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桜のように散った私たち【読み切り版】【僕Ver.】(未完)
どん底からジェットコースター
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あれから三日間、僕は全くやる気が出なかった。
脱力感、喪失感が体を襲い、ただただ無気力になっていく。
危険な感情は脳がシャットアウトしているのか、怒りも嫉妬も悲しさも何の感情も湧いてこない。
世界から色が失われたように感じた。
モノクロームの世界で、すべてのことが高速で過ぎていく。僕はその中で唯一、一人卒業式後のあのときに取り残されているように感じる。
別に部屋に引きこもっていたわけではない。たしかに家からは出なかったけれど、家族と一緒に食事もしたし、ボーっとテレビを眺めていたこともあった。ただ、何をしていてもうまく集中できないし、新しいことが全く頭に入ってこない。
脳が、ドロドロと濁った感情を出さないように強固に作り上げた心の壁が、新しい情報の侵入をも拒んでいる。
今日は、もう部屋から出るほどのやる気も出なかった。
朝から部屋にこもって、適当にネットニュースをあさり、何をするでもなく過ごしていた。
腹が減っても、食事をする気にもなれない。
3時頃まで、ベッドの上から動かずただゴロゴロとしていた。
ドタドタ、ドタドタ
突然、荒々しく階段を登ってくる音が聞こえる。
僕の部屋の前で足音が止まると、ノックをすることもなく急に、ドアが乱暴に開けられた。
「幸太郎、何してるの?食事もせずに。毎朝、顔くらい見せなさい。卒業式終わってからなんか変ですよ」
急に母が怒りを顔に浮かばせ、心配しているかのような声色で話しかけてきた。
母は、間髪入れずに、マシンガントークを繰り出した。
「ここ三日間ずっと上の空だったけど、何かあったの?たかが中学校の卒業でそんなに燃え尽きてるなら情けない。もっとしっかりしなさい。幸太郎3日も外出てないでしょ。どこか気分転換に出かけてきたら?どうせ、お小遣い使い果たしちゃってるでしょうから、来月のお小遣い、先に渡しておくわね」
そう言って、万札をこっちに放ってきた。
母の話に全く返事をする隙がなく唖然としていると、母がイライラしながらまた詰めてきた。
「こんだけ聞いてるんだから、すぐ返事しないさい。何、無視してるの?相槌ぐらい打ちなさいよ。3日もまともに人と話してないから、会話下手になっているんじゃないの?友だちとどっか行ってきなさい。今日中にちゃんと外出するのよ」
「あぁ、ごめんねお母さん。朝どうしても動く気分になれなくて。ちょっと卒業式の日にあってね。ありがとうお小遣い。どこか、ちょっと散歩でも行ってくるよ」
母の言葉に、なるべく優しい声色でゆっくり返事をした。
「一気に返事しない。一気にいっぱい言われてもわからないじゃない。それとちょっとって何?具体的に言いなさい」
段々とイライラを募らせる母。
「ちょっと今は言いたくないかな。気持ちの整理がきちんとついたら、ちゃんと言うからさ。ちょっとだけ待ってくれない?」
「まあ、3日も上の空になるくらいのことなんでしょうから、気持ちを整理するくらいの時間なら、ちゃんとあげるわよ」
「ありがとう、お母さん」
「じゃあちゃんと、外出するのよ」
それだけ言い残すと、母は足早に部屋から出ていった。
母は、扉も閉めず部屋から出て、ドタドタと階段を下っていく。
まるで嵐のように去っていった母。
お怒りモードの母を久しぶりに見た気がする。
前はたしか薫と家でゲームをして騒いでいたら、夜勤明けでねていた母に、うるさいと怒鳴られたときだったかな。あのときの薫の怯え方面白かったな。
ピコン
スマホの通知がなる。
スマホを見ると癒月からメッセージが11件来ていた。
『幸太郎、今日って暇?』
『今日さ、クラスで打ち上げするんだよね』
『幸太郎も打ち上げこない?』
『薫も来るから、ね?』
『最後にみんなで思いで作ろうよ!』
『急に連絡してごめんね』
『本当はもっと前から計画されてたんだけどね』
『でも』
『幸太郎ってクラスのグループ入ってないじゃん?』
『これを気にクラスのグループ入らない?』
『ごめんね、いっぱい送っちゃって。返事待ってるね』
陽キャの圧に圧倒されながらメッセージを読んだ。
スマホを見てて久しぶりに、きちんと内容を理解できたかもしれない。
これも母の叱責のお陰かな?
母と話して止まっていた頭の回転がやっと回りだしたのかも。
癒月に『行く』『どこでやるのか教えて』『ごめん。クラスのグループには入らない』と3つメッセージを送り、久しぶりにベッドから起き上がった。
癒月からメッセージが来たことに対して、少し嬉しく思っている自分が嫌になる。
癒月の提案に頷いてしまった自分が嫌になる。
でも行くと言ってしまったものは仕方ない。
返信を待つ間、身支度を済ませると、ピコンとスマホの通知が鳴った。
『18時に学校の前の焼肉屋に来てね』
18時か…まだ後4時間ほどあるな。どうしよう?このまま家にいると絶対、打ち上げに行きたくなくなる。流石に4時間前から行くのは、張り切り過ぎだし、目立つ。うーん…散歩でも行くか。
母にクラスの打ち上げにいくと言うと、嬉しそうに万札を渡された。
それから家を出て、フラフラと近所を散歩した。五時半になり、そろそろ向かおうと思い、焼肉屋に向かって歩き出した。
集合の時間の十分前には店の前につくことができた。
そこには、何人かのクラスメイトがちらほらと居た。
どうせ、薫は来ないだろ。
今、薫の顔を見たくない。まだ、気持ちの整理ができてないから。
集合時間の五分ほど前になった時、学級委員の男子が来た。
その男子がお店の中に入って、店員と話をしだした。
僕は、癒月があの男子のことを好きなんじゃないかと思っていた。
癒月は、一緒に学級委員をやっていたから、あの男子と話す機会も多かったし。
名前は確か斉藤さんだっけ?
1分もせずに店から出てくると、斉藤さん?がもうすでに店の前に居たクラスメイトたちに向かって話し始めた。
「えーっと、ちょっと早いけど店に入っていいと店員さんに言われたので、順番に店の方に入っていってください。まだ食べ始めないので、急がずに入ってくださいね。あ、あと、入り口で料金を支払ってくださいね」
斎藤くんの声に従って7番目くらいに店に入った。
入り口で料金を支払い中に入る。
チェーン店のどこにでもあるような内装。店の席の半分くらいが僕たちのクラスの予約席になっていた。
来た順に詰めろと言われたので、あまり話したことのないクラスメイトも隣りに座った。
大体の人が入り終えるとさっきの斎藤くんが始まりの音頭を取った。
「まだ何人か来てないけれど、3年1組の打ち上げを始めます。かんぱーい。どんどん肉を焼いてってね。食べることに夢中にならずにちゃんとコミュニケーションを取ってね」
先に配られていた飲み物を掲げ乾杯をする。
隣りに座ったクラスメイトと控えめな乾杯をした。
打ち上げが始まってしばらくした頃、癒月がやってきた。
癒月を見た瞬間、心臓を鷲掴みされたような感覚があった。
冷や汗をダラダラとかき、痛みに耐えながら癒月の方を見る。
「ごめんね遅れちゃって」
入り口からひょっこりと顔を出して、癒月がみんなに向けて言う。
それに色々な人が反応をしていた。
癒月が入ってきた。隣には、薫が立っていた。
えっ、薫、打ち上げ来るんだ。
四日前は行かないとかいってたのに。
薫の方を見つめていた。
薫と一瞬、目が合った。
思わず目をそらしてしまった。
視線を戻すと、薫はもう別の方向を向いていた。
薫はすぐに空いてる席に付き、隣に荷物をおいて席をキープしていた。
癒月は、各テーブルにあいさつ回りをしている。
色々なテーブルで会話に花を咲かせている。
会話の中で必ずと言っていい程「東条くんとどういう関係?」と聞かれていた。
それに対して癒月は、毎回、照れたように「彼氏なの」と返していた。
その光景から思わず目を背けた。
さっきまで油っぽいと感じていた肉も、あんなに濃いと思っていたタレも、途端に味がしなくなった。
トイレに行くと言い席を立って、トイレに篭った。
トイレで「僕に何を嫉妬する権利がある?」「仕方ない仕方ない仕方ない仕方ない」とつぶやき、胃の内容物をすべて吐き出して、気持ちを落ち着かせる。
なんとか暴れていた心を落ち着かせて席に戻ると、癒月は、さっき薫がキープしていた席に座っていた。
肩が触れ合うような距離で座る薫と癒月。
二人とも少し頬を赤らめている。初々しさを感じさせる反応に、もう一度トイレに篭りたくなる。
周りからさんざんいじられて照れる癒月と、いじってきたやつに視線を向ける薫。
薫と目があったやつは全員、「ひえっ」と謎の声を出し、すぐに大人しくなった。
その流れを何度も繰り返していた。
癒月が薫にあーんをしている。
それを懲りずに冷やかす奴ら。
薫からさっきより強めの一睨みされて、悲鳴を上げている。
カップルが出す甘い空気と、祝福ムードの和やかな雰囲気が漂っていた。
その空気に耐えられなくなり、隣のやつに「もう帰るわ」とだけ言って、打ち上げから逃げ出した。
店からとりあえず飛び出したけど、これからどうしよう。
家に帰るにも、親にはもう、打ち上げ行って来るって言ったときに帰りの時間まで言ってあるの。早く帰ったら何かあったのかと勘ぐられるかもしれない。「打ち上げから抜け出してきた」なんて言って、あんな上機嫌な母の機嫌を損ねたら何が起こるかわからない。どうしよう。とりあえず、時間を潰して、ちゃんと打ち上げに言ってた感を出すか。じゃあ、どうやって時間を潰そう。
とりあえず近場のコンビニに入った。
特にコンビニでやることもないので、週刊誌を立ち読みした。
ふと、時計を見ると、もうコンビニに入ってから30分ほど経っていた。
外の明るさを確認しようと顔をあげるとそこには、手を繋いで歩く薫たちのカップルの姿があった。
まだ、打ち上げの時間なのにあんなところで何してんだろう?そう思い見つめていると、薫と目があった。
薫は、一瞬、気まずそうな、見られたくないものを見られたような、複雑な表情でこちらを見た。
薫、あんな顔するんだ。
次見たときには、薫は幸せそうな表情に戻り、癒月と話していた。それからは、こちらに視線を一切向けないまま、コンビニの前を通り過ぎていった。
僕はただ薫達が行ったほうをぼーっと見つめることしかできなかった。
しばらくするとぞろぞろとクラスメイトが焼肉屋から出てきた。
予定していた終了の時間になったのだ。
約30分ほど本を持って立ったまま放心状態になっていたらしい。
クラスメイトたちの賑やかさが去った後、一人とぼとぼと歩きながら帰路についた。
家に帰り、自分の部屋に入ると、ベッドにダイブした。
その後、スマホを開くと、ネットニュースの通知が来ていた。
『The・Liar解散へ、解散ライブ開催宣言』
思わずスマホを落とした。
このまま目覚めなければいいのに、と思いながら眠りについた。
脱力感、喪失感が体を襲い、ただただ無気力になっていく。
危険な感情は脳がシャットアウトしているのか、怒りも嫉妬も悲しさも何の感情も湧いてこない。
世界から色が失われたように感じた。
モノクロームの世界で、すべてのことが高速で過ぎていく。僕はその中で唯一、一人卒業式後のあのときに取り残されているように感じる。
別に部屋に引きこもっていたわけではない。たしかに家からは出なかったけれど、家族と一緒に食事もしたし、ボーっとテレビを眺めていたこともあった。ただ、何をしていてもうまく集中できないし、新しいことが全く頭に入ってこない。
脳が、ドロドロと濁った感情を出さないように強固に作り上げた心の壁が、新しい情報の侵入をも拒んでいる。
今日は、もう部屋から出るほどのやる気も出なかった。
朝から部屋にこもって、適当にネットニュースをあさり、何をするでもなく過ごしていた。
腹が減っても、食事をする気にもなれない。
3時頃まで、ベッドの上から動かずただゴロゴロとしていた。
ドタドタ、ドタドタ
突然、荒々しく階段を登ってくる音が聞こえる。
僕の部屋の前で足音が止まると、ノックをすることもなく急に、ドアが乱暴に開けられた。
「幸太郎、何してるの?食事もせずに。毎朝、顔くらい見せなさい。卒業式終わってからなんか変ですよ」
急に母が怒りを顔に浮かばせ、心配しているかのような声色で話しかけてきた。
母は、間髪入れずに、マシンガントークを繰り出した。
「ここ三日間ずっと上の空だったけど、何かあったの?たかが中学校の卒業でそんなに燃え尽きてるなら情けない。もっとしっかりしなさい。幸太郎3日も外出てないでしょ。どこか気分転換に出かけてきたら?どうせ、お小遣い使い果たしちゃってるでしょうから、来月のお小遣い、先に渡しておくわね」
そう言って、万札をこっちに放ってきた。
母の話に全く返事をする隙がなく唖然としていると、母がイライラしながらまた詰めてきた。
「こんだけ聞いてるんだから、すぐ返事しないさい。何、無視してるの?相槌ぐらい打ちなさいよ。3日もまともに人と話してないから、会話下手になっているんじゃないの?友だちとどっか行ってきなさい。今日中にちゃんと外出するのよ」
「あぁ、ごめんねお母さん。朝どうしても動く気分になれなくて。ちょっと卒業式の日にあってね。ありがとうお小遣い。どこか、ちょっと散歩でも行ってくるよ」
母の言葉に、なるべく優しい声色でゆっくり返事をした。
「一気に返事しない。一気にいっぱい言われてもわからないじゃない。それとちょっとって何?具体的に言いなさい」
段々とイライラを募らせる母。
「ちょっと今は言いたくないかな。気持ちの整理がきちんとついたら、ちゃんと言うからさ。ちょっとだけ待ってくれない?」
「まあ、3日も上の空になるくらいのことなんでしょうから、気持ちを整理するくらいの時間なら、ちゃんとあげるわよ」
「ありがとう、お母さん」
「じゃあちゃんと、外出するのよ」
それだけ言い残すと、母は足早に部屋から出ていった。
母は、扉も閉めず部屋から出て、ドタドタと階段を下っていく。
まるで嵐のように去っていった母。
お怒りモードの母を久しぶりに見た気がする。
前はたしか薫と家でゲームをして騒いでいたら、夜勤明けでねていた母に、うるさいと怒鳴られたときだったかな。あのときの薫の怯え方面白かったな。
ピコン
スマホの通知がなる。
スマホを見ると癒月からメッセージが11件来ていた。
『幸太郎、今日って暇?』
『今日さ、クラスで打ち上げするんだよね』
『幸太郎も打ち上げこない?』
『薫も来るから、ね?』
『最後にみんなで思いで作ろうよ!』
『急に連絡してごめんね』
『本当はもっと前から計画されてたんだけどね』
『でも』
『幸太郎ってクラスのグループ入ってないじゃん?』
『これを気にクラスのグループ入らない?』
『ごめんね、いっぱい送っちゃって。返事待ってるね』
陽キャの圧に圧倒されながらメッセージを読んだ。
スマホを見てて久しぶりに、きちんと内容を理解できたかもしれない。
これも母の叱責のお陰かな?
母と話して止まっていた頭の回転がやっと回りだしたのかも。
癒月に『行く』『どこでやるのか教えて』『ごめん。クラスのグループには入らない』と3つメッセージを送り、久しぶりにベッドから起き上がった。
癒月からメッセージが来たことに対して、少し嬉しく思っている自分が嫌になる。
癒月の提案に頷いてしまった自分が嫌になる。
でも行くと言ってしまったものは仕方ない。
返信を待つ間、身支度を済ませると、ピコンとスマホの通知が鳴った。
『18時に学校の前の焼肉屋に来てね』
18時か…まだ後4時間ほどあるな。どうしよう?このまま家にいると絶対、打ち上げに行きたくなくなる。流石に4時間前から行くのは、張り切り過ぎだし、目立つ。うーん…散歩でも行くか。
母にクラスの打ち上げにいくと言うと、嬉しそうに万札を渡された。
それから家を出て、フラフラと近所を散歩した。五時半になり、そろそろ向かおうと思い、焼肉屋に向かって歩き出した。
集合の時間の十分前には店の前につくことができた。
そこには、何人かのクラスメイトがちらほらと居た。
どうせ、薫は来ないだろ。
今、薫の顔を見たくない。まだ、気持ちの整理ができてないから。
集合時間の五分ほど前になった時、学級委員の男子が来た。
その男子がお店の中に入って、店員と話をしだした。
僕は、癒月があの男子のことを好きなんじゃないかと思っていた。
癒月は、一緒に学級委員をやっていたから、あの男子と話す機会も多かったし。
名前は確か斉藤さんだっけ?
1分もせずに店から出てくると、斉藤さん?がもうすでに店の前に居たクラスメイトたちに向かって話し始めた。
「えーっと、ちょっと早いけど店に入っていいと店員さんに言われたので、順番に店の方に入っていってください。まだ食べ始めないので、急がずに入ってくださいね。あ、あと、入り口で料金を支払ってくださいね」
斎藤くんの声に従って7番目くらいに店に入った。
入り口で料金を支払い中に入る。
チェーン店のどこにでもあるような内装。店の席の半分くらいが僕たちのクラスの予約席になっていた。
来た順に詰めろと言われたので、あまり話したことのないクラスメイトも隣りに座った。
大体の人が入り終えるとさっきの斎藤くんが始まりの音頭を取った。
「まだ何人か来てないけれど、3年1組の打ち上げを始めます。かんぱーい。どんどん肉を焼いてってね。食べることに夢中にならずにちゃんとコミュニケーションを取ってね」
先に配られていた飲み物を掲げ乾杯をする。
隣りに座ったクラスメイトと控えめな乾杯をした。
打ち上げが始まってしばらくした頃、癒月がやってきた。
癒月を見た瞬間、心臓を鷲掴みされたような感覚があった。
冷や汗をダラダラとかき、痛みに耐えながら癒月の方を見る。
「ごめんね遅れちゃって」
入り口からひょっこりと顔を出して、癒月がみんなに向けて言う。
それに色々な人が反応をしていた。
癒月が入ってきた。隣には、薫が立っていた。
えっ、薫、打ち上げ来るんだ。
四日前は行かないとかいってたのに。
薫の方を見つめていた。
薫と一瞬、目が合った。
思わず目をそらしてしまった。
視線を戻すと、薫はもう別の方向を向いていた。
薫はすぐに空いてる席に付き、隣に荷物をおいて席をキープしていた。
癒月は、各テーブルにあいさつ回りをしている。
色々なテーブルで会話に花を咲かせている。
会話の中で必ずと言っていい程「東条くんとどういう関係?」と聞かれていた。
それに対して癒月は、毎回、照れたように「彼氏なの」と返していた。
その光景から思わず目を背けた。
さっきまで油っぽいと感じていた肉も、あんなに濃いと思っていたタレも、途端に味がしなくなった。
トイレに行くと言い席を立って、トイレに篭った。
トイレで「僕に何を嫉妬する権利がある?」「仕方ない仕方ない仕方ない仕方ない」とつぶやき、胃の内容物をすべて吐き出して、気持ちを落ち着かせる。
なんとか暴れていた心を落ち着かせて席に戻ると、癒月は、さっき薫がキープしていた席に座っていた。
肩が触れ合うような距離で座る薫と癒月。
二人とも少し頬を赤らめている。初々しさを感じさせる反応に、もう一度トイレに篭りたくなる。
周りからさんざんいじられて照れる癒月と、いじってきたやつに視線を向ける薫。
薫と目があったやつは全員、「ひえっ」と謎の声を出し、すぐに大人しくなった。
その流れを何度も繰り返していた。
癒月が薫にあーんをしている。
それを懲りずに冷やかす奴ら。
薫からさっきより強めの一睨みされて、悲鳴を上げている。
カップルが出す甘い空気と、祝福ムードの和やかな雰囲気が漂っていた。
その空気に耐えられなくなり、隣のやつに「もう帰るわ」とだけ言って、打ち上げから逃げ出した。
店からとりあえず飛び出したけど、これからどうしよう。
家に帰るにも、親にはもう、打ち上げ行って来るって言ったときに帰りの時間まで言ってあるの。早く帰ったら何かあったのかと勘ぐられるかもしれない。「打ち上げから抜け出してきた」なんて言って、あんな上機嫌な母の機嫌を損ねたら何が起こるかわからない。どうしよう。とりあえず、時間を潰して、ちゃんと打ち上げに言ってた感を出すか。じゃあ、どうやって時間を潰そう。
とりあえず近場のコンビニに入った。
特にコンビニでやることもないので、週刊誌を立ち読みした。
ふと、時計を見ると、もうコンビニに入ってから30分ほど経っていた。
外の明るさを確認しようと顔をあげるとそこには、手を繋いで歩く薫たちのカップルの姿があった。
まだ、打ち上げの時間なのにあんなところで何してんだろう?そう思い見つめていると、薫と目があった。
薫は、一瞬、気まずそうな、見られたくないものを見られたような、複雑な表情でこちらを見た。
薫、あんな顔するんだ。
次見たときには、薫は幸せそうな表情に戻り、癒月と話していた。それからは、こちらに視線を一切向けないまま、コンビニの前を通り過ぎていった。
僕はただ薫達が行ったほうをぼーっと見つめることしかできなかった。
しばらくするとぞろぞろとクラスメイトが焼肉屋から出てきた。
予定していた終了の時間になったのだ。
約30分ほど本を持って立ったまま放心状態になっていたらしい。
クラスメイトたちの賑やかさが去った後、一人とぼとぼと歩きながら帰路についた。
家に帰り、自分の部屋に入ると、ベッドにダイブした。
その後、スマホを開くと、ネットニュースの通知が来ていた。
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