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桜のように散った私たち【読み切り版】【僕Ver.】(未完)

初恋も卒業

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いつもより早く家から出て、朝日にあてられながらいつもの公園まで来た。

まだ抜けきれていない寒さにスッキリと頭が冴えていく。

遅咲きの梅が、僕たちの卒業を祝福するかのように咲いている。

この公園で待ち合わせて学校に行くのも今日で最後かと思うと、寂しい気持ちが込み上げてくる。

思い出にふけっていると、いつもの2割増しくらいに決めて来ている薫の姿が見えた。

「おーい、幸太郎。おはよう」

手を振りながら駆けてくる薫の姿が、見た目に反して子供っぽくて、少し笑ってしまう。

「ふふっ、おはよう。薫」

「おう、やけに朝から上機嫌じゃねえか」

薫が、僕の顔を覗き込んで聞いてくる。

「『ここで待ち合わせて学校に行くのも最後か』って寂しさに浸っていたら、いつも以上に無邪気な薫を見て、なんか寂しさが吹っ飛んでいったような気がして」

「そんな先のこと考えてねえで目の前のことも考えろよ。俺等、今日で卒業だぞ。テンション上げていかねえと。お前告白もするんだろ?」

「薫はいつも元気だね。今日の髪型、いつも以上に気合入ってるね」

セットしてきたであろう髪をなぞりながら薫が元気良く答える。

「おうよ、やっぱ式だから気合い入れねえと。一生の思い出にしてえからな」

「じゃあ、少し早いけど、学校行こう」

公園から十分ほどの通学路。

一歩一歩を噛み締めながら進む。

学校に近づくにつれて、段々と人影が増えてきた。

学校には、たくさんの親子連れと、後輩と話している卒業生の姿があった。

うちの親は、他の知り合いの親と一緒に来るらしい。

ちなみに薫の家は、家族仲がそこまで良くないので卒業式に来てくれないらしい。


教室に入ると、癒月と目があった。

今日告白すると思うと、少しパニックになってとっさに目を離してしまった。

「おはよー、薫と幸太郎くん。今日はいつもより早いけどどうしたの?」

「幸太郎が早く行こうって言ってきたから、早く来たんだ」

「おっ、今日、髪バッチリ決まってるじゃん。かっこいい」

「だろ、今日のは渾身の出来なんだ」

「ちょっと呼ばれてるみたいだから行くね」

「おう、行ってらしゃい」

視線を戻すタイミングを掴みかねていると、いつの間にか、癒月は他のグループのところに話に行ってしまった。

「おいおい、幸太郎。今から緊張してどうするんだ。それだと告白まで持たないぞ」

「でも、なんか恥ずかしくて」

薫がなにか話しだそうとしたタイミングで、予鈴がなった。

キーンコーン、カーンコーン

鳴り終わるタイミングで担任が教室に入ってきた。

「席につけー。ホームルームを始めるぞ」

薫がなにか言いたそうな顔をしていたけれど、それぞれの席に着き、ホームルームが始まるのを待った。

「今日は卒業式だ。卒業するその瞬間まで気を抜くなよ。最後の最後でなにかやらかすなよ・・・・」

過去になにか卒業式であったのか、ってぐらい念押しをしてくる担任の話を右から左に流しながら、今日の告白のことについて考える。

どうしよう。いつ手紙を靴箱に入れよう。卒業式、終わってからでいいかな?

ちゃんと来てくれるかな?どんな返事をするのかな?成功するかな?

昨日よりもリアルに情景が想像できるようになり、薫に沈めてもらった不安が再び込み上げてきた。

それから、僕はずっと上の空であった。

隣でクラスメイトが泣きながら合唱曲を歌っているときも、卒業証書を受け取っているときも、ずっと上の空であった。頭の中は、この後行う告白のことばかり考えていた。

やっと現実に感覚が戻ってきたときには、卒業生が退場して行っていた。

教室に戻ると、担任から30分ほどの休憩を言い渡された。

もう卒業式が終わったのかと呆然としていた。

ふと、我に返り、告白の場所の下見に行こうと思い立った。

薫に声をかけて一緒に行こうと思い、薫の席を見るとそこに薫がいなかった。

教室中を見回しても薫が見当たらないので、トイレにでも行っているのかと思い、一人で席を立った。

ついでに帰りに靴箱に手紙を入れようと思い、丁寧に懐に手紙を入れた。

教室を出るとそこら中に、後輩と抱きついてお互いに泣いていたり、友達と少し寂しそうに笑い合っていたりする生徒たちがいた。

その間を抜け、靴箱から外に出て、式が終わり体育館から出て来た保護者の間を抜け校舎裏へと向かう。

さっきまでの校舎内の喧騒とは打って変わり、静けさと少しの冷たさを感じる校舎裏。

体育館の近くからだんだん遠くの方に進んでいく。

どのあたりで待っていようかと考えながら進んでいるとふと、前に男女二人が向かい合っているところに出くわした。最近視力が下がってきていて、顔がはっきりと見えなかったので、興味本位で気づかれないように近づいていく。

近づいてみると、そこにいたのは、薫と癒月だった。

二人から見て、死角になるところで立ち止まる。

切羽詰まった表情をしている癒月と、それにあてられてか、少し緊張したかのような表情をする薫。

まるで今から告白でもするのじゃないかというような雰囲気がある。

背中に張り付く嫌な予感が留まるところを知らない。

張り詰めた緊張感の中、口を開いたのは癒月の方だった。

「突然呼び出しちゃってごめんね。」

「急だったから、びっくりしたわ。で、どうしたん?」

絞り出すように言葉を紡いでいく癒月と、いつもより少し大袈裟なリアクションをする薫。

癒月の不安そうな表情。僕向けられたものでもないのに、いや、僕に向けられたものじゃないからこそ胸が苦しくなる。

「実は、薫にどうしても伝えたいことがあって…」

「おう…」

癒月の真剣な表情に気圧されたのか言葉に詰まる薫。

永遠と思えるほどの1拍。

再び静寂が訪れ、どんどんと癒月に引き込まれていくように感じる。

どんどんと胸が締め付けられるように感じる。

ゆっくりと間を取って、再び癒月が話し始める。

「私、薫のことが好き。大好きなの。だから…お付き合いしてくれない?」



えっ。

この場面に遭遇してからなんとなく予想していたけれど、改めて本人の口から聞くと、驚きが隠せない。

癒月って、薫が好きだったんだ。

その事実だけがじんわりと体に広がっていく。


薫も驚いたかのような表情をしている。

すぐに切り替わり真剣に考える表情になった。

癒月が取った魔よりもすごく間を開けて返事をした。

「わかった。俺で良かったらよろしくお願いします」

薫にしては、堅苦しすぎる返事。

薫も緊張したのだろう。

「じゃあ、これからよろしくね」

はにかむように笑う癒月。

少し硬い表情だが、なんとか笑顔を見せようとする薫。

二人は向かい合い、笑い合っている。



えっ。

えっ、えっ、えぇぇぇえぇえええええええ。

付き合うんだ。

驚愕の感情と事実を受け取ることしかできない。

しばらくその場で立ち尽くしてしまった。

さっきまで痛みを伴うほど感じていた感情たちが一気になくなっていった。

頭の中は真っ白になり何も考えられない。

ただ、昨日書いた手紙を握っていた。

くしゃくしゃになってしまった手紙。もう、どうせ伝える人もいない手紙。

胸の中にポッカリと穴が空いたような感覚がある。だけれど、悲しさや、寂しさ、嫉妬などは湧いてこない。頭がまだそこまで追いついてきていないようだ。

段々と胸に空いた穴の大きさに気づいてくる。

それからしばらくそこから動くことができなかった。

体が思うように動かなかった。

「あ、神崎くんこんなところにいたんだ。神崎くん、もうホームルーム始まるよ。もう、みんな教室にいるよ。神崎くん探されているよ。どうしたの?」

クラスメイトが声をかけてくれて、やっと現実に戻ってきた。

気がつくとそこにはもう、薫の姿も癒月の姿もなかった。

俺は十分以上、意識を失っていたらしい。

手紙を靴箱に入れることなどせずに教室まで戻った。

教室に入り、クラスのみんなに迷惑をかけたことを謝った。

それからの、中学校生活ラストのロングホームルームは、全く頭に入ってこなかった。

一人一人思い出などを語っているようだったけれど、全く覚えていない。

担任の話で大体のクラスメイトが泣いていたけれど。涙一つ動かなかったし、感情が動くことはなかった。

ただ作業のようにその日の残りの日程をこなした。

朝に感じていたしんみりとした感情もなくなり、感情の起伏が一切なくなった。

気まずく思ったのか、告白の後一切、薫は僕に話しかけてこなかった。

僕は、ホームルームが終わるとそそくさと一人で帰った。

僕の中学校生活はそうして終わりを迎えた。淡い初恋とともに。


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