ある魔法使いのヒメゴト

月宮くるは

文字の大きさ
上 下
44 / 62
第四章

第四十四話 *

しおりを挟む
 ルピナスは後ろからセイランに抱きつき、伸びた手首を捕まえて手を引くように促した。背中から、人肌の柔らかさと体温が伝わってくる。セイランは大人しく手を引き、代わりにルピナスに背中を預けた。

「触っていい?」

「ん……、気、使わなくていいから……、こないだみたいに、して欲しい……」

 ルピナスはそっと背中を抱きながら、自分の膝の上にセイランを乗せる。普段ならば体格差から難しい体勢だが、水の中にいることでセイランの体が浮き、ルピナスでも乗せることを可能にしていた。ルピナスは膝の上でセイランの両足を開かせ、そこに手を忍ばせる。セイランとしては、体の奥が求めているのは愛撫ではなく今自分の尻に触れているルピナスの自身であるため、「さっさと挿れて欲しい」という意味で言ったのだが、ルピナスはまだ挿れようとはしなかった。

 ルピナスの手が、やんわりとセイランの性器を包みクリクリと亀頭を刺激していく。やけに敏感な体はそれだけで体を震わすような快楽を拾ってしまう。もはや今更ルピナスにその敏感さを隠す必要などはないのかもしれない。それでも何故か今日はこれまでよりルピナスに痴態を晒すことへの羞恥があった。セイランは頭を横に倒し、ルピナスの胸元に頬をつける。

「ねぇ、セイラン。手、空いてるよね」

「ぅ、ん……?」

「セイランが自分でお尻弄ってるところ、見たいなぁ」

 ルピナスはセイランの額についた髪を分けながら、頭上で甘く囁いた。羞恥と戦っている最中のセイランは、咄嗟にルピナスが発した言葉の意味を理解できず硬直する。

「……、……っ! な、なんで、そんな……!」

「なんでって、ボクとシたいんじゃないの? ならちゃんと慣らしなよ。ボクこっち触っててあげるからさ」

 水飛沫を上げながら顔を上げると、赤くなった頬がルピナスへと晒された。慣らさなきゃいけないことは分かっている。そうしないと裂けるかもしれないし、奥まで入らないかもしれない。これまでに自分でやってみろと言われて目の前で足開かされて自分の指で抜いたことはいくらでもある。でも、今日はその今までとは何か違う。

 ルピナスの手が裏筋を撫でて、カリ首を指の腹で絶妙な刺激を送ってくる。その手は決して奥まった所へは伸ばされなかった。これじゃ、足りない。もっと、もっと奥の気持ちいいところに触れられたい。制欲が羞恥を上回るまで、そう時間は掛からなかった。

「……っん、ぅ、ぁ……ッ!」

「そう、ちゃんと慣らせたらご褒美あげるから、ね」

 右手の中指を自分の後孔に触れさせ、中へと侵入させる。その指を自分の好きなところへと向かわせ、指の腹でウリウリと弄ると甘い快楽に身体が満たされていった。気持ちいい。でも、違う。欲しかったのは、こんな快感ではない。セイランが求めているのは、背後からこのいやらしい手の動きを見下ろしている男から与えられるものだ。

 指を増やして、腹側の一点を責めれば確かに身を震わすほどの快感を得られる。気持ちいい。でもこれじゃ足りない。

 ――早く、欲しい。

 蕩けた頭では目先のことしか考えられず、セイランは強引に指を三本に増やし、押し開く様にして指を挿入する。早急すぎる拡張は、何度も犯された経験のあるセイランでも痛みがあった。それでセイランは指を減らさず、そのまま内壁を押して広げようとする。痛みから目を逸らすため、セイランはキュッと目を瞑り前を愛撫してくれているルピナスの手の方に感覚を向ける。ルピナスが亀頭を手のひらで覆い、キツく握り込んだのはその瞬間のことだった。

「あ……ッ!」

「セイラン、それじゃご褒美あげないよ?」

「え、ぁ……」

 ルピナスのそれも痛みがあるはずなのに、セイランには痛みすらも快感となって背筋を駆け抜ける。それでつい止めていた右手をルピナスが優しく撫でた。その手はセイランに指を抜くように促す。

「だめだよ、ここは繊細なんだからもっと優しくしないと」

「だ、だって……、……、」

「何? これまでこうされてたの?」

「それはそうだけど……、早く、欲しくて……」

 小さく唇を震わせて、やっとのことで本音を伝える。こうしている間も後ろも前も続きを求めて震えていた。ルピナスはセイランの精一杯のおねだりに対して何も言葉を返さず亀頭に重ねていた手を奥へと伸ばした。

 ルピナスは中指を立て、一度奥へと深く忍ばせる。グッと押し込まれた指は最奥には微妙に届かせず、絶妙な位置を撫でて抜かれていく。そしてまた挿れられ、最奥には触れず抜かれる。その指は浅い位置にあるふっくらした場所も決定的に触れることはせず、その周囲を円を描くようにくすぐって離れていく。

「イイところ触ってないのにきゅんきゅんしてるよ?」

「っ、あ……、それは、あんた、だから……」

 焦らされているような動きは物足りなくて仕方がないのに。ルピナスの指に対して、セイランは確かに反応していた。気持ちいいと答えるように収縮を繰り返し、もっとと言うように締めてしまう。自分で弄るのとは違う。満たされているのは、性欲だけではない。ルピナスが触れてくれているという事実が、心の奥を暖かくしてくれる。

 これはルピナスの術だからだろうか。しかし、この間までそんなことはなかったはずだ。

 頬を髪色と同じくらいに赤く染めて、初めて抱かれるかのようにいじらしく上目遣いでルピナスを見つめるセイランの瞳は、周囲の魔法石の光を反射して鮮やかに揺れている。それは余裕を見せていたルピナスを誘いきるには十分すぎる色だった。

「あ、わっ……」

「ホント、セイランってどこまでも罪深いよねぇ……」

 ルピナスはそんなセイランを強く抱きしめる。セイランを堪能するようにスリスリと額を擦り付けたルピナスは、一度セイランを離して自分から下ろすと湖の縁へ行き、そこに背中を預ける。そして「おいで」と両手を広げるルピナスに、セイランは身を返して正面から身を寄せた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

処理中です...