16 / 270
春樹は変態になったってしまった (完)
分かり。別れ
しおりを挟む
誰もいない教室。
彼と通学路で会いたくないから、家から早く出てきた。
ここにはまだ、私の腫れた目を気にかける人も、からかう人もいない。
冷たさと静けさの中、昨日のことだけを考えていた。
あれで良かったのだろうか?
喧嘩別れになって申し訳ないとか。
春樹のことだけを頭の中でぐるぐると考えてしまう。
段々とクラスに人が増えてきた。
にぎやかになっていき、いつもの活気がこのクラスに戻ってきたように感じる。
短針が8時を指し、チャイムが響く。
それと同時に担任が、教室に入ってくる。顔色があまり良くないけどどうしたのだろう。そんな疑問とともに、ホームルームが始まった。
「みんなに重要なお知らせがある」
真剣な顔で担任が呟いた。あんなに真剣な表情の担任は初めて見た。
みんなも同じように思ったのか、一瞬、ザワッとしたが、すぐに収まる。
「春樹が死んだ」
呟くように担任が言った一言で、クラスが静まり返る。
そして困惑がクラス中に蔓延した。
またもやザワザワとしたが、担任が口を開くと、途端にみんなが黙った。
「小林春樹は、自宅で首をつった状態で発見されたそうだ。警察は自殺と見ているそうだ。親御さんは、『最近春樹の様子がおかしかった。もしかして学校でいじめられていたのではないか』と、言って心配していたそうだ。だから、いじめの調査をやる。今日の授業は基本的に自習となる。先生に聞かれたことには、各自、正直に答えるように」
それだけ言って、先生はすぐに教室から出ていった。
数秒の静寂のあと、教室は、ドッと騒がしくなった。
翼がこちらに来ていた。なにか私に話しかけているようだが全く頭に入ってこない。切り替えなくちゃという気持ちで、立ち上がり、
「ちょっとトイレ」
そう言って教室から飛び出した。翼が驚いたような顔をしていた気がするが、今はどうでもいい。急いでトイレに駆け込んだ。
トイレに入り、一人になった瞬間に、滝のように涙がこぼれた。口からは嗚咽が漏れる。
朝、登校してきたときよりも、人に見せられないような顔になっていることがわかる。
どれくらい泣いたかわからない。
段々と涙の勢いが落ちてくる。
ついには涙が枯れ、嗚咽だけが響く。
嗚咽をしすぎたからか、吐き気が一気に込み上げ便器に吐いた。
それでも嗚咽はやまない。
吐いたものが嗚咽によって、喉に入ってしまいむせる。
そこでやっと、冷静さを取り戻した。
何かを考えたり後悔したりする余裕などなく、そのままトボトボとした足取りで、保健室に向かった。
保健室に入ると、真希先生は、一瞬ぎょっとした目でこちらを見てきたが、すぐにその顔は心配へと変わる。
「どうしたの?そんな顔して。何かあったの?話なら聞くよ」
真希先生の声は、いつもよりも優しい。真希先生の顔を見て、ホッとしてしまいその場で崩れ落ちてしまう。
「春樹がァァァァああ。春樹がぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛」
「あぁ、彼のことね。とりあえず落ち着きましょう。ベットまで行ける?」
私は無言で首を横に振る。
すると、真希先生は、崩れ落ちた私を支えてベットへと運んでくれた。
「富田さん、担任の先生から、もし富田さんが保健室に来たら、春樹くんの件はこっちで聞くようにって言われてるの。だから、最近、春樹くんとなにかあったなら教えてくれない?」
責めるようにではなく、落ち着いて優しく質問して来る姿に、さすが保健室の先生だと感心する。
鼻を一度すすり、ゆっくりと話し始める。
「先週、春樹女子トイレに入ったの。そのことで、なんでそんなことしたのかが聞きたくて、何度も連絡してたの。でもね、何も返信を返してくれなかったの。だから、直接聞こうと思って、昨日の放課後に春樹を呼び出したの。そこでも教えてくれなかったから、つい、カッとなっちゃって、春樹を怒鳴りつけちゃったの。でね、家に帰って『別れましょう』って、メッセージを送ったの。そしたら、今日学校に来たら、自殺だって言うから。自殺だって言うからぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛」
また泣きだしてしまった。
真希先生は、優しく私の背中を擦ってくれた。
「わかった。つらいことを聞いてしまって、ごめんね。保護者の方にお迎え頼むから、少し待っててね」
いつの間にか眠ってしまったようだ。
少し心が軽くなったかもしれない。
寝てしまったのは、泣きつかれたから仕方ない。そう自分に言い聞かせて、心配そうに私が起きるのを待ってくれていた親とともに家に帰る。
彼の葬式に出た。
彼との別れを惜しんで泣いている親族と、それに便乗して、悲しいふりをして一切涙を流さないクラスメイト。そして一部の女子はまだ顔を青くしていた。
あの時、全く春樹を助けようともしなかったくせにいっちょ前に悲しみやがってと、いう怒りがふつふつと込み上げてくる。
心なしか親族の方々もクラスメイトたちと距離を取っているように感じる。
私は、こいつらに、不信感を持ったまま残りの高校生活を過ごしていくことになるのだろうと悟った。まあ、そんなこと今更どうでもいいけどね。
次の日、彼の部屋へと忍び込み、彼が死んだであろう時間、彼が死んだ場所で同じように、首に縄を巻いた。
見つかった水稀の死体は、笑顔と涙で歪んだ顔をしていた。
彼と通学路で会いたくないから、家から早く出てきた。
ここにはまだ、私の腫れた目を気にかける人も、からかう人もいない。
冷たさと静けさの中、昨日のことだけを考えていた。
あれで良かったのだろうか?
喧嘩別れになって申し訳ないとか。
春樹のことだけを頭の中でぐるぐると考えてしまう。
段々とクラスに人が増えてきた。
にぎやかになっていき、いつもの活気がこのクラスに戻ってきたように感じる。
短針が8時を指し、チャイムが響く。
それと同時に担任が、教室に入ってくる。顔色があまり良くないけどどうしたのだろう。そんな疑問とともに、ホームルームが始まった。
「みんなに重要なお知らせがある」
真剣な顔で担任が呟いた。あんなに真剣な表情の担任は初めて見た。
みんなも同じように思ったのか、一瞬、ザワッとしたが、すぐに収まる。
「春樹が死んだ」
呟くように担任が言った一言で、クラスが静まり返る。
そして困惑がクラス中に蔓延した。
またもやザワザワとしたが、担任が口を開くと、途端にみんなが黙った。
「小林春樹は、自宅で首をつった状態で発見されたそうだ。警察は自殺と見ているそうだ。親御さんは、『最近春樹の様子がおかしかった。もしかして学校でいじめられていたのではないか』と、言って心配していたそうだ。だから、いじめの調査をやる。今日の授業は基本的に自習となる。先生に聞かれたことには、各自、正直に答えるように」
それだけ言って、先生はすぐに教室から出ていった。
数秒の静寂のあと、教室は、ドッと騒がしくなった。
翼がこちらに来ていた。なにか私に話しかけているようだが全く頭に入ってこない。切り替えなくちゃという気持ちで、立ち上がり、
「ちょっとトイレ」
そう言って教室から飛び出した。翼が驚いたような顔をしていた気がするが、今はどうでもいい。急いでトイレに駆け込んだ。
トイレに入り、一人になった瞬間に、滝のように涙がこぼれた。口からは嗚咽が漏れる。
朝、登校してきたときよりも、人に見せられないような顔になっていることがわかる。
どれくらい泣いたかわからない。
段々と涙の勢いが落ちてくる。
ついには涙が枯れ、嗚咽だけが響く。
嗚咽をしすぎたからか、吐き気が一気に込み上げ便器に吐いた。
それでも嗚咽はやまない。
吐いたものが嗚咽によって、喉に入ってしまいむせる。
そこでやっと、冷静さを取り戻した。
何かを考えたり後悔したりする余裕などなく、そのままトボトボとした足取りで、保健室に向かった。
保健室に入ると、真希先生は、一瞬ぎょっとした目でこちらを見てきたが、すぐにその顔は心配へと変わる。
「どうしたの?そんな顔して。何かあったの?話なら聞くよ」
真希先生の声は、いつもよりも優しい。真希先生の顔を見て、ホッとしてしまいその場で崩れ落ちてしまう。
「春樹がァァァァああ。春樹がぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛」
「あぁ、彼のことね。とりあえず落ち着きましょう。ベットまで行ける?」
私は無言で首を横に振る。
すると、真希先生は、崩れ落ちた私を支えてベットへと運んでくれた。
「富田さん、担任の先生から、もし富田さんが保健室に来たら、春樹くんの件はこっちで聞くようにって言われてるの。だから、最近、春樹くんとなにかあったなら教えてくれない?」
責めるようにではなく、落ち着いて優しく質問して来る姿に、さすが保健室の先生だと感心する。
鼻を一度すすり、ゆっくりと話し始める。
「先週、春樹女子トイレに入ったの。そのことで、なんでそんなことしたのかが聞きたくて、何度も連絡してたの。でもね、何も返信を返してくれなかったの。だから、直接聞こうと思って、昨日の放課後に春樹を呼び出したの。そこでも教えてくれなかったから、つい、カッとなっちゃって、春樹を怒鳴りつけちゃったの。でね、家に帰って『別れましょう』って、メッセージを送ったの。そしたら、今日学校に来たら、自殺だって言うから。自殺だって言うからぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛」
また泣きだしてしまった。
真希先生は、優しく私の背中を擦ってくれた。
「わかった。つらいことを聞いてしまって、ごめんね。保護者の方にお迎え頼むから、少し待っててね」
いつの間にか眠ってしまったようだ。
少し心が軽くなったかもしれない。
寝てしまったのは、泣きつかれたから仕方ない。そう自分に言い聞かせて、心配そうに私が起きるのを待ってくれていた親とともに家に帰る。
彼の葬式に出た。
彼との別れを惜しんで泣いている親族と、それに便乗して、悲しいふりをして一切涙を流さないクラスメイト。そして一部の女子はまだ顔を青くしていた。
あの時、全く春樹を助けようともしなかったくせにいっちょ前に悲しみやがってと、いう怒りがふつふつと込み上げてくる。
心なしか親族の方々もクラスメイトたちと距離を取っているように感じる。
私は、こいつらに、不信感を持ったまま残りの高校生活を過ごしていくことになるのだろうと悟った。まあ、そんなこと今更どうでもいいけどね。
次の日、彼の部屋へと忍び込み、彼が死んだであろう時間、彼が死んだ場所で同じように、首に縄を巻いた。
見つかった水稀の死体は、笑顔と涙で歪んだ顔をしていた。
10
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
水縞しま
ライト文芸
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる