ある魔法使いのヒメゴト

月宮くるは

文字の大きさ
上 下
45 / 62
第四章

第四十五話 *

しおりを挟む
 お互いに向かい合って、ルピナスの肩にセイランは手を突く。それからルピナスの上で膝立ちになり、斜め上からセイランは視線を合わせた。数秒間、静かに見つめあっていたが、先に欲に耐えかねたセイランがそっと腰を下ろし、ルピナスの上で後孔に性器を擦り当てた。素直な挿れて欲しいという意思表示。それに従って、ルピナスはセイランに向けて性器を上向かせる。

「ん、んっ……、あ、ぅ……」

 セイランはそこに向かって腰を落とし、求めていた熱を体に取り込んでいく。この熱が、質量が、欲しくて仕方なかった。セイランは体を倒してルピナスに抱きついて甘えるようにしつつ、腰を前後に動かして快楽も楽しんでいた。

「ふふふ……、セイラン、もしかしてボクのこと意識してる?」

「へ……、ぁ、そ、それは、ぁッ!」

 今までの自分からすると考えられないことをしている自覚はセイランにもあった。こんなに相手に気を許した状態でセックスなんてしたことがない。まして、自ら抱きついたのなんて、思い返せば初めてのことだった。それもこれも、全部相手がルピナスだから。

「~~ッ! するに決まってるだろ! だって、だって、おれ……!」

「分かってるよ。……セイランに教えてあげるよ、好きな人とするセックスは、とっても気持ちいいってこと」

 どうして今日はこんなに恥ずかしいのか。こんなにドキドキして落ち着かないのか。それは、セイランがずっと好きでもないやつに足を開いてきたから。好意を持つことそのものがルピナスが初めてで、その好意を自覚したのは昨日のこと。初めての好きな相手との行為、セイランは無意識にルピナスのことを強く意識してしまっていた。それに拍車をかけたのは術の影響。術者なだけでなく、好きな相手でもあるルピナスと、早く繋がりたかった。

 ルピナスはセイランの腰を抱くと、グッと持ち上げ先ほど指が触れなかった奥を押し上げる。犯される快楽。自分は今、間違いなく抱かれている、ルピナスのものになっているという承認欲まで満たされていく。

「あ、あっ、ぅ、きもち、い……っ!」

 揺れる動きに合わせて、水面がゆらゆら揺れている。ちゃぷちゃぷと水が跳ねて音を立てるのがやたらと卑猥に聞こえて仕方ない。ルピナスは確かにセイランが感じる場所を貫いてくれるが、それだけで激しく突き上げようとはしなかった。少し激しいくらいに慣れているセイランは、それでは容易く達することが出来ない。わざと煽るようなことを言っても激しくされないことが不安になって、セイランは肩に埋めていた顔を少しあげる。

「んっ、ぁ……、ルピ、ナス……?」

「うん? どした?」

「んんっ……なんで、動かないんだ……?」

「動いてるじゃん」

「ぁっ! そ、だけど……」

 ルピナスは相変わらず一定の速度で体を揺らしていた。焦らされているわけではない。しっかりセイランが感じる点を貫いてくれているから、もちろん気持ちいいし込み上げる快感はある。ルピナスは不安そうに視線をさ迷わせるセイランに向かって、くすりと笑った。

「言ったでしょ? 好きな人とするセックス、教えてあげるって。イくことだけがセックスじゃないんだよ。たくさん感じてるところ、見せてよ」

「ん、んッ、ぅ……ん、あっ……」

 腹の奥をひりつかせる欲が、絶妙な快感で悦んでいることはセイランが一番よく分かっていた。受け手が感じることを優先し、攻めの欲は抑制させたセックス。それはセイランがこれまで経験したことのないやり方だった。みんな、自分が良ければそれでいいというような連中だったから。こちらが感じてようが感じてまいがお構いなしの攻め方しか知らなかった。だから、そのルピナスのやり方は少しくすぐったかった。しかし、ルピナスを求める頭は、それでも温かく満たされていく。

「……っ、ひ、ぁ……! ふ、ぅ……あッ!」

 セイランはルピナスの行為に大人しく身を任せ、激しくはなくとも確実に奥まで深く抉られる感覚を得る度に甘くルピナスにすがりついた。最初はそれが堪らなく心地よくて、「犯されている」という感覚の強さに酔いしれてただ与えられる快楽を素直に感じ取っていた。だが、そんな「愛されている」、「抱かれている」という甘い感情に目を向ける余裕は次第になくなっていった。

 セイランは長時間感じ続けるあまり、普段以上に体を昂らせていた。三十分ほど経つ頃には、セイランは快楽の虜になり、全身が性感帯にでもなったかのような錯覚に陥っていた。ゆっくり突かれているだけなのに、体がびくびく震えて止まらない。蕩けた瞳が快感で満たされて、視界を滲ませている。瞬きをすると目の端を熱いものが伝っていく。唇は戦慄いて、唾液を飲み込む余裕もない。さぞかしぐちゃぐちゃに乱れた顔をしていることだろう。

 ルピナスはセイランの様子を眺めながら、時折優しく髪を撫でてくれたり、胸にキスをしたり、抱きしめたりしてセイランを安心させ続けていた。その度に愛されていると感じて跳ねたセイランの心臓は、全身の感度をあげていった。

 ただ同じところを突かれているだけのはずなのに、同じ快楽を繰り返しているはずなのに、同じじゃない。ルピナスの律動が、突かれる度により気持ちよくて仕方なくなる。髪の先から爪先まで、全身に愛撫が行き渡って、何をされても感じることしか出来なくなる。セイランがもう限界まで落ちていることはルピナスにも見透かされていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる

彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。 国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。 王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。 (誤字脱字報告は不要)

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

【R18+BL】ハデな彼に、躾けられた、地味な僕

hosimure
BL
僕、大祇(たいし)永河(えいが)は自分で自覚するほど、地味で平凡だ。 それは容姿にも性格にも表れていた。 なのに…そんな僕を傍に置いているのは、学校で強いカリスマ性を持つ新真(しんま)紗神(さがみ)。 一年前から強制的に同棲までさせて…彼は僕を躾ける。 僕は彼のことが好きだけど、彼のことを本気で思うのならば別れた方が良いんじゃないだろうか? ★BL&R18です。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

処理中です...