純愛Lovers

らいねこ

文字の大きさ
上 下
4 / 71
入学式

入学式 2

しおりを挟む
どんなに待っても、身体に痛い衝撃が…来ない。


感じたのは誰かに身体を支えられたようで、しっかりと胸に抱きしめられていた。


ぎゅっと強くつぶっていた目をおそるおそるゆっくりと開くと、自分とは違うネクタイの色が目に入った。


「あ…」


(今年の1年生は赤色のネクタイで、確か2年生は青色のネクタイ、3年生は緑色だったはず…)


その年によって紫色だったり黄色だったりと色が違うらしい。


目の前のネクタイの色は青色、なので2年生の先輩だ。


「大丈夫?足とか捻ってない?」


優しく聞かれた。


とても心地よい声色にぼーっとしていたら、心配したように声をかけられた。


「どこか痛い?」


その言葉にハッと我に返った。


「い、いえ、なんともありませんっ」


抱きしめられていたままだったので、慌てて身を起こした。


咲の顔は下を向いたまま、恥ずかしくて相手の顔も見れない。


すると、窓から桜の花びらが風でヒラヒラと舞いながら廊下に入ってくる。


それに導かれるように視線が動く。


「わぁ…きれい」


助けてくれた人が、くすっと笑う。


咲は、また下を向いてしまった。


桜をみとれている場合じゃない。


「すみませんでした!!」


(助けてもらっといて、違うことに目移りをするなんて!)


慌てて謝罪すると…


「怪我、してなくてよかった。この学校の周りは四季折々の植物があるから、季節でまた違う風景が見られるよ」


優しい声の持ち主はそう言うと、咲の身体を半回転させ、咲の教室を指差した。


「教室はあそこだよ。入学おめでとう!!」


「あ、ありがとうござい…」


後ろ向いてお礼を最後まで言う前に、助けてくれた恩人はもういなかった。


「…」


一体誰だったのか、顔を見なかった。


そして、さっきよりも廊下に新入生が少なくなっていたので、慌てて教室に入るしかなかった…。


すぐに担任が教室に入ってきて、今後の説明をする。


「入学式のため、すぐに体育館に移動してもらう」


体育館に全校生徒が集められた。


先生について行き、説明を受けた天はその後、同じクラスの列に整列をした。



入学式が始まり、理事長、校長、来賓、電報などの祝辞を次々に進行していく。


次は新入生代表の天の番だ。


「それでは新入生代表、高城 天君、お願いします」


進行係が、天の名を呼ぶ。


「はい」


天が返事をし、椅子から立ち上がり壇へと進んで行く。


凛としたその姿に、咲は誇らしかった。


しかし咲は天よりも緊張していて手のひらが汗ばんでいて、ドキドキと心臓が高鳴る。


(天ちゃん、頑張って!!)


「私たちの為に、入学式をこのような盛大にして頂き、ありがとうございます…」


天はカンペの紙を持っているわけでもなく、まっすぐ前を見据えて丁寧に答辞を述べている。


(天ちゃん、すごい!暗記したんだ!!)


顔色を一つも変えずに堂々としていた。


今、天が話しているのは数日前に咲と一緒に考えた答辞だ。


一緒といっても言葉は天が考えて、咲は言葉のニュアンスや文章の前後がおかしくないかを見ただけで。


(良かった…、文系が得意で)


少しだけでも天の役に立てた事が嬉しかった。


天の素晴らしい答辞は終わった。


皆から拍手が沸き起こる。


咲も惜しみなく拍手をした。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[BL]デキソコナイ

明日葉 ゆゐ
BL
特別進学クラスの優等生の喫煙現場に遭遇してしまった校内一の問題児。見ていない振りをして立ち去ろうとするが、なぜか優等生に怪我を負わされ、手当てのために家に連れて行かれることに。決して交わることのなかった2人の不思議な関係が始まる。(別サイトに投稿していた作品になります)

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

ガテンの処理事情

BL
高校中退で鳶の道に進まざるを得なかった近藤翔は先輩に揉まれながらものしあがり部下を5人抱える親方になった。 ある日までは部下からも信頼される家族から頼られる男だと信じていた。

ハルとアキ

花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』 双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。 しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!? 「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。 だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。 〝俺〟を愛してーー どうか気づいて。お願い、気づかないで」 ---------------------------------------- 【目次】 ・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉 ・各キャラクターの今後について ・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉 ・リクエスト編 ・番外編 ・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉 ・番外編 ---------------------------------------- *表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) * ※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。 ※心理描写を大切に書いてます。 ※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

処理中です...