸に研修中のバッチを付けた店員が、聞いてきた。
え、何を温めようとしているの?
おにぎりなのかな?おにぎりしかありえないよな。
流石に温かいフルーツジュースとかはないだろう。
店員さん何考えてるのかな?疲れてるのかな?
余計なことを考えて固まってしまった僕に店員さんは、一言も聞き逃さないとばかりに真剣な目線を向けていた。
僕はあわてて激しく首を横に振った。
「温めますか?」
もう一度店員さんに聞かれた。
これって口頭で言わなきゃいけないやつ?
「結構です」
すると店員さんは、普通に会計を進めだした。
多分マニュアル通りの対応なのだろう。融通がきかないんだなぁ。
会計をおえて、フルーツジュースとおにぎりを両手にもち、コンビニから出る。
するとちょうど入ってこようとしていた、癒月が目の前に居た。
デジャブ?
顔をそらしてバレないようにしようとしたが、もう遅かった。
「どうしたの幸太郎?そんな暗い顔して。今にも死にそうな顔してるけど、辛いことでも会った?」
「あ、あぁ、癒月か。最近よく会うね」
癒月に声をかけられ、詰まりながらもなんとか応えた。
正直今はだれかと話す気分じゃないんだよな。
それに、癒月って今の僕には眩しすぎるし。
さっさと返って自分の殻に閉じこもりたい。
「少し話さない?」
「いいよ。じゃあ公園に行くか」
自分が、人と話したくないという気持ちより、人に誘われたときの断りづらさと、店の入口2いいつでも痛くないという気持ちが勝って、癒月の提案に乗ってしまった。
ほら、店員さんも他所でやってくれみたいなイライラした顔をしてるし。
「うん」
癒月の返事がやけに真剣だった。
なんでだろう?
ただの世間話ぐらいのテンションじゃない話題でもあるんだろうか?
「薫ると喧嘩したんでしょ?」
公園につくと早速、癒月が話しかけてきた。
なんか、公園で話す時ふえたなぁ。
「あぁ、採寸であった日の前日にね」
もう、ずっと昔のことのようだな。
あれから色々ありすぎて、正直殆ど忘れてたなぁ。
僕は、懐かしいことを語るテンションになっていた。
「あの日、薫の話題出しちゃってごめんね」
胸の前で手を合わせながら申し訳なさそうな顔で謝る癒月。
話題に出しただけのことを、後日に謝るだなんて律儀なやつだな。
気を使わせてしまって申し訳ない。
「いいよ、大丈夫だよ。その日のうちに気持ちの整理をつけてたから」
だから、少し声色を明るくして、もう大丈夫と思われるように言った。
「幸太郎くんが悩んでたのって、薫と喧嘩したことだったの?」
前で合わせていた手を後ろに回して、僕の顔を覗き込むようにして癒月が聞いてくる。
「いや、違うよ。ただ燃え尽きていただけで、何も悩み事とかなかったよ」
本当のことを言うと話が長くなりそうだから、とりあえず嘘を言った。
正直、家に帰って飯を食べたい。
今日の朝昼と2色食べてないから正直もう限界が来ている。
こんな、シリアスですよーと訴えかけて来る場でおにぎりを貪れないだろ。
あぁ、腹減った。なんで今、腹がならねえんだよ。
「ねえ、本当に燃え尽きただけなの?悩みごとがあるんじゃないの?幸太郎、日に日に弱っていってるから凄く心配だよ」
よりシリアスを加速させていく癒月。
俺の空腹は、とっくの昔にピークを超えて、食欲は減っていく一方だ。
だけれど空腹なのは変わりない。体の動きも鈍くなっていってるし、頭もほとんど働いていない。
「大丈夫だよ。大丈夫。本当にちょっと体調を崩しただけだから」
空腹でより体調を崩しそう。
どんどん返答が雑になっていく。
「本当なの?」
正直もう、癒月の質問が鬱陶しく感じてきた。
「信じてよ。なんでそんなに信用してくれないの?」
なんか僕、浮気している彼氏みたいなこと言ってない。
まぁ、いっか。
今は空腹なこと以外どうでも良くなってくる。
もはや食欲はなくなっている。それでも、体がエネルギーを求めていることがわかる。良くはなくても取らなければいけないエネルギーが僕にはあるんだ。
思考がだんだん食に引っ張られていく。
やはり三大欲求はすごい。
結局ここに返ってくるんだなぁ。
「だって、今にも死にそうな雰囲気が出てるんだもの」
お腹が減って寒気がしてきた。
思わず癒月の話の途中で、ビクッと体を震わせてしまった。
いつになったら終わるのかなこの話。
頭が回らなくてぼーっとしてるし、春の暖かい気候で、めちゃくちゃ眠くなってきた。
「今、体ビクッてしたけど、幸太郎くんあなた自殺しようとなんてしてないよね?!」
いま寝たら、起きれなさそうだな。その直感を信じて気合で目を開けている。
「し、し、してないけど、じ、自殺なんて」
何も食べてないからだんだん口が動かなくなってきた。
あれ?さっき癒月って何を言ってたんだっけ?何の話だっけ?
「本当のこと言って。はぐらかさないで。目を見て言って」
なんか面倒くさくなってきた。もういいや全部言っちゃえ。そっちのほうが早く開放されそうだし。
もう癒月を気遣う必要ない!
家に帰って、飯食って寝る!
これより優先されることがあるか?
ない!あるはずがない!
「ごめん…実は昨日、自殺しようとして、首に縄をかけたんだ。でも、最後の最後で怖くなって、結局死ねずじまいだったんだ」
言って冷静になった。
あ、これ長くなるやつだ。
心配の種を与えちゃったから、めちゃくちゃ言われるやつだ。
血の気が引いた。それによって体が冷えて、体が目覚める。
正直もう帰りたい。
お腹が空きすぎてなのか、余計なこと言っちゃったという気持ちからなのか、気持ち悪い。吐きそう。
「馬鹿っ。『死ねずじまいとか』軽い気持ちで言う言葉じゃないよ。この世には生きたくても生きられない人だっているんだよ。そんな、命を軽んずるような発言絶対言っちゃいけないよ」
やっぱりか。
始まりました。お説教という名のお節介。
「すまん。迂闊な発言だった」
これは正直、自分に向けた言葉だ。
癒月の気に障る言葉を言ってしまった申し訳無さよりも、もうしばらくエネルギー補給ができない自分の体への謝罪の言葉。
「なんで自殺しようとしたの?」
怒りと心配の気持ちがこもったような、声色と表情で、癒月が問いかけた。
なんでそんなに人のことで熱くなれるのかな?
僕にはもう分からないや。
「なんかもう、こんなに苦しいなら生きている意味ないのかなって思って自殺しようとした」
もうどうにでもなれとヤケになった気持ちと、誰かに聞いてほしいという心の弱さが合わさって、僕は正直に心の内側を癒月に話していた。
これで嫌われたとしたら、それはもう仕方がない。
「自殺ってぐらい追い詰められたのなら、やっぱり何か悩みがあったんじゃないの?なんで、そのことを相談してくれなかったの?」
怒りと心配の顔から、気になったことを素直に聞く無邪気な疑問の顔へと、癒月の表情が変わった。
「ごめん。本当にごめん。この悩みだけは人には言えないんだ。癒月にも言えないことなんだ」
僕の中の最後の一線だけはなんとか守った。
何もかも吐き出してしまいたい気持ちに駆られたが、最後の良心がそれを阻んだ。
これを言っってしまえば本当に終わってしまう。この関係も、自分への信頼も。
さっき冷静に慣れていなかったら正直に聞かれるがまま言っていたかもしれなかった。危なかった。
それと同時に、自分の中途半端さ、虫の良さが嫌になる。
なにが『これで嫌われたとしたら、それはもう仕方ない』だよ。結局いちばん大事なところは怖くていえないチキン野郎じゃないか。相手を思ってという言葉で隠して、自分を守っているだけ。
昨日から何も変わっていない。元々こういう人間なんだろう。これからも変われないんだろうな。
「死んだら、今の辛いこと、苦しいことからは開放されるかもしれないけど、これから来るであろう幸せな未来も失っちゃうんだよ。そんな一時の感情だけで死のうなんて絶対ダメだよ」
僕が自己嫌悪にふけっているうちに、癒月の表情はシリアス顔に戻っていた。
何やら僕に訴えかけているらしい。
正直、あまり響かない。
言葉に重さがない。軽い。そして薄っぺらい。
幸せなやつに僕の何がわかるんだよと思ってしまう。
「私は幸太郎に少し失望したよ。幸太郎は困難にちゃんと立ち向かえる人だと思っていたんだよ。それなのに、辛いことから逃げるんだ。逃げちゃうんだ。幸太郎は、もう少し強い人かと思ってたよ」
よりシリアス顔になった癒月は、失望という名の僕への文句を言いだした。
癒月は、僕が癒月の理想ではなくなったからと言って、攻撃的になるような人だったんだ。人を煽るような人だったんだ。
自分の価値観に囚われて、僕に攻撃をするさまに、だんだんと苛立ちをつのらせていく。
君には分からないだろうね。
好きな人が親友に取られた気持ちも、自分の好きの気持ちがしぼんでいく悲しさも、恐怖に追い詰められる感覚も、自分に失望し絶望するときの気持ちも、君にはわからないんだろうね。
幸せでいいね、君は。
絶対に口には出せないけれど癒月への怒りの言葉で頭が埋め尽くされていく。
そしてそれを何一ついえない自分が情けなくて仕方ない。
「そこまで言わなくていいじゃないか。それに、僕が死んだところで誰にも迷惑をかけないだろ?」
癒月への好意は尽きて、向ける感情がなかったけれど、今は明確な敵意を癒月に向けている。
こんな言い訳のようなことしか言えないことが悲しい。
「君が死ぬことで悲しむ人は、いっぱいいるんだよ。薫だって私だって、もちろん幸太郎の家族だって、みんな悲しむんだよ。その人達を悲しませたいの?」
悲しませようと思って行動するやつなんていないだろ。
実質一択の二択を出して、相手の話すことを限定するとかクソ面倒くさい。
僕の地雷を的確に踏み抜いてくる。イライラが抑えられなくなってきた。
だから、僕は癒月への怒りをオブラートに包んだ上からオブラートに包み、オブラートのほうが体積が大きいんじゃないかってぐらいオブラートに包んで言った。
「そんなこと言ってないだろ。たしかに僕の考えが足らなかったのかもしれないけど…僕にだって苦労があるんだよ」
キョトンとする癒月。
あぁ、伝わってないんだな。全くわかってないんだな、私が何を言いたいのかを。
流石にオブラートに包みすぎたのかな?
え、これって僕のせいなの?流石にそれはないか。
「そんなに思い詰めてるのならちゃんと相談してよ。私を頼ってよ。私に恩を返させてよ」
癒月がどんどん面倒くさい彼女みたいになっていく。
なんで僕はこんな人が好きだったのかな?私が好きだった癒月はどこに行ったのかな?まぁ、僕は、癒月が僕の理想からズレたってそれに対して怒ったりはしないけど。
「でも、悩みの内容を癒月に言う訳にはいかないから」
きょう1冷たい声で癒月に告げる。
「どんな秘密にしたいことなのか私は知らない。でも、悩みの内容以外の愚痴ぐらいなら聞けるし、悩み以外のことで話せる人がいれば少しは楽になるでしょ?」
なんかもう、浮気して捨てられそうになったのに彼氏にすがりつく彼女くらい今の癒月は面倒くさい。
話す一言一言にイライラする。
なんで癒月はこんなにも自分本意なんだろう?
『失望した』『恩返しさせて』だの、自分が気持がいい状況にしたいだけなんだな。
呆れてもう怒りも湧いてこない。
「よし、じゃあ私が毎日、幸太郎に連絡するね。生存確認のためと、少しでも自殺以外のことを考える時間を作るために。一緒に生きる意味見つけて行こう?」
も負うここで話していたくなくなったので適当にうなずくことにする。
それぐらいのことで、今、この場から開放されるならうなずいてやる。
「わかった。時間があったらちゃんと返事をするよ」
癒月の顔がぱぁっと明るくなった。
自分が思い描いていた通りに事が運んで嬉しいのだろう。
「じゃあ、またね。自殺なんて二度と考えないでね」
「うん。もう、反省してる」
今日一の棒読みで応えた。
こう言えばあなたは納得するんでしょ。
こう言わない限り永遠に繰り返されるんだろう。もはや、人格矯正ではないか。
自分が言わせたい言葉を相手に言わせる。それ以外を言ったらキレるって相当にたちが悪い。
それから、もうここに居たくなかったので足早に家に帰った。
家に帰っても一向に食欲が湧いてこない。
しょうがないから、冷蔵庫に買ってきたものをしまって、不貞寝をした。
翌朝起きると口の中が胃液の味がした。
流石に三食は抜きすぎたらしい。
ぐぅう~。
食欲は正常に戻ったようだ。
キッチンに入り、冷蔵庫を開けると、僕が昨日買ってきたおにぎりとフルーツジュースがなくなっていた。その代わりに、ラップがかけられたオムライスと書き置きと万札が入ってた。
書き置きには、
『すまん幸太郎。今日急ぎで、朝食を食べてる余裕ないから、お前のおにぎりとフルーツジュースもらっていくわ。料金で諭吉さんを払うから許してね。ついでに俺の文の朝食も入れとくから許してね。父より』
冷えたオムライスを食べ、一応腹を満たすことができた。
部屋に戻って、スマホをつけると、通知が12件も溜まっていた。しかも、それは癒月からのメッセージだった。正直怖い。これがいわゆるメンヘラというやつなのだろうか?わからん。
『よろしくね』
『事務的な連絡以外をするの初めてだね』
『普段ってどれくらいの返信速度なの?』
『え、全然返信しないじゃん』
『すぐ返信するイメージあったんだけど』
『生きてる?』
『ねえ、生きてるの?』
『無視しないでよ』
『あんなに言ったのに死んだとか無いよね?』
『え、まじで心配になってきた』
『日付超えちゃったよ』
『その日のうちに返信ほしいなぁ』
癒月のメッセージは、始まりから終わりまで約二十分ぐらいで送られてきていた。
それなら、まとめて3つくらいにして送れよ。
それに、日付が変わったころにメッセージをよこして、返事しろって理不尽じゃない?
癒月への不満をつのらせていく。
一度スマホの電源を落として、深呼吸をする。
怒りの感情を落ち着けて、再びスマホの電源をつける。
やってまいりました義務タイム。
昨日の約束があるから僕は癒月からのメッセージを既読無視も未読無視もできない。
流石に、いくら嫌いな相手でも約束は約束。
義務があるのなら、義務を全うしなければならない。
会話をしなくちゃいけないので、とりあえず適当に言い訳をしておく。
『気が付かなくて、ごめん』
『家に帰ってすぐ寝ちゃってたんだ』
『あまり返信は早くないけど、よろしくね』
3つほど素早く送ったら、すぐさま既読が付いた。
こういう陽キャって、ずっとスマホの画面にかじりついているのかな?暇なのかな?
『生きてたー』
すぐに返信が帰ってきた。
これはこれで怖い。
『良かった死んでなくて。心配したんだよ』
『今日はなにか予定とか無いの?』
SNSで陽キャのペースから逃れる方法はないんじゃないだろうか。
そういえば昨日、先生から夜に出されたんだった。それどころじゃなかったから忘れてたけど。
何時だっけ?
えーっと、確か、昼頃に来いって言われてたよな。
『ちょっと、学校に忘れ物取りに行ってくる』
『なんか、担任が「お前にだけ渡してないものがある」って呼び出された』
簡潔に返して早く会話を終えようとした。
しかし、さすがの陽キャ力。無理矢理に話題を広げてくる。
『あぁ、幸太郎卒業式の日、先に帰っちゃったよね。あの後、先生が一人一人に書いてきた手紙を配ってたんだよ。』
『多分それじゃない?』
『そっか、なんか楽しみ』
ポンポンポンポン次から次へとメッセージが届く。やっぱり陽キャとSNSのやり取りをするのは、疲れる。ましてや、昨日から敵視している相手ならなおさら。
やっと終わった。
僕は疲労でいっぱいだった。
昼ごろまで寝てよう。
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