リトル・ドラゴン

藤和

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第五章 竜と人間

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 コンとシュエイインが人間になると聞いて落ち込んだけれど、私はいつか、生まれ変わったコンを探しに行こうと決めた。だから、その日のために竜神見習いとしてのお仕事をがんばった。
 それからしばらく経って、体はまだ小さいけれど大人になって竜神になった。これでもう、私は人間のいる世界全てを回れるようになったのだ。
 竜神の仕事をしながら、満月と新月の日に世界中を回ってコンのことを探した。そうしていると、世界のあちこちで戦争が起こったりもしていた。
 コンが人間になると決めてから、大きな戦争が二回もあったし、小さな戦争はそれこそ何度もあった。それを見る度に、コンが戦争に巻き込まれていないかどうか心配になった。けれども運のいいことに、戦争が起こっているところにコンはいないようだった。

 コンを探し始めてどれだけ経っただろう、最近はインターネットというものが私達竜神の間にも普及してきて、たまにお兄さんとお姉さん達がパソコンを見ている。私もたまに覗かせてもらっていた。
 そんなある日のこと、お姉さんが見ていたお菓子のブログが目に入った。そのブログには、コンが作ったのとそっくりな薔薇のパイの写真が載っていた。
 もしかしたら、このブログを書いてるのはコンかもしれない。そう思った私は、このブログを書いている人がいる国の中をじっくりと探した。
 そしてある夜のこと、ついにコンを見つけたのだ。
 姿形は、まるっきり変わってた。でも、私にはすぐにわかった。だって、根っ子の部分はなにも変わってなかったのだもの。
 コンが周りに誰もいない街中を歩いているときに声を掛けた。すると、コンはびっくりして振り返って、私は誰かと聞いてきた。そう、私のことをすっかり忘れてしまっていたのだ。
 そのことにショックを受けて、でも、コンと一緒にいたくて、コンの家まで着いていく。すると、今日はもう暗いし、これ以上遅くなると帰り道も危険だから、また後日来ることにして今日はもう帰った方がいいと言われた。
 私のことを覚えてなくても、コンはやっぱり私に優しくしてくれた。それがうれしくて、私は次に行く日のことを考えながら雲の宮へと帰っていった。

 雲の宮に帰って、お兄さんとお姉さん達にコンを見つけたと報告すると、白竜お兄さんがあわてて私にこう言った。
「シャオロン、もしかして、人間になったそいつのお嫁さんになる気か?」
 その質問に、私はすぐに答える。
「もちろん。お嫁さんにしてもらうって約束したんだもの」
 すると、白竜お兄さんだけでなく、緑竜お兄さんも、黄竜お姉さんも、赤竜お姉さんも慌てたように私に話しかけてくる。
「だめだよ、相手が人間なんて。何があるかわからないよ」
「そうそう。それに、人間はすごく寿命が短いんだよ? またシャオロンが置いてけぼりにされちゃう」
「シャオロン、考え直さない?」
 みんな私がこんなお嫁さんになることに反対するけど、私は諦められなかった。
「いや! 私はお嫁さんになるの!」
 そう言って私は自分の部屋に戻って閉じこもる。
 今度コンの家に行くまで出ないんだから。

 それから、お兄さんとお姉さん達の反対を押し切ってコンの家に何度も通った。正確には、コンは今、二郎さんと言う名前らしく、そう呼んでくれと言われた。
 それで、二郎さんの家に何度も通って、その度に二郎さんは私のためにお菓子を作ってくれていた。薔薇のパイも月餅も、前と同じ味だった。
 はじめのうち、二郎さんは人間じゃない私をお嫁さんにするのは難しいと言っていたけれども、それでも、私が家に行くのを嫌だとは言わなかった。
 私が二郎さんの家に通い始めて少し経った頃。人間からすれば結構経った頃。二郎さんがいつもより食台の上をきれいにして、お花も飾って薔薇のパイを用意して、私にこう言った。
「シャオロン、俺、色々考えたんだけど、聞いてくれる?」
「なぁに? どんなお話?」
「あの……俺のお嫁さんになってください!」
 それを聞いて、私はぼろぼろと泣いてしまった。やっと、私はこのひとのお嫁さんになれるんだとうれしくなった。
 その日は二郎さんの作った薔薇のパイを食べて、一緒に過ごして、夜遅くなる前に雲の宮に帰った。
 雲の宮に帰ってから、私は二郎さんのお嫁さんになると言うことをお兄さんとお姉さん達、それに青竜に言った。お兄さんとお姉さん達は大騒ぎだったけれども、青竜はにこにこと笑ってこう言ってくれた。
「私達竜は、今まで人間を避けて過ごしてきたけれども、もしかしたら人間との付き合い方を変える良いきっかけかもしれない。
シャオロン、しあわせになるんだよ」
「はい!」

 それから、私は二郎さんと一緒に暮らす準備をして、結婚式をして、一緒に暮らしはじめた。
 これから竜神の仕事をしながら人間と暮らすのは大変かもしれないけど、とてもしあわせだった。
 そんなある日のこと、近所に引っ越してきたという人が挨拶に来た。二郎さんがその人たちを出迎えたので私もようすを見に行くと、人の形になった白竜お兄さんと黄竜お姉さんだった。
「シャオロン、なにか危ない目に遭いそうになったらすぐに俺達のところに来るんだぞ」
 そういう白竜お兄さんに、二郎さんがびっくりした顔で私に訊ねる。
「え? この人達シャオロンの知り合い?」
「白竜お兄さんと黄竜お姉さん」
 私の返事に、二郎さんは緊張した顔で白竜お兄さんと黄竜お姉さんに言う。
「それは気がつかなくて失礼しました。
あの、よかったら少し上がっていってください。お菓子を焼いてあるので」
 それを聞いた白竜お兄さんと黄竜お姉さんは、挨拶をしてから家の中に上がる。それから、テーブルの椅子に座って、二郎さんが焼いた薔薇のパイを食べた。
「……おいしい……」
「……おいしいね……」
 よかった、白竜お兄さんも黄竜お姉さんも、二郎さんのお菓子が気に入ったみたい。
 二郎さんがお兄さんとお姉さんに言う。
「もし気にいったなら、たまに来てくださいよ。お菓子はよく作るんで。
それに、シャオロンも喜ぶだろうし」
 それを聞いて、白竜お兄さんも黄竜お姉さんもにっこりと笑う。どうやら仲良くやっていけそうだった。

 それからというもの、白竜お兄さんと黄竜お姉さん、それに話を聞いた緑竜お兄さんと赤竜お姉さんも時々家に来つつ、みんなでお菓子を食べて楽しく暮らした。
 これがいつまで続くかわからないけど、二郎さんの寿命が来るまでは、きっとしあわせなんだ。
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