ある魔法使いのヒメゴト

月宮くるは

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第二章

第二十四話 *

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 その間もルピナスはセイランを押さえ付けたまま、体を倒してセイランに身を重ねる。下ろした頭はセイランの耳元に向かい舌先を細く立てるとつつ、と輪郭線をなぞるように耳の下から顎へのラインを伝っていく。その熱に、ぞくぞくとした感覚が背筋を抜けていく。

「ひ、ぅっ、あんた、さっき自分でシないって……!」

「何もしない、とは言ってないよ? 大丈夫大丈夫、ちょっとだけだから……ね?」

「ね、って言われても……ぁっ、……!」

 明らかに目の色が変わったルピナスは、シーツに広がるセイランの柔らかい赤糸を優しく撫でながら耳たぶを甘噛みする。ふ、と熱い吐息を耳に吹きかけられ、セイランは一気に頬を染めると逃げるように顔を逸らした。それで首が伸びたのをいいことに、次はまた舌先がうなじをくすぐっていく。

 他人にそんなところを舐められるなんて経験が少ないどころか考えたこともなかったセイランは時折くすぐったさで体をびくと跳ねさせてしまい、その都度恥ずかしそうに身を丸める。この程度で感じているとは思われたくなくて、必死で声を押し殺すと、わざとかと思うような唾液の音が耳を掠めた。

 その間にルピナスの手は下着をたくし上げ、素肌を空気に晒していく。ここに運んできた際にルピナスに脱がされたのだろうか、セイランはもともと下着のみの状態でベッドに寝かされていた。そのためルピナスが暴くのも当然容易いもので、ルピナスは眼下に至る所に古い傷跡を持つ体躯を広げる。

「セイランって、ここ、感じる?」

「ぁっ、え……?」

「ま、これから試せばいいか」

 ルピナスが指の腹でふにふにと押していたのは、胸部の先。乳首だった。感じるか、なんて聞かれても。自分は男なのだから、感じるはずがない。というのがセイランの見解だった。戸惑うセイランをよそに、ルピナスは体を少し下に動かし、舌先をまだ主張すらしていない桃色に触れさせた。くるくると円を描くように舌を動かし、先を唇ではんで持ち上げる。もう片方は指の腹ではじくようにしてなだらかな胸に突起を描こうとしていた。

「……ぅ、っ、」

 そんなことされてもくすぐったいだけだ、と思っていた。だが、セイランに襲うのは、微かではあるけれど、確かな快感だった。それを示すように、最初は形のなかったそこにぷくりと突起が浮かび上がっていく。それをつまんだり、指の腹で転がしたり、舌で遊ばれたりしていると、時折急所を掠めるような快感が腰を揺らしていた。

 ルピナスが胸の周りに何度も口づけるリップ音が耳まで犯していく。それは自分がルピナスのものになっている気分にさせていく。ルピナスに触れられているときはいつもそうだった。五感から体の芯まで、犯されているような。そんな感覚が体を簡単に包んでいく。

「せーいらん?」

「な、んだ?」

「ふふふ、下、勃ってるよ?」

「っ! ぁ……、」

 ルピナスの膝が、股を下から押し上げるようにしてその存在を示してくる。くすくす笑うルピナスに反して、淡い快楽に溶けかけていたセイランは顔に熱を宿し、羞恥に染めていく。

「……どうしたい?」

「おれは……、おれは、別に……」

「ホントに?」

 あれだけ乗り気じゃなかった矢先、今さら欲しいなんて言えなかった。こんなにしたのはルピナスなのだから、責任を取れと言えばそれでいいのだが、セイランにはその発想が浮かばなかった。

 あのルピナスの術の効力さえあったなら、今頃セイランは後先考えずにルピナスを求めていた。しかし、今セイランがルピナスを求める理由は術の影響でも何でもなく、ただただ純粋に快楽が欲しいからだった。セイランを見下ろすルピナスの目は、変わらぬ余裕を湛えている。ルピナスから強引に犯してもらうことは望めない。

 それならば、もう。

「……、……っ!」

「わっ、セイラン?」

「な……ここ、熱いんだ……少しだけでいいから……」

 術がかかっている振りをして、誘うしかなかった。セイランはぐっと胸元にあったルピナスの手を強引に取り、それを自らの下腹部に当て、ねだるような上目遣いで後ろの快楽をルピナスに求める。ルピナスはその誘惑に、ほんの微かに驚いたような表情を見せるがその表情はすぐに悪魔のような楽しげな笑みに変わる。

「……弄って欲しいの?」

 導かれた先の下腹部を押し込むルピナスに、セイランは黙って首をコクコクと縦に振った。それを確認すると、ルピナスは指を這わせるようにして腰から下着を下ろしていく。露になるセイランの自身は、確かに緩やかに立ち上がっていた。

 ルピナスはその場で身を起こすと、ベットサイドに置いていた瓶を手に取り、中身を垂らす。やけに準備がいいことで、「やっぱりするつもりだったのか」とセイランは目を細めた。

「でも、明日歩けないと困るからね。今日は挿れないよ? 指で我慢してね」

「ぁっ、ん、……わかった、っ!」

 ルピナスの指は、後孔の入り口をしっかりほぐしてから、中指をつぷつぷと中へと進めていった。昼間も受け入れていた矢先、指一本くらいは簡単に飲み込んでいく。その指は中の熱を確かめるようにくるくると回され、ゆっくりと出して入れてを繰り返される。潤滑に動くようになるとルピナスは一度奥まで入れた指をそこで止め、第二間接からくっ、と指を曲げる。その指の腹が触れたのは、他と違う膨らんだ部分。

「あっ……!」

「ん、ここイイよね」

「うん……そこ、すき……」

 ルピナスがそこを腹の方へ押す度、痺れるような快楽が襲う。気持ちいいと応えるようにぴくぴくとそこを震わせるのを指先で感じ取ったルピナスはちらとセイランを見上げ様子を見る。すると恥ずかしそうに身を丸めながらも素直に快楽に頷くセイランの姿がそこにあった。

「……だめだよ」

「へ?」

「ボク今日は我慢しないといけないんだから。そんな顔しちゃだめだよ。ずるいなぁセイラン」

「え、え? ご、ごめ……」

「いいよ平気。本能にかまけて怪我人犯すほどボクの理性はやわじゃないもんなめないでよシないって約束したからシないの、男に二言はないよ」

 内容の割には余裕のない早口でまくし立てられる。セイランの位置からではルピナスの表情はほとんど見えないが、どう考えても平気ではない。恐らく今すぐにでも突っ込みたいくらいなのを、ギリギリで踏ん張っている。それはセイランが怪我人だからではなく、もはや自分のプライドが止めているようだった。

 自分で挿れないって言ったのだから。こんな野生の本能に、孕むくらいに犯したいなんて欲に、負けたくない。

 そんな顔をしているような、そんな気がした。もしそうなら、ルピナスを誘ったのは、間違いなくセイランである。それならば、責任持ってそのプライドを守り、ルピナスの欲を発散しなければいけない。

「なぁ、……熱いの、欲しい」

「んんんだから誘わないでって……」

「だって、これじゃ、あんたに犯されてるのか分からない。……当てるだけでいいから、挿れなくていいから、……突いて、欲しい」

「……そう」

 セイランが提案したのは、いわゆる素股だった。ルピナスは静かに指を抜くと、膝立ちになりセイランの腰の下に枕を置き、腰を浮かせる。指に残っていた潤滑油を取り出した自身に滑らせ、熱を持った先端を後孔の少し上の辺りに触れさせた。

「頭、出来るだけ揺らさないようにね。痛かったらすぐ言って」

「ん……、」

 ルピナスが腰を寄せると、質量を持ったものがそこを圧迫した。セイランが静かに頷いて衝撃に備えるようにシーツを握るのを見下ろし、ルピナスは小さくほくそ笑んだ。

「セイラン口押さえなくていいの?」

「ん?」

「ボクのこと見くびらないでよ」

「なに……、っ、あ"っ!」

 言い終わるや否やルピナスはある一点を突くようにして腰を強く叩きつけた。そこは肛門と睾丸の間にある会陰部。その中のちょうど前立腺の外側の位置。まるで位置を知っていたかのようにそこを的確に突かれ、中を突かれた時と同じくらいの快楽が身体を揺らした。ルピナスは一度で容赦をするといったことは勿論ありはせず、何度もそこを突き続ける。
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