ある魔法使いのヒメゴト

月宮くるは

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第四章

第四十四話 *

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 ルピナスは後ろからセイランに抱きつき、伸びた手首を捕まえて手を引くように促した。背中から、人肌の柔らかさと体温が伝わってくる。セイランは大人しく手を引き、代わりにルピナスに背中を預けた。

「触っていい?」

「ん……、気、使わなくていいから……、こないだみたいに、して欲しい……」

 ルピナスはそっと背中を抱きながら、自分の膝の上にセイランを乗せる。普段ならば体格差から難しい体勢だが、水の中にいることでセイランの体が浮き、ルピナスでも乗せることを可能にしていた。ルピナスは膝の上でセイランの両足を開かせ、そこに手を忍ばせる。セイランとしては、体の奥が求めているのは愛撫ではなく今自分の尻に触れているルピナスの自身であるため、「さっさと挿れて欲しい」という意味で言ったのだが、ルピナスはまだ挿れようとはしなかった。

 ルピナスの手が、やんわりとセイランの性器を包みクリクリと亀頭を刺激していく。やけに敏感な体はそれだけで体を震わすような快楽を拾ってしまう。もはや今更ルピナスにその敏感さを隠す必要などはないのかもしれない。それでも何故か今日はこれまでよりルピナスに痴態を晒すことへの羞恥があった。セイランは頭を横に倒し、ルピナスの胸元に頬をつける。

「ねぇ、セイラン。手、空いてるよね」

「ぅ、ん……?」

「セイランが自分でお尻弄ってるところ、見たいなぁ」

 ルピナスはセイランの額についた髪を分けながら、頭上で甘く囁いた。羞恥と戦っている最中のセイランは、咄嗟にルピナスが発した言葉の意味を理解できず硬直する。

「……、……っ! な、なんで、そんな……!」

「なんでって、ボクとシたいんじゃないの? ならちゃんと慣らしなよ。ボクこっち触っててあげるからさ」

 水飛沫を上げながら顔を上げると、赤くなった頬がルピナスへと晒された。慣らさなきゃいけないことは分かっている。そうしないと裂けるかもしれないし、奥まで入らないかもしれない。これまでに自分でやってみろと言われて目の前で足開かされて自分の指で抜いたことはいくらでもある。でも、今日はその今までとは何か違う。

 ルピナスの手が裏筋を撫でて、カリ首を指の腹で絶妙な刺激を送ってくる。その手は決して奥まった所へは伸ばされなかった。これじゃ、足りない。もっと、もっと奥の気持ちいいところに触れられたい。制欲が羞恥を上回るまで、そう時間は掛からなかった。

「……っん、ぅ、ぁ……ッ!」

「そう、ちゃんと慣らせたらご褒美あげるから、ね」

 右手の中指を自分の後孔に触れさせ、中へと侵入させる。その指を自分の好きなところへと向かわせ、指の腹でウリウリと弄ると甘い快楽に身体が満たされていった。気持ちいい。でも、違う。欲しかったのは、こんな快感ではない。セイランが求めているのは、背後からこのいやらしい手の動きを見下ろしている男から与えられるものだ。

 指を増やして、腹側の一点を責めれば確かに身を震わすほどの快感を得られる。気持ちいい。でもこれじゃ足りない。

 ――早く、欲しい。

 蕩けた頭では目先のことしか考えられず、セイランは強引に指を三本に増やし、押し開く様にして指を挿入する。早急すぎる拡張は、何度も犯された経験のあるセイランでも痛みがあった。それでセイランは指を減らさず、そのまま内壁を押して広げようとする。痛みから目を逸らすため、セイランはキュッと目を瞑り前を愛撫してくれているルピナスの手の方に感覚を向ける。ルピナスが亀頭を手のひらで覆い、キツく握り込んだのはその瞬間のことだった。

「あ……ッ!」

「セイラン、それじゃご褒美あげないよ?」

「え、ぁ……」

 ルピナスのそれも痛みがあるはずなのに、セイランには痛みすらも快感となって背筋を駆け抜ける。それでつい止めていた右手をルピナスが優しく撫でた。その手はセイランに指を抜くように促す。

「だめだよ、ここは繊細なんだからもっと優しくしないと」

「だ、だって……、……、」

「何? これまでこうされてたの?」

「それはそうだけど……、早く、欲しくて……」

 小さく唇を震わせて、やっとのことで本音を伝える。こうしている間も後ろも前も続きを求めて震えていた。ルピナスはセイランの精一杯のおねだりに対して何も言葉を返さず亀頭に重ねていた手を奥へと伸ばした。

 ルピナスは中指を立て、一度奥へと深く忍ばせる。グッと押し込まれた指は最奥には微妙に届かせず、絶妙な位置を撫でて抜かれていく。そしてまた挿れられ、最奥には触れず抜かれる。その指は浅い位置にあるふっくらした場所も決定的に触れることはせず、その周囲を円を描くようにくすぐって離れていく。

「イイところ触ってないのにきゅんきゅんしてるよ?」

「っ、あ……、それは、あんた、だから……」

 焦らされているような動きは物足りなくて仕方がないのに。ルピナスの指に対して、セイランは確かに反応していた。気持ちいいと答えるように収縮を繰り返し、もっとと言うように締めてしまう。自分で弄るのとは違う。満たされているのは、性欲だけではない。ルピナスが触れてくれているという事実が、心の奥を暖かくしてくれる。

 これはルピナスの術だからだろうか。しかし、この間までそんなことはなかったはずだ。

 頬を髪色と同じくらいに赤く染めて、初めて抱かれるかのようにいじらしく上目遣いでルピナスを見つめるセイランの瞳は、周囲の魔法石の光を反射して鮮やかに揺れている。それは余裕を見せていたルピナスを誘いきるには十分すぎる色だった。

「あ、わっ……」

「ホント、セイランってどこまでも罪深いよねぇ……」

 ルピナスはそんなセイランを強く抱きしめる。セイランを堪能するようにスリスリと額を擦り付けたルピナスは、一度セイランを離して自分から下ろすと湖の縁へ行き、そこに背中を預ける。そして「おいで」と両手を広げるルピナスに、セイランは身を返して正面から身を寄せた。
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