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春樹は変態になったってしまった (完)

分かり。別れ

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誰もいない教室。

彼と通学路で会いたくないから、家から早く出てきた。

ここにはまだ、私の腫れた目を気にかける人も、からかう人もいない。

冷たさと静けさの中、昨日のことだけを考えていた。

あれで良かったのだろうか?

喧嘩別れになって申し訳ないとか。

春樹のことだけを頭の中でぐるぐると考えてしまう。

段々とクラスに人が増えてきた。

にぎやかになっていき、いつもの活気がこのクラスに戻ってきたように感じる。

短針が8時を指し、チャイムが響く。

それと同時に担任が、教室に入ってくる。顔色があまり良くないけどどうしたのだろう。そんな疑問とともに、ホームルームが始まった。

「みんなに重要なお知らせがある」

真剣な顔で担任が呟いた。あんなに真剣な表情の担任は初めて見た。

みんなも同じように思ったのか、一瞬、ザワッとしたが、すぐに収まる。

「春樹が死んだ」

呟くように担任が言った一言で、クラスが静まり返る。

そして困惑がクラス中に蔓延した。

またもやザワザワとしたが、担任が口を開くと、途端にみんなが黙った。

「小林春樹は、自宅で首をつった状態で発見されたそうだ。警察は自殺と見ているそうだ。親御さんは、『最近春樹の様子がおかしかった。もしかして学校でいじめられていたのではないか』と、言って心配していたそうだ。だから、いじめの調査をやる。今日の授業は基本的に自習となる。先生に聞かれたことには、各自、正直に答えるように」

それだけ言って、先生はすぐに教室から出ていった。

数秒の静寂のあと、教室は、ドッと騒がしくなった。

翼がこちらに来ていた。なにか私に話しかけているようだが全く頭に入ってこない。切り替えなくちゃという気持ちで、立ち上がり、

「ちょっとトイレ」

そう言って教室から飛び出した。翼が驚いたような顔をしていた気がするが、今はどうでもいい。急いでトイレに駆け込んだ。



トイレに入り、一人になった瞬間に、滝のように涙がこぼれた。口からは嗚咽が漏れる。

朝、登校してきたときよりも、人に見せられないような顔になっていることがわかる。

どれくらい泣いたかわからない。

段々と涙の勢いが落ちてくる。

ついには涙が枯れ、嗚咽だけが響く。

嗚咽をしすぎたからか、吐き気が一気に込み上げ便器に吐いた。

それでも嗚咽はやまない。

吐いたものが嗚咽によって、喉に入ってしまいむせる。

そこでやっと、冷静さを取り戻した。

何かを考えたり後悔したりする余裕などなく、そのままトボトボとした足取りで、保健室に向かった。



保健室に入ると、真希先生は、一瞬ぎょっとした目でこちらを見てきたが、すぐにその顔は心配へと変わる。

「どうしたの?そんな顔して。何かあったの?話なら聞くよ」

真希先生の声は、いつもよりも優しい。真希先生の顔を見て、ホッとしてしまいその場で崩れ落ちてしまう。

「春樹がァァァァああ。春樹がぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛」

「あぁ、彼のことね。とりあえず落ち着きましょう。ベットまで行ける?」

私は無言で首を横に振る。

すると、真希先生は、崩れ落ちた私を支えてベットへと運んでくれた。

「富田さん、担任の先生から、もし富田さんが保健室に来たら、春樹くんの件はこっちで聞くようにって言われてるの。だから、最近、春樹くんとなにかあったなら教えてくれない?」

責めるようにではなく、落ち着いて優しく質問して来る姿に、さすが保健室の先生だと感心する。

鼻を一度すすり、ゆっくりと話し始める。

「先週、春樹女子トイレに入ったの。そのことで、なんでそんなことしたのかが聞きたくて、何度も連絡してたの。でもね、何も返信を返してくれなかったの。だから、直接聞こうと思って、昨日の放課後に春樹を呼び出したの。そこでも教えてくれなかったから、つい、カッとなっちゃって、春樹を怒鳴りつけちゃったの。でね、家に帰って『別れましょう』って、メッセージを送ったの。そしたら、今日学校に来たら、自殺だって言うから。自殺だって言うからぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛」

また泣きだしてしまった。

真希先生は、優しく私の背中を擦ってくれた。

「わかった。つらいことを聞いてしまって、ごめんね。保護者の方にお迎え頼むから、少し待っててね」






いつの間にか眠ってしまったようだ。

少し心が軽くなったかもしれない。

寝てしまったのは、泣きつかれたから仕方ない。そう自分に言い聞かせて、心配そうに私が起きるのを待ってくれていた親とともに家に帰る。





彼の葬式に出た。

彼との別れを惜しんで泣いている親族と、それに便乗して、悲しいふりをして一切涙を流さないクラスメイト。そして一部の女子はまだ顔を青くしていた。

あの時、全く春樹を助けようともしなかったくせにいっちょ前に悲しみやがってと、いう怒りがふつふつと込み上げてくる。

心なしか親族の方々もクラスメイトたちと距離を取っているように感じる。

私は、こいつらに、不信感を持ったまま残りの高校生活を過ごしていくことになるのだろうと悟った。まあ、そんなこと今更どうでもいいけどね。




次の日、彼の部屋へと忍び込み、彼が死んだであろう時間、彼が死んだ場所で同じように、首に縄を巻いた。

見つかった水稀の死体は、笑顔と涙で歪んだ顔をしていた。


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