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桜のように散った私たち【読み切り版】【僕Ver.】(未完)

支離滅裂で決別

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望まぬ朝がやってきた。正確には、朝と呼ぶには遅く、昼と呼ぶには少し早いような時間に僕は目覚めた。

重いまぶたをゆっくりと開き、スマホを覗き込む。

スマホには、昨日最後に見た、『The・Liar解散へ、解散ライブ開催宣言』の記事が映されていた。昨日電源を落とすときに、誤って生地を押してしまったようだ。

もう一度、ふて寝を決め込もうにも目が冴えてしまって眠りにつけない。

なんで解散するのだろう。方向性の違いだろうか。

読み勧めていくと、『方向性の違い』『金銭トラブル』『メンバー間の信頼関係の崩壊』などが理由だと記事に書いてあった。

あんなに人気だったのに。あんなにいい曲を歌っていたのに。

人間関係一つで好きなバンドが解散してしまうという、どうにもやるせない思いを胸に抱えた。

SNSの反応を見てみると、解散を惜しむ声が多く見えた。

中には心無い言葉を呟いている人も居たけれど、そこにいちいち反応するほどの元気がわかない。

薫は、このことを知っているのだろうか?

一緒にライブまで言ったバンドが解散したんだ、心が傷まないはずがない。薫はそれほど薄情なはずがない。じゃあ、なぜこちらに連絡一つ寄越さないのだろう。それほどまでに僕たちの関係は壊れてしまったのだろうか?この悲しみを共有できないほどに。

The・Liarの解散について一切、悲しみの連絡をしない薫に苛立つ。

元々あまりSNSを使わない薫のことだ、今度一緒に何処かに行ったときに話題に上げるであろう。今は気まずくて遊ぶどころじゃないけれど、いつかきっとまた薫と遊べるようになるだろう。

薫から今まで来たメッセージなんて、遊びのお誘いくらいしか無い。

思考を終え、手元のスマホに再び意識を向けると、通知が1件届いた。

通知を開くと、珍しいことに薫がSNSに投稿をしていた。

その投稿は、顔をうまく塗りつぶした、癒月とのツーショット。それに添えられた、デートなうの文字。

好きなバンドが解散するって言ってるのに何のんきにデートなんかしてんの?

見せつけるようにSNSなんかにあげちゃってさ。

何幸せそうな顔してんの?The・Lair解散すんのに何幸せそうな顔してんの?

急激な怒りで顔が熱くなっているように感じる。

僕の中で、この苛立ちをぶつけてやらないと気がすまないという思いと、デートに水を指してやろうという思いが混ざり合う。そして、僕は薫にメッセージを送ることにした。

久しぶりに開いた薫とのトーク画面。内容は卒業式の前日で止まっている。いつの間にか、シンプルな単色のアイコンから、癒月とのツーショット写真のアイコンに代わっていた。

その事にさらなる苛立ちを覚えながら、薫へとメッセージを送る。

『今何してんの?』

『話したいことあるからさ、明日時間空いてる?』

『17時にいつもの公園にいるから。』

『絶対来てね。』

『もう、既読つけないから。なにか言うことあるなら会って話そうね。』

メッセージを送り終えると、すぐにスマホの電源を落とした。そして、スマホをベッドに向かって投げつけた。

それでも解消しない怒りと苛立ちを抑えられなく、物にあたりそうになる。そんな自分が嫌になり結局ふて寝を決め込むことにした。

あぁもうなんで、うまく行かないんだろう。




朝起きて、昨日のことを猛烈に後悔した。

なんであんなこと送っちゃったんだろう。なんで自分を抑えられなかったんだろう。なんで、なんで、なんで、あんなことしちゃったんだろう。どんな顔して薫と会えばいいのかな?そもそも気まずいのにどうしよう?

ベッドの上で蹲りながら自己嫌悪に浸る。

あんなこと言っちゃったし、公園行かなきゃなんだよね。あぁ、行きたくないなぁ。

何度目かわからないほど繰り返した思考を抱えたまま、約束の時間が刻一刻と近づいてくる。

短針が4時を回ったところで、腹を決め、公園に向かいだした。

公園に向かう道中、定期的に怖気づき、少しづつ遠周りをしながら公園へと向かっていった。

4時半の少し前、とうとう公園にたどり着いてしまった。

公園に入るのを躊躇していると、いつものベンチに薫が腰掛けているのが見えた。

今からお話をする薫にここで躊躇しているダサい姿を見せたくないという思いだけで、公園へと入り、いつものベンチに向かう。

僕が近づくと、薫はスマホから顔を上げた。

「久しぶりだね、薫」

「よう、久しぶりだな」

ややぎこちない中でお話が始まった。

沈黙が酷く痛い。まるでこの空気に押しつぶされるのではないか、というほどに重苦しい沈黙が続いた。

「薫、打ち上げ行ったんだね」

「誘われたからな。幸太郎も来てたな」

一言ずつしか会話が続かない。

「The・Lair解散するんだってな」

「悲しいよ。一番好きなバンドだから。薫は解散ライブ行くの?」

「もちろん行くぞ。やっぱ悔しいな」

お互い腹のさぐりあいのようになって、全く会話が弾まない。

すると薫が、いつもの姿からは想像もできないほど丁寧に話し始めた。

「幸太郎に報告しないといけないことがある」

こちらに体を向け直し、薫は再び語りだした。

「俺と癒月は付き合うことになった」

簡潔に一言、薫は、こちらの目を真っ直ぐ見ていった。

「そうなんだ」

短く一言、声のトーンを下げて答える。

改めて交際報告をされて、心が暴れ出しそうになった。心を押し殺し、薫にあたらないように、睨まないようにと耐えながら返したら、思いの外声のトーンが下がってしまった。

薫は、僕が不機嫌になったと思ったのか、言い訳を始めた。

「本来は、幸太郎に一番に報告したかったんだが、卒業式の日、幸太郎が先に帰ってしまったから伝えられず、その後は俺の予定が詰まっていたからなかなか伝える時間を取れなかったんだ。それでちょうど幸太郎から、呼び出されたからここで報告しなけりゃどこでするんだって思って、今日報告することになった。決して報告したくなかったとかそういう訳では無い。それだけは本当だ」

すがるような、許しを請うような目でこちらを見つめてくる薫。

薫は、僕の機嫌が悪いのは、交際報告が遅れたことによるものだと思っているらしい。

「別にそのことに関して怒ってないよ」

なるべく心を殺しながら、普段通りの口調で言った。

「でもさ…なんで癒月と付き合ったの?僕が癒月のことを好きだって知ってたよね。そのことに関して先に言うべきじゃない?」

抑えきれない感情が溢れ出して、自然と語気が強くなってしまう。

薫は、驚いたような顔でこちらを見た。そして、首を傾けて何を言っているのかというような雰囲気で、話し始めた。

「お前が、癒月のことを好きなのと、俺が癒月と付き合うのの何に関係があるんだ?お前が卒業式の前に『癒月にはずっと笑顔で居てほしい』って言ってただろ。そのことを、告白の返事を待っている癒月の顔を見て思い出したんだ。それで、お前のためにも癒月を泣かせちゃいけねえって思って、癒月と付き合ったんだぞ」

どうやら僕は、自分で自分の首を絞めていたらしい。

そんなアホなことあるか!!!

「じゃあ何だ、お前は、好きでもないのに癒月と付き合ってるのか?!!」

「きっかけはそれだったってだけで、今はちゃんと好きだぞ」

怒りでどんどんと声量が大きくなってしまう。

薫はそんな僕をまるで酔っ払いの相手でもするかのように面倒くさそうに相手しだしている。

「そもそも予定が詰まっているって何があったの?まさか、デートで時間がありませんでしたー、とか言わないよね」

「いや、デートの予定もあったけど、それがどうしたんだよ。なんかさっきから、論点がおかしくなってきてるぞ」

こっちが大声で怒りをぶつけているのに、普通の声で冷静に返されると、僕が馬鹿みたいじゃないか。

「溢れる気持ちをぶつけて、3年間の思いにケリを付けたんじゃないのか?告白で玉砕したから八つ当たりか?そもそも、お前の告白の相談に乗ってやったんだから、お前の告白の結果を報告するのが筋じゃねえのか」

かるは、イライラしだしたのか声量が徐々に大きくなっている。

そうか、薫は僕が告白してると思っているのか。

じゃあ、ちゃんと説明しなきゃだめじゃん。

急に冷静になってくる。

「薫、お前に相談にまで乗ってもらって申し訳ないんだが、僕は癒月に告白ができていない。」

「はっ?お前、告白してねえのかよ。散々相談に乗ってやったのに。なんでしてねえんだよ。するタイミングなんていっぱいあっただろ。俺は、癒月が俺に告白した後にお前が癒月に告白したんだと思ってた。付き合ったことを癒月から聞かされて傷ついてるのかと思ってたんだが。じゃあ、なんで卒業式の日、先に帰ったんだよ。告白のためじゃねえのかよ」

失望したとでも言いのか、興味を失ったように薫の声のトーンは低くなった。

一気に薫との間に心の距離ができたように感じた。それが一番堪えた。

「校舎裏に下見に行ったらたまたま薫が癒月から告白されているのを見てしまって、それからもうやる気がポッキリ折れたんだ。だから俺は、癒月に告白できていない」

僕は、ぼろぼろになったメンタルの最後の力を振り絞り、独り言の声量ぐらいで言い訳を呟いた。これで少しはこっちの気持ちを組んで寄り添ってくれるかもしれないという最後の希望を載せて。

「はっ?お前人の告白覗いてたのかよ。最低だな。趣味悪い」

薫は吐き捨てるように言った。薫の返答は簡潔に同情の余地なしと突きつけてくるものであった。

「見たくてみてんじゃねえんだよ。そもそも、僕に告白するタイミングがなかったことぐらい、わかるだろ」

消え入る前の最後の燃えカスが爆発するかのように、大声で叫ぶように言った。

「あぁ゛?!何舐めた口きいてんだよ」

薫が僕に近寄ってきて、僕の胸ぐらをつかむ。

もう対抗のために言葉を紡ぐ余裕もない。最後の対抗をするように、僕は薫を睨みつけた。

しばらくその状態が続いた。

薫は急に俺胸ぐらから手を離す。

「何もかも、お前の思い通り行くわけじゃねえんだよ。お前のやってることはイヤイヤ期の子供だ。今のお前とまともな話はできねえ」

そう言って、僕に背を向けると、一言、

「もうちょっと、頭ん中整理してから来い。そうじゃねえと、まともに話ができねえ。お前が喧嘩してえなら話は別だがな」

そう言って、薫は頭をかきむしり、イライラとしながら帰っていった。

僕は、薫が手を離した反動でついた尻餅のまま。

知り減ったメンタルの中、ただむしゃくしゃとし、行き場のない怒りを抱えることしかできなかった。

しばらく、夕暮れの公園で、立ち尽くしていた。

我に返り、家に帰ると、もう7時だった。

玄関を開けると、そこには、怒りと心配が合わさったような表情の母が立っていた。

「もう。こんな時間まで何したの?!」

母に、怒るよりも心配が強いような声色でという詰められた。

「ちょっと、友達と公園で話してた」

「そうなの?次からはどこへ行くのかちゃんと言ってから行きなさいね」

それだけ言うと、母はリビングの方に歩いて行った。

母がリビングへ行く途中、振り返りもせず、一方的に話しかけてきた。

「そんな、顔してどうしたの?行くときは自殺でもするんじゃないかって顔してたけど、帰ってきたら喪失感にまみれたみたいな顔して。それもまだ言えないの?言えるようになったらちゃんと報告するのよ。もやもやして仕方ないわ。それまでにちゃんと心の整理しとくのよ」

「あぁ、わかったよ」

手早く、洗面所によった後、母の後を追うようにリビングへ行く。

「あ、言い忘れてた。もう、ご飯食べちゃったから、自分で温め直して食べてね」

母がソファーで寛ぎながら、こちらに視線一つ寄越さずに言う。

食卓を見ると、ラップが掛かった、一人分の夕食が置いてあった。

ラップを外し、レンジに入れて、スタートのボタンを押す。この動作をここ何日かでマスターした気がする。メンタルとともに生活リズムもここ数日崩れていたので、家族と一緒に食事ができなかったことが何度かあった。その時は、盛られてあるものを温め直して一人で食べていた。

温め直している間の時間に、母が話しかけてきた。

「明日、百貨店に制服買いに行くからね。昼ごろ行くから予定空けておいてね」

「随分と急だね。明日は、午前も午後も予定はないよ」

鼻歌を中断して、母と会話をしる。

「ついでに、そこでご飯でも食べてきましょう。最近幸太郎元気ないし、うなぎでも食べて精をつけましょう」

母から楽しさが伝わってくる、明るい声色で提案された。

「うなぎかぁ。前に食べたのって入学式のときかな?あの時食べたうなぎ美味しかったなぁ。じゃあ昼前から行く感じ?ご飯食べてから制服?制服買ってからご飯?」

「もちろん、制服買ってからご飯に決まってるじゃない。食後に制服の採寸なんてしたら、サイズ代わっちゃうじゃない」

「確かにそうだね。じゃあ10時頃、家を出る感じ?」

「いや、制服って案外待ち時間が多いらしいから、9時半ぐらいには出発しましょう」

速いテンポで会話が進んでいく。

「じゃあ起きるのはいつも通りでいいんだね?」

「そうね。でも、幸太郎、最近生活リズムがバラバラだからちゃんと朝起きられるの?」

「もしも起きれなかったら、そのときは起こしてね」

チン

どうやら、温め直しが終わったらしい。

火傷するくらい熱い食器を持って、食卓に一人で座る。

「いただきまーす」

手を合わせ軽く黙想をする。

別になにか特定の宗教を信じているわけじゃないけれど、この食事をいただけることに感謝する。

一人黙々と食事をする。

打ち上げで食べた焼肉より、母が作ったハンバーグのほうが美味しく感じる。

いつもは、忙しい中で効率的にできるような簡素な料理が多いけれど、今日は、ハンバーグと少し凝っている。

いつも以上に箸が進み、15分もしないうちに平らげてしまった。

「ごちそうさまでしたー」

『いただきます』と同じように黙想をしながら手を合わせる。

「お粗末様でした」

ソファーで寝転びながらスマホを見ている母から返事が聞こえてきた。

手早く食器を片付けて、食休みを取る。

一休みできたら、たっぷりお風呂の時間を取る。

風呂上がり、自室に戻って反省会を始めた。

ベッドにダイブし、今日の反省をする。

なんで、あんなメッセージで呼び出しちゃったんだろう。

The・Liarの解散と、あいつらのイチャイチャ写真をいっぺんに見て、ストレスが限界を超えちゃったのかな。

まあ、でも暴走してあんな呼び出ししちゃうなんて良くなかったなぁ。

あったら気まずくて、気まずさのストレスで不満が爆発しちゃうなんてわかりきってたことだった。なのに、やっぱり抑えきれずに怒りが爆発しちゃった。

薫には申し訳ないことしちゃったな。

まぁ、でもあいつもあいつだよ。

なにが、『今のお前とまともな話はできねえ』だよ。

上から目線で言いやがって。お前だって大声で怒りをあらわにしてただろ。六に勉強もできないくせに、いっちょ前に悟ってるふう出しやがって。

まじで意味わかんない。

俺が癒月のことが好きなの知ってるのに、普通に癒月の告白に答えてるの、まじで意味わかんない。

なにが『「癒月にはずっと笑顔で居てほしい」って言っただろ』だよ。そんなの僕が、癒月を笑顔にして、その笑顔をずっと横から見ていたいって意味だろ。行間ぐらいちゃんと読めよ。察せよ。なんで、僕は、あの時一瞬でも納得しちゃったんだよ。


自分の半生から、段々と薫への愚痴へと変わっていく。

そして、段々と夜が更けていった。


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