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第四章
第四十六話 *
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少しずつ、気持ちいいことが、感じることが怖くなっていく。何も考えられなくなる、おかしくなる。一旦ルピナスを止めようと、セイランは快感でほとんど力の入らない腰になんとか力を込めて、完全にルピナスにもたれていた体を起こそうとする。が、そのタイミングでルピナスに最奥をグッグッと押され、上昇しきった感度では耐え切れない快感に思わず声が溢れてしまう。
「ふぁあッ! それッ、そんな、しちゃ、あ、……ひぅッ!」
「かわいいなぁ、たくさん感じてくれてるね」
「こえ、が……! あぅっ、あ、ミハネさん、起きちゃ、ぅッ……!」
「えぇ? もう限界なの? あともう三十分くらいこうしてたいんだけど?」
口を開くと声が出てしまうセイランは、咄嗟に自分の手の親指の付け根を口に突っ込んで無理矢理声を抑え込む。それからもう無理だというようにふるふると首を左右に振った。これからまた三十分も続けたら、自分でもどうなるか分からない。ルピナスとのセックスが気持ちいいことは十分理解した。だからもう勘弁して欲しい。このままだと最後には何も考えられなくなって、ただ後ろをきゅんきゅんと悦ばせながらよがるだけになりそうな、ほとんど確信に近い予感がセイランに中にはあった。
「……もうイきたい?」
「んッ、ん……、ぁ……」
吐息を吹きかけながら囁かれる声にセイランはコクコクと首を縦に振った。それを見下ろすルピナスは、一度腰を止めセイランを抱えて少し身を起こし、セイランが咥えていた手を退ける。キョトンとして見上げるセイランを倒れないように背中を支えて腰をしっかり据えさせ、少し離れていた体を再度密着させる。それからルピナスは、容赦なくズンと腰を突き上げた。
「赤ん坊じゃないんだから指咥えないで?」
「あぁッ、あ、あっ、ひッ……」
それまでのスローセックスが嘘だったかのように、ルピナスはセイランを激しく責め立てる。静かに揺れていた水面が激しく揺れ、体に当たって弾けた飛沫が体を濡らしていく。セイランの腰が後ろに反って強すぎる快感にいっそ怯えて逃げようとするが、ルピナスの手はしっかりセイランを捕まえて逃がさない。行き過ぎた快感はセイランの喉を引き攣らせて、喘ぎ声すらうまく音にならない。ただ快楽が電流のように何度も腰を駆け抜け、視界がチカチカする。
「っ、ッ!」
「いいなぁ、イイ顔してるね」
「ひぐっ、あ、あぅ、むり、むりむりッ! こわい、こわい……ッ!」
頭も体も気持ちいいしかない。達してしまいそうな快楽は、セイランに言いようのない不安を与えた。涙が止まらなくて、みっともない声が止まらない。今にも嗚咽を零しそうなセイランの口が、熱いもので塞がれる。それがルピナスのものだと、すぐに分かった。唇に何かが触れている感覚は、不思議とセイランを落ち着けていく。口づけは深いものではなく、ルピナスはチュッチュッとリップ音を立てて、唇を啄むように何度も口づけた。くすぐったくて、心地がいい。
抱かれているときの口づけとは、こんなに安心するものなのか。そんな甘くて、優しくて、温かい感覚。初めてだ。こうやってイかされる感覚はいつもセイランに不安しか残さなかった。こんなに、満たされているのなんて。ルピナスといると、知らない感情が大量に生まれて、どうしていいか分からなくなってしまう。
――これが、好き。
揺れる波間で、セイランは気づかぬうちに達していた。脱力感が全身を包んで、倦怠感で瞼が重い。今にも湖に沈んでしまいそうなセイランを支えていたのは、ルピナスの細い腕だった。セイランよりもよっぽど細くて白い腕であるというのに、セイランにはその腕が自分のものよりもよっぽど頼りがいのある逞しいものに見えた。
「……るぴ、な……す、」
「うん? え、待ってまだ落ちないで? せめて水からあがってから……」
半分微睡みの中にいるセイランを慌ててルピナスは抱きかかえ、セイランの手を岸にかけるが、その手は力なくばしゃんと水に落ちてしまう。ルピナスが「まずい」という表情をしていることも知らず、セイランはふわふわした柔らかい感覚に意識を落としていく。セイランは最後に、赤子のように無邪気に微笑んだ。
「……すき」
「っ! ……、」
ルピナスが言葉を詰まらせる。セイランはその様子を見ることはなく、ルピナスに身を委ねて眠りについていた。残されたルピナスは、水と汗とで濡れた顔をそっと撫でる。セイランは知らない。この美しい湖を背にして乱れていた姿が、どんなに美しかったか。魔法石の光を背にして瞳を濡らし、汗の粒に青い光を反射させ淫らに甘える姿が、どれほど麗しいものだったか。それを知るのはたった一人だけ。
「ふぁあッ! それッ、そんな、しちゃ、あ、……ひぅッ!」
「かわいいなぁ、たくさん感じてくれてるね」
「こえ、が……! あぅっ、あ、ミハネさん、起きちゃ、ぅッ……!」
「えぇ? もう限界なの? あともう三十分くらいこうしてたいんだけど?」
口を開くと声が出てしまうセイランは、咄嗟に自分の手の親指の付け根を口に突っ込んで無理矢理声を抑え込む。それからもう無理だというようにふるふると首を左右に振った。これからまた三十分も続けたら、自分でもどうなるか分からない。ルピナスとのセックスが気持ちいいことは十分理解した。だからもう勘弁して欲しい。このままだと最後には何も考えられなくなって、ただ後ろをきゅんきゅんと悦ばせながらよがるだけになりそうな、ほとんど確信に近い予感がセイランに中にはあった。
「……もうイきたい?」
「んッ、ん……、ぁ……」
吐息を吹きかけながら囁かれる声にセイランはコクコクと首を縦に振った。それを見下ろすルピナスは、一度腰を止めセイランを抱えて少し身を起こし、セイランが咥えていた手を退ける。キョトンとして見上げるセイランを倒れないように背中を支えて腰をしっかり据えさせ、少し離れていた体を再度密着させる。それからルピナスは、容赦なくズンと腰を突き上げた。
「赤ん坊じゃないんだから指咥えないで?」
「あぁッ、あ、あっ、ひッ……」
それまでのスローセックスが嘘だったかのように、ルピナスはセイランを激しく責め立てる。静かに揺れていた水面が激しく揺れ、体に当たって弾けた飛沫が体を濡らしていく。セイランの腰が後ろに反って強すぎる快感にいっそ怯えて逃げようとするが、ルピナスの手はしっかりセイランを捕まえて逃がさない。行き過ぎた快感はセイランの喉を引き攣らせて、喘ぎ声すらうまく音にならない。ただ快楽が電流のように何度も腰を駆け抜け、視界がチカチカする。
「っ、ッ!」
「いいなぁ、イイ顔してるね」
「ひぐっ、あ、あぅ、むり、むりむりッ! こわい、こわい……ッ!」
頭も体も気持ちいいしかない。達してしまいそうな快楽は、セイランに言いようのない不安を与えた。涙が止まらなくて、みっともない声が止まらない。今にも嗚咽を零しそうなセイランの口が、熱いもので塞がれる。それがルピナスのものだと、すぐに分かった。唇に何かが触れている感覚は、不思議とセイランを落ち着けていく。口づけは深いものではなく、ルピナスはチュッチュッとリップ音を立てて、唇を啄むように何度も口づけた。くすぐったくて、心地がいい。
抱かれているときの口づけとは、こんなに安心するものなのか。そんな甘くて、優しくて、温かい感覚。初めてだ。こうやってイかされる感覚はいつもセイランに不安しか残さなかった。こんなに、満たされているのなんて。ルピナスといると、知らない感情が大量に生まれて、どうしていいか分からなくなってしまう。
――これが、好き。
揺れる波間で、セイランは気づかぬうちに達していた。脱力感が全身を包んで、倦怠感で瞼が重い。今にも湖に沈んでしまいそうなセイランを支えていたのは、ルピナスの細い腕だった。セイランよりもよっぽど細くて白い腕であるというのに、セイランにはその腕が自分のものよりもよっぽど頼りがいのある逞しいものに見えた。
「……るぴ、な……す、」
「うん? え、待ってまだ落ちないで? せめて水からあがってから……」
半分微睡みの中にいるセイランを慌ててルピナスは抱きかかえ、セイランの手を岸にかけるが、その手は力なくばしゃんと水に落ちてしまう。ルピナスが「まずい」という表情をしていることも知らず、セイランはふわふわした柔らかい感覚に意識を落としていく。セイランは最後に、赤子のように無邪気に微笑んだ。
「……すき」
「っ! ……、」
ルピナスが言葉を詰まらせる。セイランはその様子を見ることはなく、ルピナスに身を委ねて眠りについていた。残されたルピナスは、水と汗とで濡れた顔をそっと撫でる。セイランは知らない。この美しい湖を背にして乱れていた姿が、どんなに美しかったか。魔法石の光を背にして瞳を濡らし、汗の粒に青い光を反射させ淫らに甘える姿が、どれほど麗しいものだったか。それを知るのはたった一人だけ。
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