百々五十六の小問集合

百々 五十六

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桜のように散った私たち【読み切り版】【僕Ver.】(未完)

希望を持って、明日を待って

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「お前らは、明日卒業する。明日を笑顔で逢えるために先生から一つ伝えたいことがある。お前ら、『遠足は帰るまでが遠足』という言葉を知っているか?・・・」

先生のお説教のようなお話を右から左に流しながら考え込む。

明日卒業かぁ。この教室で学ぶのも、さっきの国語で最後だったんだなぁ。これからは行事という思い出作りだけ。三年間かぁ、長かったなぁ。来年からは、皆バラバラになっちゃうんだなぁ。薫とこんなに遊べるのも今年までかなぁ。

卒業を前にし、感傷に浸る。

この学校で行った様々なことが思い返されていく。

入学式が三年前かぁ。新入生代表の言葉を言ってる癒月、可愛かったなぁ。

体育祭、三年ともまともに活躍できなかったなぁ。薫が体育祭の後だけちょっとモテてたの面白かったなぁ。まぁでも、一週間もすれば誰も薫に近寄ってこなかったけど。

パンッ

先生が名簿を教卓に軽く叩きつける音が響く。

何か怒られることしたか?と思い、急激に思考が現実に引き戻されていく。

先生の顔は、もうすでに泣きそうになっていてとても怒っている雰囲気じゃない。

どうやら起こっていたのではなく、話の締めに入ったらしかった。

「・・・お前らの一生の思い出になる卒業式にするために今日はくれぐれも事故を起こさないように。全員で、笑顔で卒業式を逢えるぞ。終わりだ。日直、挨拶」

過去に卒業式の前日になんかあったのかと言うぐらい先生が念を押してくることに軽い違和感を覚えた。

先生も色々苦労してきたのかな?この、緊張感の緩んだときにやらかされたら、たまったもんじゃないなぁ。

日直も先生の話を聞いていなかったのか反応がワンテンポ遅れた。

「起立、気をつけ。さようなら」

慌てて立ち上がり、日直の言葉に合わせて礼をする。

顔をあげるとともに緊張の糸が切れたのか、途端にクラスがにぎやかになる。

喧騒の中、黙々と帰り支度を済ませ、意を決して薫に声をかける。

「ねえ、薫。この後空いてる?」

「どうした?久しぶりにゲーセンでも行くのか?」

薫はこちらに振り向きながら、とても楽しそうに、手を銃に見立てて撃つような動きをした。

「ゲーセンは行きたいけど違うよ。ちょっと、薫に相談があるんだ」

期待をした目でこちらを見つめてくる薫に対して、申し訳ないと思いながら返事をした。

「じゃあ、いつもの公園に行くか。ゲーセンは、また今度な」

席を立つと、教室の出口へと続くところにいた人たち全員が場所を開け、まるでモーゼの海割のように道ができた。そこを堂々と歩く薫。その隣で、申し訳無さそうにしながら教室から出ていく、僕。




いつもの帰り道。校門から出て少しのところで、薫に話しかけた。

「明日でもう卒業だね」

「中学校あっという間だったな」

薫から意外な答えが返ってきた。三年間ずっと一緒にいたから、体感も似ているものだと思っていた。だから、さっき考えていたことと真逆の回答に驚く。

ここに来て、新しく薫のことをしれて嬉しい。

上機嫌で薫にツッコミを入れる。

「それは薫が授業に出ずにサボってたからだよ」

「まあ、半分くらいしか聞いた覚えがねえわ」

「高校ではちゃんと授業受けるんだよ?」

せっかく受かった高校なんだ。退学になんてなってほしくない。二人で勉強したあの時間を無駄にしてほしくない。

「わかった、分かったって。でも、高校行ったら幸太郎と離れ離れになるのか」

さっき考えていたことを言われたので、先生の話の途中、散々自分を慰めた言葉がスラスラと口から溢れる。

「まあでも、高校に入ったからって急に縁を切るわけじゃないし、スマホですぐにやり取りもできるし、そもそも、学校は隣町だけど、住む場所は別に変えないけどね」

「じゃあ、大して今と変わんねえんだな。で、卒業したらどうするよ?」

散々悩んだ僕と違ってなんか、あっけらかんとしている薫。やっぱり、薫のこういう、さっぱりとした性格に憧れるなぁ。

でも今は、ちょっとばかり薫に意地悪をしてみたくなった。だから、薫の想定してるであろう答えより、少しぶっ飛んだことを言ってみた。

「小旅行でも行こうよ」

「いいけど、まずは打ち上げな」

思ったよりも軽くあしらわれてしまった。

何だ。つまんないなぁ。もっといいリアクションくれるかと思ったのに。

少し拍子抜けだ。

歩いていると、すれ違う後輩たちと目が合う。後輩たちは、何か不思議なものでも見ているかのような表情や、心配するような表情で、こちらを二度見してくる。僕が薫にパシリにされているとでも思ったのだろうか?

そういう表情をされると、途端に居心地が悪くなってしまう。

隣を見ると、視線など全く気にしていないだろう、堂々とした薫がいる。やっぱり薫は僕の憧れだ。僕じゃあとても真似できない。

薫の顔を見つめていると、ふと、目があった。不思議そうに首を傾げる薫。

慌てて話題を進めることで誤魔化した。

「じゃあ、明日二人でカラオケでも行く?」

「そうすっか」

ふと頭の中に癒月の顔が浮かぶ。

「クラスで打ち上げでもするのかな?」

癒月ならクラスでの打ち上げとかを企画しそうだ。

「あったとしても行かねえだろ。俺が行ったところで、怖がられて迷惑かけるだけだろうしな」

「そんな、薫怖くないのになぁ。怖いのは、顔だけなのに。まぁ、薫がいなかったら話す相手いないから、あったところで、僕も行かないかな」

クラスメイトの殆どは、薫を怖がっている。顔の印象や噂で判断して関わってはいけない人のような接し方をする。薫を除け者のようにするクラスメイトのことが、僕はあまり好きではない。

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